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四話



 帝国都市リンカー。


 ガルド大陸最大の領土を持つパラメニア帝国の首都でもある。


 帝国を統べる王が住む絢爛豪華な王宮の他、ダンジョンに挑む冒険者達を総括する荘厳なギルド本部を備えるパラメニアの心臓部だ。


 昼は大規模な市場で賑わう広場が主役だが、夜は国内最大級の歓楽街が主役だった。


 人間が統べるパラメニアは奴隷貿易で財を成した。


 他人種の領域に攻め入り、土地を奪い、住民を隷属化する。


 亜人は人より力が強く、魔力の扱いにも長けているが数は少ない。


 その弱点を圧倒的な数の力で突いたパラメニアは三百年もの征服戦争によって広大な支配地域を手に入れた。


 力の強い男は傭兵として使い、魅力的な女を娼婦として宛がった。


 どちらにも適さなければ雑用などの使用人としてこき使われる。


 極一部、優秀な者はギルドなどに所属し、一定の自由を手に入れている。


 争乱の世では屈強な傭兵達を他国に派遣することで稼いできたが、太平の世では豊満な娼婦達で利益を上げた。


 特にリンカーの歓楽街には他国からも人が集まり、一大産業となっている。


 人間の女とは違い、亜人は全体的に肉付きが良く、特に胸は人間だとかなり大きなサイズでも亜人だとそれが平均なので人気が高い。


 酒場や娼館が盛り上がる中、クレイは道の端っこを彷徨うようにとぼとぼ歩いていた。


「ボクー。お姉さん達と遊ばな~い?」


 ほとんど裸同然の服を着た亜人の娼婦達に声を掛けられてもクレイは下を向いたままだ。


 クレイは決して才能に恵まれてはいなかった。


 紋章使いとしても高い能力を持っているとは言えない。


 しかし努力は重ねてきた。


 朝早くから夜遅くまで文献を読み漁って知識を付け、実際に使えるよう技術を研鑽する。


 人よりできないからこそ人一倍頑張ってきた。


 努力はいつか報われると信じて。


 だが現実は厳しかった。


 才能のない者や生まれついての身分が低い者がいくらもがいても、スタート地点で負ったハンデを跳ね返すのは困難だ。


 クレイもまた才能の壁に跳ね返された一人だった。


(……はあ。明日からどうしよう……)


 いきなり無職となったクレイは悲嘆に暮れていた。


 ただでさえ紋章使いは就職が難しい。


 別の職に就こうとしてもクレイは他になにかできてることがなかった。


 だからこそ懸命に技術を磨いてきたのだが、それが裏目に出てしまった。


 リンカーに行けばなにかが変わる。


 希望を胸に田舎から出てきたクレイもそう信じた一人だった。


 だが今はものの見事に期待を打ち砕かれてしまっている。


 それは欲望渦巻くこの大都市では日常茶飯事だった。


 才能ある者は成功し、そうでない者は選択を迫られる。


 この街に染まり諦めながらもしがみつくか、夢を捨てて去るかだ。


 そしてクレイもまたそのどちらかを選ばなければならない状況に陥った。


 知り合いや親戚も乏しい田舎育ちのクレイのような少年にはリンカーに住み続けるだけでも大変だった。


 クレイが何度目か分からない溜息をついた時だった。


 ふと声をかけられる。


「そこの者。なにかあったのか?」


 クレイが声の方を向くと建物と建物の僅かな隙間にある路地裏に怪しげな占い師が椅子に座っていた。


 小さなテーブルに水晶玉を乗せたその占い師の顔はローブのせいでよくは見えない。


 体型は子供のようだがテーブルに乗った二つの大きな胸は大人顔負けだった。


 ローブの耳のところが膨らんでいるので亜人であることは間違いなさそうだった。


「……えっと、僕のことですか?」


 クレイが自分を指さすと占い師はこくんと頷く。


「そうじゃ。お主じゃ。顔色が悪いぞ」


 クレイは苦笑いした。


「そりゃあまあ、そうでしょうね。クビになったばかりですし……」


「なんじゃ。そんなことがあったのか。どれ。ならサービスしてやろう。今日はタダで占ってやるぞ。ほれ。近うよれ」


 手招きする占い師をクレイは警戒したが、今後のことはなにも決まっていなかったので話に乗ってみることにした。


 クレイが近づくと占い師は大きな胸の前に置かれた水晶玉を覗き込む。


「……ふむ。なるほどのう」


「? なにか見えたんですか?」


「うむ。お主には隠された才能が眠っておる。まあ、これはほとんど誰でもなのじゃがな」


 クレイは期待して損をした気分になる。


「お主が信念を曲げず、諦めなければ多くの者を救う先導者になれるじゃろう。だが、その道は長く険しいがのう」


「……あの、話が見えないんですけど。次の就職先とかって分かったりしますか?」


「なんじゃ。そんなことが知りたいのか。むう。仕事の運はなさそうじゃな。どこに行っても切られるのがオチじゃろう」


「そんな…………」


 クレイは絶望した。


 いくら努力をしてもそれが実ることはないと言われた気分だった。


 肩を落とすクレイに占い師は言った。


「もう一度見つめ直すべきじゃな。お主がなにをしてきて、なにがしたいのかを」


 そんなことを言われてもクレイは分からなかった。


 努力は報われると信じてきたのにこの様だ。


 クレイは意気消沈し、俯きながら占い師の元を去った。


 その後、一人になった占い師の口元は微かに笑っていた。


「ククク。ようやく見つけた」


 占い師の独り言は誰にも聞こえず霧散した。


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