ツアー
その日の夕方にリスのバッチ取得ツアーを開催をした。その時ログイン出来るクランメンバーを連れて行っただけなんだけれどね。
リリアンと話をしながら道案内をしていたけれど、いつもと様子が違っている気がする。メンバーもいつもの笑顔がない。マスターは今日来れなかった人に案内しなきゃいけないからっと、かなり真剣にマップを確認していた。入り組んだ場所だから、『もう一度一緒に行こうか?』と聞いたけれど断られた。帰り道は更に難しいから心配だったけれど、大丈夫と譲らなかった。
水路にたどり着くと、いつもの様に夏南ちゃんが絵を描いていた。大勢仲間を連れてきた私に戸惑っていたけれど、マスターを紹介して事情を説明すると納得していた。夏南ちゃんは出現時間を調べてくれたからという理由でスズメの情報を教えていた。
その後メンバーはリスを待つベンチに集まり、私は夏南ちゃんと二人で隣のベンチに座った。
「ごめんね、大勢で来ちゃって」
「ううん。でもビックリしたよー。バッチを集めると効果ありアイテムに交換できるなんて」
「うん。もう少ししたら、ここに人がたくさん来るようになっちゃうんだよね。静かで良い場所なのに……」
「そうだねー。ミーナちゃんとも会えなくなっちゃうね……」
「なんで?良い場所見つけたら教えてよ、いつでも会いに行くから!それに、私もうすぐマイホーム買えそうなんだ。夏南ちゃん、遊びに来てくれるでしょ?」
「うん、行くよー。絶対呼んでね」
「もちろん」
「あ、リス来たみたいだよ」
「本当だ。じゃあ、みんなの所に戻るね。いつでも連絡してね」
「うん、わかったー。ミーナちゃんもね」
メンバーの所に戻ると、全員無事にバッチが貰えて喜んでいた。
私が輪の中に入ると、みんなの表情が急にこわばり顔が青くなり泣きそうになってる人もいた。お互いに手を繋いでゆっくりと水路に向かって歩き出す。
あまりにも不自然な様子に声をかける。
「どうしたの?」
「うん、帰るんだよね?」
「死に戻り…するんだよね?」
「掲示板に『水路が見えたら諦めて飛び込め』って……」
「なんで?普通に歩いて帰るよ。ね、夏南ちゃん?」
後ろを振り返り同意を求めると、夏南ちゃんは視線をそらせて
「えっと……私も水路使うよ……死に戻りで経験値減っても気にならないしー」
「なんで?飛び込み自殺なんて、ゲームの中でも絶対ダメ!!!帰り道があるのに、なんで死ななきゃいけないの?ちゃんと歩いて帰ろうよ。夏南ちゃんもだよ!一緒に帰ろう……ね?」
水路に迷い込んだら抜け出すのは難しいため、死に戻りするしかないという情報がゲーム開始当初からあったようだ。クランメンバーは死に戻りしなくてすんでホッとしていた。
夏南ちゃんは絵を完成させるために残りたいと言ったので、今日来ていないメンバーをもう一度案内をするときに一緒に帰ることになった。
ゲームってこんなに物騒な世界なの?ちゃんと道を覚えれば帰れるのに、簡単に自殺するなんて怖すぎる。




