リス
今日はイベントなので、昼までに沢山ポーションを作る。午後からはリアルの事情でログインできない。
街を歩くと午前中だけれどもプレーヤーが多い気がする。準備やレベル上げに忙しいのかな?そう考えて、ふと私も『準備に忙しい人』に含まれるのだと気が付いた。私もプレーヤーの1人で傍観者ではないんだね。
人の少ない方へ歩き、見つけた水路の傍にあるベンチに座り読書を始めた。やっぱり本の世界は楽しい。
主人公のようになれたらいいのにって以前は漠然と考えていたけれど、リリアン達をみて気がついたんだ。どうせなれない・物語の中だけの話なんだって思い込んで、最初から諦めていただけだった。もっと自分を信じてチャレンジしたい。
本を読んでいた画面を閉じて、大きく深呼吸をする
少し離れたところに、リスに餌をやる女の子がいた。邪魔しないようにリスがいなくなってから声を掛けた。
「すいません、聞きたい事があるんですけどいいですか?」
「あ、はーい」
「さっきのリスって……」
「リス?あー、リスね。うんうん、可愛いよね。ここにいると寄ってくるんだ。たまたま食べてたクッキーの欠片あげたら一生懸命食べるのが可愛くて、素焼きのナッツ探しちゃったー。カリカリと頬張って食べてるの見てると癒されるんだよねー。リアルでもハムスター飼ってるんだけどね、やっぱり小動物って可愛いよね?」
「あ……はい……。あの、リスからバッチ貰えますか?」
「バッチ?あー、最初に貰ったコレ?」
「それです。ありがとうございます。いつもこの辺にいるんですか?」
「そうだよー、この辺り景色がいいし、人が少ないから絵を書くのに丁度良いんだよね。ごめん、敬語ナシにしない?私、敬語使うのも使われるのも慣れなくって」
「はい……あ、うん」
「そうだ。今コレ描いてたんだけど良いかな?ダメなら破いて捨てるけど……」
彼女が見せてくれたスケッチブックには風景画が描かれていた。端にいる女の子が私って事かな?服の色は似ているけれど、小さくて誰だか分からない。
「綺麗な絵なのに捨てちゃうなんて、もったいないよ」
「いいの?最初に話し掛けられた時、絵を描いてるの怒られるのかと思ったんだよね。ありがとう!!そうだ、名前聞いてもいい?私は夏南、フレンド登録しない?」
「あ、うん。ミーナっていいます。よろしくね」
「やったー、初めてのフレンドだー」
「え……なんで?いつも一人で狩りしてるの?」
「実はね……狩りしてないんだ。街の作りこみがスゴイってネットの情報を聞いて始めたの。最初は少し狩りしてみたんだ。でも、なんていうか……合わなくて。結局、ずーっと絵を描いてる」
「あ、私も狩りしてないよ。ずっと本を読んでるんだ」
「え!これって運命!?」
「ん?いや……そうでもないよ。昨日カフェで勉強するためにこのゲームしてる人と話したよ。時間が倍になることを利用してるだけの人も多少いるかもしれないね」
「そっかー。ゲーム内に二人だけの狩りしない人が出会ったのかと思っちゃった。それぞれで充実した時間を過ごしているんだねー」
「私は時間が倍になったから街を散策したり、女子会したり、今までやらなかった事を楽しんでるよ。それでもリアルで読書していた時間よりも多く読書できてるからこのゲームには感謝しかないんだ」
しばらくそれぞれの趣味の時間を過ごし、時間になったので「イベントが終わったらまた来るね」と伝えてログアウトした。
夏南ちゃんの距離感が近くて最初は戸惑ったけれど、普通にお喋り好きな子って感じで安心した。




