怪しい人?
土曜日、久しぶりにカフェにやってきた。
少し不安はあるけれど今日行かなければ、この先ずっと会議室やマイホームで過ごすことになってしまう。自ら世界を狭めてしまうのはもったいないと思ったんだ。
しばらく読書をしていると男の人から声をかけられた。
「すいません……ちょっと、いいかな?」
急に話しかけられて、必要以上に驚いてしまったかもしれない。
「えっと……怪しい人じゃないんだ。あ、うん。この前、男の人に声を掛けられて困ってたでしょ?あの時助けてあげれば良かったのに、オレ出来なくて……後悔してて……だから迷惑じゃなかったら、ここで一緒に……って、迷惑だよね、ごめんなさい。俺、あっちに行きます」
私があっけにとられてる隙に逃げて行ってしまった。
なんだったんだろう?どこかで見たような気がするけれど、思い出せない。
私が困っていた時に助けようとしてくれていたのは理解した。少し離れた席で私に背を向けて、何かをしてる様子から悪い人じゃない気がする。
何か返事をしてあげれば良かったな。
読書をしようと画面を開いて思い出した。彼は薬師ギルドでクエストをやっていた人だった。
お昼ご飯でログアウトする前に、さっき声を掛けてくれた男の人のところにいく。
「すみません。少しだけいいですか?」
彼はノートを広げて勉強していたようでペンを置き、私が声を掛けたことに戸惑っているようだった。
「せっかく心配して声を掛けてくれたのに、ビックリしちゃって返事もできなくて。すみませんでした」
「いや。オレが勝手に心配してるだけだし……迷惑だったよね」
「いえ、気にかけてくれる人がいるってだけで心強いです。ありがとうございます」
「ああ……それなら良かった」
「少し聞きたいことがあるんですが、いいですか?以前、薬師ギルドでウエストを受けていましたよね?クエストって、何か良いことがあるんですか?」
「お金が稼げるから……」
「1つ15Gですよね?プレーヤーに売ると80Gになるのに、どうして?」
「気が付いてるかもしれないけど……オレいわゆる『コミュ障』だから。最初は露店とか考えていたけど、精神的に無理だった。あ、あと……コレ貰った」
彼が私に差し出したカードには『Fランク薬師認定証』というものだった。
「作製時間を10秒短縮してくれるんだ」
「これって、掲示板に載ってない情報ですよね?うちのクラン内に話してもいいですか?」
「ああ……別に隠してるわけじゃないし」
「ありがとうございます。フレンド登録してもらってもいいですか?」
「あ……えっと……うー……」
急に頭を抱えて悶絶しているので、そっと名前を確認してみると『太郎』となっていた。
「あの……フレンドなんて出来ると思ってなくて……適当につけたんだ。だから……『太郎』です。すいません……」
名前を聞かれると思ってなかったのだろう。彼の挙動が面白くて笑いそうになるが、今笑ったら名前を笑われたって思って余計に恥ずかしくなるよね。すぐににフレンド登録をする。
「私はミーナです。何かあったら連絡しますね。じゃ、失礼します」
なんとか笑わずにカフェを出ることが出来た。太郎さん頭抱えて悶絶してたから、髪型ボッサボサになってるけど大丈夫かな?




