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十七話



 奴隷である亜人は常に主人である人間の所有物になる。


 主人は奴隷が起こしたことの責任を負わせられるが、同時に様々な権限も持つ。


 その一つが所有権だ。


 所有権を持つと奴隷は常に主人の指示を聞く必要がある。


 もちろん犯罪の強制などはできないが、大半は黙認されていた。


 大金を払って買った奴隷が主人の手を勝手に離れるなど言語道断である。


 そうした奴隷は結局捕まり、そしてまた売られることが多い。


 従順でなかったり能力の低い奴隷はどんどん劣悪な環境に落ちていく。


 そういった環境から逃げ出す奴隷は少なくないが、ギルドの冒険者になった奴隷が主人を裏切って逃げ出すなんてことはほとんどなかった。


 とにかく主人から逃げるのは奴隷としては御法度なのだ。


 なのでクレイは慌ててマリイを自分達が泊まっていた宿に連れて行った。


 もう一泊するためのお金を払うとすぐさま同じ部屋が借りられた。


 マリイをベッドに座らせ、クレイは話を聞いた。


「なんで逃げたりなんかしたの?」


「それは…………」


 マリイは自分がされてきたことを思い出していた。


 とてもじゃないがクレイには言えないことばかりだった。


「と、とにかくイヤになったの。それでべつのギルドを探してたらクレイが出してた求人を見つけて」


「それで僕を探してたってこと?」


「うん」


 マリイが頷き、クレイは溜息をついた。


 後ろでアリアが疑問を抱く。


「だけどよかったじゃないですか。ちょうど一人見つかって」


 アリアは誰にも聞こえないようにボソリと「でれきば女の子じゃない方がよかったですけど」と付け加える。


 クレイは首を横に振った。


「残念ながらそういう問題じゃないんだ。マリイの所有権はブラッドファング、つまりライルが持ってる。これを譲渡か破棄かしない限り、マリイは自由にならない」


「え? じゃあ」


「この状況をライルに見つかったら訴えられるだろうね。奴隷の強奪は大罪だ」


 アリアは慌てふためいた。


「じゃ、じゃあすぐに帰ってもらわないと。……あ。いえ、その……」


 アリアはマリイと目が合うと気の毒そうに下を向いた。


 マリイは微笑む。


「気にしないで。あなたが言ってることが正しいから。でも……、あそこに戻りたくはない、かな。というよりも」


 マリイは顔を上げてクレイを見つめた。


 頬がほんのり赤く染まる。


 クレイは首を傾げた。


「どうかした?」


「ううん。でもクレイがギルドを作るなんてちょっと意外かも」


「だよね……。自分でも分かってるんだけど、なんかまあ、成り行きで」


「それって昔言ってた夢のこと?」


「夢? なんか言ってたっけ?」


「言ってたよ。みんなが平等に生きられる世界があればいいのにって。人間も亜人も分け隔てなく。そしたらもっとこの国もよくなるから」


 クレイは昔のことを思い出した。


 努力しても報われない人生だったが、それでも自由ではあった。


 しかしクレイより能力のある奴隷達にはそれがない。


 ギルドに入って真っ先に感じたのはその点だった。


 非力で才能がないからこそ、それを持つ亜人達に憧れ、同時に彼らが正当な評価を受けていないことに疑問を持った。


「そうだったね……。ごめん。僕みたいな奴がそんな大それたこと言って」


「謝らないでいいよ。あたしもそんな世界があってほしいから。だからあそこを抜けてクレイと一緒にいたいって思ったんだよ」


「マリイ……。うん。そうだよね。そんな世界になった方がいい」


 クレイは頷くが、それを現実にするのがどれだけ困難かもまた分かっていた。


 今のパラメニアでは亜人は全て奴隷でモノ扱いされている。


 いくらそのことに疑問を持ってもほとんどなにも変わっていないのが現実だった。


 クレイは思考する。


(どうするべきなんだろう……。このままじゃマリイを仲間にすることはできない。だからと言ってブラッドファングに戻ればどんな目に遭うか……)


 ライルの性格上、裏切り者には容赦がないだろう。


 マリイにどんな仕打ちが待っているか想像するだけでもクレイは身震いした。


 しかし奴隷の強奪が見つかればクレイは罪に問われる。


 クレイは大きく溜息をつき、苦笑いを浮かべた。


「と、とにかく今は保留ってことにしよう。もしかしたら交渉でマリイを僕らのギルドに入れられるかもしれないし。ってまだないんだけど」


 叶う可能性は低い提案だったが、マリイの表情は輝いた。


 クレイをまた抱きしめる。


「ありがと! クレイ!」


「ど、どういたしまして」


 クレイは顔を赤くしながらマリイの胸に顔を埋めていた。


 ズボンが張って、固い物がマリイの股に触れていたが、マリイは気付いていない。


 しかしアリアはそれを見ていて、呆れながらも優しい主人を見直していた。


 マリイは嬉しそうにクレイを見つめた。


「あたしをクレイのものにしてね」


「ものって……。でも、うん……。一緒に働けるようにがんばるよ……」


 クレイからすればマリイの戦力は非常に魅力的だ。


 残り一人がマリイになればこなせるクエストのレベルも跳ね上がるだろう。


 しかし現実問題としてどうすればマリイをこれから作るギルドに入れるべきかは今のところクレイには分からなかった。


 そしてまた新たな現実問題がアリアの口から持ち上がる。


「それでは一度話を置いておきまして、今日の夕飯を買うお金について考えましょうか」


 クレイは苦笑いを浮かべる。


「そうだね……。宿代も払っちゃったし、そろそろ働かないと危ないかも」


 既に昼の時間帯になっていた。


 薬草を売るにしても、買い取り手が市場にいる間に動かないといけない。


 マリイは尋ねた。


「それってクエストに行くってこと?」


「うん。と言ってもギルド本部が出してるのじゃないけどね。昨日は一日中薬草を集めてなんとか宿が取れたんだ。その残りも全部使っちゃったから、どうにかしないと」


「わかった」


「? なにが?」


「あたしもそれに協力するよ」


 マリイは自信ありげに笑った。


 クレイとアリアは不思議そうに顔を見合わせた。


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