独
三題噺もどき―さんじゅうなな。
吸血鬼の話―三個目ぐらい…?
お題:写真・吸血鬼・息子
月明かりの照らす、大きな屋敷の中。
1人の男が飾られていた写真を片手に立っていた。
「…………。」
その中には、向日葵のように晴れやかな笑顔の女性と、その女性に似て可愛らしい笑顔を浮かべる男の子。
写真の2人は、彼の妻と息子だった。
―しかし、その写真には彼は写っていない。
写ることが出来ない。
それは、彼が吸血鬼だから。
吸血鬼である彼は、鏡に映らないように、写真にも写ることはできない。
それでも、愛した家族の記憶を形にしようと、この写真を撮ったのだ。
:
100年ほど昔、彼は食料として彼女を屋敷に連れ込んだ。
いつかは食べるつもりであった。
始めはそのつもりだったのだ。
しかし、共に暮らすうち、何故かそうすることが出来無かった。
出来なくなっていた。
彼女を一生傍におこうとした。
共に、悠久の時を過ごしたいと願った。
しかし、彼女はそれを拒否し、真っ当に人間として一生を終えた。
年を重ね、老いていき、そのまま。
その後、蘇生させることも出来たかもしれないが、しなかった。
それから、彼は彼女の残した息子を立派な大人に育て上げようとした。
しかし、その子供は、大人になりきる前に、心が壊れてしまった。
吸血鬼とのハーフである息子は他の普通の人間と違うため、たくさんの罵りを受けた。
そうして、耐えられず自殺をしてしまった。
半分自分の血が、吸血鬼の血が入っている分、とても可愛そうで、仕方なかった。
―けれど、それを止める術も、言葉も、なかった。
彼は、一人になった。
:
それから100年が経ち、彼は毎日のように2人の写真を眺めては、墓参りに行くのだ。
毎夜、こうして、写真を見つめ、彼らを埋めて建てた墓場に向かい。
この100年。彼は何度も死のうとした。
そのたび、妻の顔が、息子の顔が浮かび、踏みとどまる。
最後の死に際に、彼女の放った言葉が、棘となって、彼を現世に縫い付けていた。
「私は、いつまでこちら側にいたらいいのだ……?」
悲痛な、小さな叫びは、屋敷に響く風の音に掻き消された。