第10話 入学式
めちゃくちゃお久しぶりです。
GWで時間があったのと、モチベが上がってきたので続き書けました。もしお待ちしていた方がいれば本当に申し訳ありませんでした&ありがとうございます!
あともう1つ、前から読んでくださってる方がいるかわかりませんが、前話までを修正しました。話によっては細かいところにだいぶ修正が入っています。
ストーリーには変更ありませんので読み直すほどではありません。気になるかもって辺りだとテノの口調や牛車の存在などでしょうか。
初対面で異様なほどの好意を向けられ取り合われるという出来事があって、私はやっとあの精神世界とやらで神にもらった「転生特典」の意味を理解した。
そうして改めて世界を、生き物を見てみれば、これが普通なのだろうと思ったそれらは「転生特典」によって気味が悪いくらい機械的に作用しているだけだった。
何もしなくても動物は寄ってくる。性格に難のある人も私には甘い対応をする。
複数人で姿を見せればまず私の名前が呼ばれれ、他の子どもはそうでもないのに、私が近寄ると必ずみんな心からの笑顔を見せる。私がリーダーのような役割を果たすわけでもないのに、みんな私に駆け寄ってきていつの間にか中心にいる。
気味が悪かった。
ひどく気持ち悪かった。
だって、彼らは私を見ているようで、「愛される人」として産まれた虚像を見ているだけにすぎないのだ。
まるで、陳腐なゲームの主人公のようだった。この世界の中心は私で、世界の住人は主人公に対して必ず好意を示す。私に対する好意がプログラムされ、それに従って動くような人形だらけの世界。
それが恐ろしくて、気持ち悪くて。
だから、私も笑うことにした。
他人を見て覚えた笑みを浮かべる。こうして笑っていれば、私は好意を示されてもおかしくない。誰もが好む行動をしていれば、愛されていてもおかしくない。
いっそ、嫌われ者になってしまおうかと思ったこともあった。
“友達”が握っているおもちゃを奪い取って、壊してしまえ。“家族”の言葉も態度も拒絶して、家をめちゃくちゃに荒らしてしまえ、と破滅的な衝動に襲われることもあった。
──けれど、それでもなお愛されたら?
そう考えた瞬間ぞっと総毛立って、行動には移せなかった。反対に誰からも愛されるような言動をすれば、このどろどろと胸の奥に渦巻くものが少しでも薄らぐことに気がついて、そうやって生きていくことにした。
◇◆◇
周りの人たちを観察して、真似て、と少しずつ繰り返せば、やがて上手く笑顔を浮かべられるようになり、今までよりもコミュニケーションが円滑に進むようにもなって、あれ以降特に何かある訳でもなく、いつの間にか学舎の入学式を迎える頃になった。
この世界の3月に入ってから1週間ほどが過ぎ、そこら中で色とりどりの花が咲く春らしい季節になった。空には雲ひとつなく、入学式日和というやつだろう。
「鞄は持ったか?」
「うん!」
タオルと弁当箱と水筒を入れた布鞄をしっかり握って、父さんににっこりと笑って頷いた。
学舎は基本バス代わりに牛車通学なのだけど、保護者説明会もあるため入学式のみ保護者送迎らしい。なので仕事の母さんの代わりに父さんが学舎まで送ってくれる。なお入学式ではあるものの前世のようにたいそうなものはないらしく、父さんも数時間説明を受けた後そのまま仕事に行くらしかった。
学舎に着くと入り口前に2人の人が立っており、横には記号が書かれた華やかな立て看板が置かれていた。全く読めないけれど、町で時折見かけるこの世界の文字だということは知っている。
「おはようございます! あら、マーセインさん!」
「おはよぉございます」
「おはようございます。末の娘もよろしくお願いいたしします」
「えぇ! こちらこそよろしくお願いいたしますわ! レネア・マーセインちゃんで合っているかしら? あなたはたんぽぽ組よ」
薄く大きな石板を持った先生に指示されるまま父さんと一緒に中に入り、たんぽぽの絵が描かれた教室へ向かう。中を覗くとまだ人は少なく、中央の席に数人いるのみだった。
「じゃあ行ってらっしゃい。リラックスして、楽しんでおいで」
「うん!」
父さんににっこりと笑顔で頷いて別れると、靴を下駄箱にしまって騒いでいる声に紛れるよう静かに入室する。話しかければいつものようにまとわりつかれるのがわかりきっていたから、少しでも時間を稼ぐように適当に座って荷物や椅子の調整をし始めた。
中央にいる子どもたちの中には友達もいる。いつ気づかれてもおかしくないし、そろそろにっこりと笑顔を浮かべて「おはよう!」と自分から話しかけなきゃ、とひと息つくと、人が近づいてくる音がした。
なんの気もなしにそちらを向く。
(────そら、)
目に入ったのは、青だった。丸く大きな瞳と目が合って、その空のような澄んだ青に驚く。
髪も瞳もカラフルなこの世界でも珍しい瞳をした整った顔の男の子は、ぱちくりと瞳を瞬かせるとにっこりと笑って唇を開いた。
「となりいーい?」
「いいよ」
私も笑顔を浮かべて頷くと、男の子は嬉しそうに席に着いた。その様子に胸の中に靄が溢れてくる。
今まで顔見知りとしか関わらなかったけれど、これからたくさんの子どもと初めて会うのだ。この男の子はコミュニケーション能力が高いだけの普通の子どもに近い反応なのだろうけど、今までの経験から初対面からしばらくの間が1番「転生特典」の影響を感じやすいことを思い出して、これからの未来を想像して内心で小さく息を吐いた。
「……どうかした? だいじょーぶ?」
「え? うん、だいじょうぶだよ」
「……そっか、よかった! ぼく、まなびやでべんきょうするのたのしみだったんだ」
「わたしも」
「それにおともだちもたくさんできたらいいなって! いっしょにあっちいかない?」
席を立って私を誘う男の子に、もしここで断ったらどうなるのだろうと無意識に想像する。イェナたちのように「じゃあわたしも」と座り直すのだろうか、それとも……。なんて意味のない思考をやめて、笑顔で頷くと当初の予定通り他の子どもたちの方へ向かった。
「みんなおはよう! お喋りをやめて椅子に座ってね〜」
だんだん人も増えて20人くらいの子どもたちの中心でにこにこと笑って過ごしていると、先生らしき40歳くらいの女性が入ってきた。何人か緊張した様子でばらけていき、騒がしい幼児たちを全員席に着かせてから、先生は前に立って自己紹介と説明を始めた。
「みんな入学おめでとう! たんぽぽ組の先生になります、ジュリ・モークテスです! ジュリ先生って呼んでね! この学び舎では文字や計算などの勉強や遊び、運動などをします。これから仲良く、楽しく! たくさんのことを学んで、いっぱい遊びましょうね!」
じゃあみんな1人ずつ自己紹介をしましょう! と言って、先生は順番に名前を呼んだ。子どもが前に出ていくと先生がもう1度名前を紹介して、好きなことや得意なことなどを話して最後に「よろしくおねがいします」と言い席に戻る。中には恥ずかしがり屋でほとんど話せないような子もいたが、先生がサポートして上手く進めていた。
そして私の名前も呼ばれ前に立つと、何人かが手を振ったのに振り返してから恙なく済ませる。そうして全員が自己紹介を終えると先生がもう1度前に立ち、手招きした扉からもう1人男性が入ってきた。
「これから学長先生がお話しするためにみんなを1人ずつ呼ぶよ〜。お名前を呼ばれたら、ハスト先生に着いていってね! 呼ばれていない人はみんなで遊んでいましょう!」
「ハスト先生です! じゃあまずィユメリちゃん、先生と一緒に行こうね〜」
名前を呼ばれた女の子が教室を出ていくと、ジュリ先生を含めてお喋りや遊びが始まった。まず机を退けて、古いものが多いおもちゃが出され、私を中心に集まりができる。
私はにこにこと笑ってたくさんの子の相手をしながら、呼ばれた先で何をするのかと内心で首を傾げていた。
先生と面談? いくらこの世界の幼児が発達が早くとも、するなら保護者とでないと意味がないだろう。そもそも面談をするなら普通担任と、わざわざ学長が出てくる理由がわからない。
いったい何を話すんだろう、と疑問に思うけどもここで考えたって仕方がないので、すぐに思考はみんなの相手に戻った。
「レネアちゃーん!」
まちまちの時間間隔で呼ばれていってからしばらくして、ついに私の番がきた。残念そうにする子どもたちに「ごめんね、行ってくるね」と告げてからハスト先生について教室を出る。
向かったのは2階の教室で、3つの椅子以外片付けられた教室内にはもう1人座って待っている老齢の女性と、そして教卓に何かが置かれていた。
「先生のお名前はエネッタです。ここの学長先生なのよ、よろしくね。レネア・マーセインちゃんで合ってるかしら?」
「うん!」
笑顔で迎え入れられ子ども用の椅子に座ると、自己紹介と名前の確認をされた。そして私のことを知るためような質問や雑談が少しあって、それからやっと本題に入るようだった。
「それでは、レネアちゃんには先生たちと2つだけ約束して欲しいの。まず1つ目、あの石のことについて、誰にも言ってはいけません。お友達にも、お母さんやお父さん、お兄ちゃんたちにも駄目よ。そして2つ目、これからレネアちゃんにはこの石に触ってもらうのだけど、石を触ったってことや、その後起こることについても誰かに話してはいけません。できるかしら?」
「はーい!」
「いい返事ね。先生全員との約束よ」
2つのことを約束されて、そして教卓の方、石のようなものの前に立つよう誘導される。ずっと気になっていたそれは、四角柱の形をした、ほとんど透明に近い色をした高さ30センチほどの鉱物だった。
「じゃあ下の方をぺたって触れるかな?」
指示を聞きながら、いったいこれは何だろうとまじまじと見る。
きっと価値がありそうな、綺麗な石だった。それも四角柱とは言ってもそれは加工されたものではなく、上部の少しでこぼこした面や丸みを帯びた角、土台のような下部の形から、自然とこのような形で形成されたのではと感じる。もちろん私に鉱物の知識はないので感覚だけど、ぱっと見た雰囲気が水晶に近いからそう感じるのだと思う。
果たして何のために触らせられるんだろう。不思議に思いながら、指示されるがまま手を伸ばす。
そして指の先がその石に触れた、その瞬間だった。
「っ!」
突然柔く美しい音が響いて、触れた指先から透明だったはずの石が黄緑に染まっていった。唐突に起こった現象に驚いて、反射的に手を離す。咄嗟に庇った右手の指先には何の痛みもない。
けれどいったい何が、と考えるより先に、私と同じように息を呑んでいたはずの先生たちの大声が聞こえてきた。
「手を離さないで!!」
「怖がらないで、ずっと触って!!」
思わず肩を跳ねさせて彼女たちを振り返ると、慌てて「大丈夫よ」「怖くないよ」と声をかけられる。どうやら大丈夫なことらしい。
それなら、と身体に入ってしまった力を抜いて、もう1度石に触れる。
するとさっきと同じ水面に雫が落ちるような、金属を叩いたような、はたまた洞窟に反響するような美しい音が響いた。そしていつの間にか元に戻っていた透明が、触れたところから絵の具でも落としたように黄緑に染まっていく。
「まぁ……!」
「すごい……!!」
感嘆の声を聞きながら今度は手を離さずじっと見つめていると、それはさっき広がった範囲を越えて石を侵食していき、下から7割くらいのところでそれ以上広がることはなくなった。
…………で、これはいったい何なんだろう。
先生たちが興奮やら感動やらしているのを背後に聞きながら首を傾げる。変化が見られなくなったので一応手はそのまま後ろを振り返ると、先生たちはやっぱりにこにこと満面の笑みだった。
「もう手は離して大丈夫よ」
「あ、はい」
やっぱりいいんだ。許可が降りたので、手を離して先生たちに向き直る。すると上品に手を合わせたエネッタ学長が笑顔のまま話し始めた。
「ではきちんと説明しなければね。実はこれは、聖力という特別な力があるかどうかを確かめる検査だったの。この石は、聖力に触れると色が変わるの」
まさか、と目を瞠る。
「今レネアちゃんが触ると、色が黄緑になったでしょう?」
上向けに示された手の先を辿って、背後を振り返る。そこにある透明だったはずの石は、ゆらり、ゆらりとゆっくり波打つように淡く光を纏っていて、そして今度は逆再生するように色が褪せ始めた。
「つまりレネアちゃん、あなたは他の人にはない特別な力、聖力があるのよ」
聖力。父さんやエルト兄さんが持つ、魔を祓う力。加護を与える聖なる力。それを、私も持っている。
考えたことなんてなくて、ただ驚いて先生の話を聞いていた。
「聖力のない人があの石に触れても、何も起こらないの。ハスト先生」
「はい」
ハスト先生が石に近づいて、私と同じように触れる。けれどあの不思議な音が響くことも、色が変わることもなかった。
「ではレネアちゃんが触れてみて」
先生に言われるがままもう1度触る。するとさっきと同じ現象が起こって、疑っていたわけではないけど、本当に私に聖力があるのかと理解した。
「ハスト先生は変わらなかったけれど、レネアちゃんが触れると色が変わったでしょう? レネアちゃんに聖力があるから、色が変わったのよ。聖力があるということはとてもとても素晴らしいことなのよ! おめでとう!」
「聖力を持つ人は本当に少ないんだ。レネアちゃんはすごいよ! さすがマーセインさんのお子さんだ」
「あ、ありがとぉごじゃいます」
祝福されてえへへと笑うと、先生たちもにっこりと微笑む。けれどその表情を一転させ真面目な顔になると、言い聞かせるように話し出した。
「でもね、特別な力だからこそ、聖力があることは家族以外には決して話してはいけないのよ。最初にも約束したけれど、この石のこと、そしてレネアちゃんが触るとこの石の色が変わったこと、そしてレネアちゃんが聖力を持っていることは、決して話しては駄目よ。最初はお母さんやお父さんにも駄目って言ったけれど、大切なことだから家族だけは特別よ。でも、それ以外の人は絶対に駄目」
「もし悪い人に知られたら、捕まっちゃうかもしれないからね。レネアちゃんが危ない目に遭わないためなんだ。絶対に人には話さないこと、約束できるかな?」
「はい!」
なるほど、と全部に納得した。学長と話すなんていったい何かと思っていたけど、聖力を持っているかどうかを確かめる検査するためだったんだ。
それからしつこいくらいに話さないように言われていたことにも納得がいった。いくら治安が良さそうに見えるこの町でも、少ないと言われている聖力を持つ特別な人間は人攫いに遭いやすいだろう。子どもならなおさら、誘拐しやすく、人身売買にでも出されやすそうだ。
「では今日帰る時、またお父さんかお母さんと一緒にお話ししましょうね。何回も言うけれど、今から教室に帰った後も、お友達と絶対話してはいけませんよ」
「はい!」
エネッタ先生の言葉に強く頷く。そしてハスト先生に先導されて教室を出ると、元の私のクラスの教室へと戻った。
牛車は学舎近くの子は使わず集団登校です。というのを入れる隙がなかった。
本当に長らく投稿しておらず申し訳ありませんでした。
これから続くかはわかりませんが、不定期更新頑張ります。もしよろしければ、モチベに繋がるので感想等いただければとてもとても嬉しいです。