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二十四話



「百年前。


 リンカー帝国は三百年間もの征服戦争によって周辺にあった亜人の国々を駆逐したのじゃ。


 それによって亜人達は奴隷となり、それを輸出入することで帝国は栄えた。


 なぜ人間より魔力の扱いに長け、肉体的にも強い亜人が負けたのか?


 答えはその文化にある。


 亜人はそもそも同じ種同士でしか一緒に暮らさない。


 エルフはエルフ。ドワーフはドワーフとだけ住む。


 貿易などは盛んに行われていたが、コミュニティーは小さなままだった。


 そこを帝国は突いたのじゃ。


 圧倒的な人数を戦場に投下して個で上回る亜人との武力差をなくし、更に一度に狙うのは一つの種族だけに限定した。


 亜人同士も同盟を組むなどで対応しようとしたが、そもそも共闘などという文化がないために敗北を繰り返した。


 次第に多くの国家が消滅していき、最後はゲリラ戦となったのじゃ。


 それも長年の亜人狩りによって勢力を削がれ、今ではほとんどが消え去った。


 男達が殺された亜人達。


 女、子供は連れ去られ、商人達に奴隷や娼婦として売られていく。


 安価な戦闘力や労働力で帝国は繁栄し、今では横に並ぶものはない。


 しかし全ての亜人達が諦めたわけではないのじゃ。


 亜人の地位向上や独立を目指し、多くの者達が秘密裏に動いておる。


 妾もその一人じゃ」


 シャーロットは大きな胸に手を当てた。


「奴隷化された亜人を解放し、自由を得る。その為にわざわざエルフの森から派遣されたのじゃ」


 その場所にクレイは聞き覚えがあった。


「でもエルフの森って帝国の支配地域になったんじゃ? そこにいたエルフ達は全員捕まえられて奴隷として売られたって聞いてますよ?」


「たしかに多くの仲間が捕まった。エルフはそもそも数が少ないからのう。しかも体も強く、魔力も多い。高級娼婦やギルドの一員となっている者ばかりじゃ。だが森は深いのじゃよ。人間が踏み込むこともできない奥深くに我々はまだ残っておる」


 クレイ達が知っている情報とはまるで違った。


 だが実際、シャーロットの首には奴隷の証である首輪は付けられていない。


 しかしシャーロットの姿はまだ幼く、信憑性があるとは言えなかった。


 アリアはクレイにひそひそと耳打ちする。


「ねえ。こんな話信じるの?」


「どうだろう……。でも解呪のことは本当っぽいし、首輪もしてない……」


「でもまだ自由なエルフがいるなんて聞いたことないわよ?」


「そうだけど……」


 不安そうなクレイの横で話を聞いていたアリアがシャーロットに尋ねた。


「どうしてクレイ様なんですか? たしかにクレイ様はお優しいですが、奴隷を解放するなんてそんな大それた話に向いているとは思えません」


(うっ……。分かってはいるけどはっきり言われると堪えるなあ……)


 クレイができるのは効果の薄い紋章術だけ。


 普通に考えれば落ちこぼれだ。


 そんな落ちこぼれに助けを求めるなど事の大きさから言えば筋違いだった。


 主人思いのアリアが警戒するのも無理はない。


 この街では何事も一筋縄ではいかないものだ。


 詐欺や盗みの被害なども少なくない。


 シャーロットの話も新手の詐欺だと考えれば頷けた。


 しかし疑われている本人は至って真面目だった。


 余裕を持ってニヤリと笑う。


「だからいいんじゃよ。無能だからこそ誰にも気付かれん」


 無能という言葉に胸を抉られながらクレイは疑問を持った。


「き、気付かれないってなにがですか?」


「エルフの森には多くの伝承が残っておる。妾達は長生きじゃからな。その昔、まだこの帝国がなかった頃、一人の王がおった。その者は亜人達を携え、多くの領土を得たと言う。王が配下となった亜人達は皆、普通では考えられないほどの力を得ていたそうじゃ。なにか心当たりはないか?」


 クレイはすぐさま気付いた。


「もしかしてアリアがビッグマウスを倒したのって……?」


「その通り。妾も遠くから見ておった。間違いない。お主がそこの娘に刻んだ紋章こそ、古代の王が用いた秘術そのもじゃ。その名も『リベレーション』。お主が聖刻印と呼んでいるものじゃよ」


「ちょっと待ってよ! あれは古文書からヒントを得て僕が作った紋章だ。それを元々あったものだなんて」


「古代の王が用いた秘術じゃ。書き残すにしても素人がマネできないよう細工をするのは当然じゃよ。おそらく意図的に情報が隠されておったんじゃろう。お主はそれを自分で補強した。分かる者が見れば足りないところはある程度予想できるからの。しかしそれができるのは限られた者だけじゃ。よっぽど努力したんじゃな」


 シャーロットはクレイに近寄ると背伸びをして頭を撫でた。


 今まで報われない努力ばかりしてきたと思っていたクレイは思わず涙ぐむ。


「よかった……。無駄じゃ……なかったんだ…………」


「ま。そういうわけじゃ」


 シャーロットはニヒヒと笑った。


「じゃが、まさかリベレーションがあんな模様とはな。よく考えたもんじゃ。あれなら女が付けている限り、娼婦の淫紋としか思わんじゃろうて。それとも逆かも知れんな。元々あったものをどこかの馬鹿が弱体化してしまったのが淫紋になったのかもしれん。本能を解放するという意味では似たようなものじゃからな」


 シャーロットはアリアとマリイに近づき、二人の胸を鷲掴みにした。


「あっ❤」


「んんっ❤」


 アリアとマリイは不意打ちに媚声を上げる。


「普通の淫紋でさえ、刻まれた娼婦は感度が上がって悶えまくるというが、その始祖であるものを刻まれたお主らはどうなるんじゃろうな? 今から楽しみじゃ」


 胸を揉みながら高らかに笑うシャーロット。


 アリアとマリイは頬を赤く染め、服を着たままでも分かるほど胸の先を膨張させている。


 シャーロットが胸から手を離すと二人は聖刻印が刻まれた腹部を触り、クレイを見た。


「まさかこれがそんなものだったなんて……」


「やっぱりクレイはむっつりだった……」


 クレイは慌てて顔の前で両手を振った。


「ご、誤解だよ! そんなものだなんて知らなかったんだ! 本当だって!」


 クレイは弁明するも二人はジト目を向けたままだ。


 シャーロットは他人事だと面白がった。


「カッカッカッ! まあなんにせよじゃ。お主は他人にはない力を手にしたんじゃよ。この世界の理を破壊せしめるほどの力をな」


 シャーロットは当たり前のようにそう言うが、クレイには実感がなかった。


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