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5 勧誘

「――遅い!!」


 朝。

 男子寮を出ると、一人の少女が立っていた。


「……なんでお前がいんだよ」


 オレが鬱陶しげに言うと、青髪の美少女――フィルトは腕を組んだまま得意げに鼻を鳴らした。


「それはもちろん、あんたが私の下僕兼パートナーだからよ」


「なんでだよ。昨日断っただろうが」


「嫌よ。私は諦めない。あんたは私とコンビを組むの。……じゃなくて! いや、違わないけど! あのね、あんた起きるの遅すぎ! 一体今何時だと思ってるの!?」


 ……朝からうるせえ女だな。頭がキンキンする。


「知らねえよ。八時くらいだろ?」


「違うわよ! 九時! 八時半にホームルームだから、完っ全に遅刻! あんたのせいで私も遅刻する羽目になったじゃない!」


 いや、それは絶対にオレのせいじゃない。


「別に遅刻くらいいいだろ。つーか、今日はいつもより早い。褒められたっていいくらいだ」


「誰が褒めるのよ!? あんたねえ、私の下僕ならもっとちゃんとしなさい!」


「いや……だから下僕じゃねーし」


「嫌よ」


 なんなん? こいつ。断られたら諦めろよ。

 オレは頭を掻きながらはぁ、と溜め息をつくと、フィルトを睨んだ。


「いいか? お前がオレの何を気に入ったのかは知らんがな。オレなんて一緒にいたって何のメリットもない。むしろ、落ちこぼれのオレとコンビを組んだなんて誰かに知られたら、お前の評判が下がるぞ」


「評判? 気にしないわ、そんなもの」


 くそ……自信満々なヤツだ。

 ――この女、昨日からずっと勧誘してきやがる。

 何度断ろうがお構いなし。

 メンタルが強すぎる。

 今朝起きたら、部屋に契約書付きの手紙まで届いてたし。

 ほんっとに迷惑なヤツだ。


 ……そういや話は変わるが、昨日のことだが、猫のグラハムはルビィが回収しており、クエストは無事クリア。

 オレは退学を免れた。

 ルビィ様様だな。

 約束通り、今度温泉スパに連れていってやろう。


 だが、オーベックの野郎。

 あいつは許さん。

 あのクソジジイ、理由は分からんが、あの森に悪魔がいることを知っててオレを向かわせやがったな。

 いつか一泡吹かせてやる。


「……落ちこぼれ? あんたが?」


 フィルトが怪訝な顔を向けてくる。


「そうだ。オレのあだ名を教えてやろうか? “サボり魔王”だ」


「ふぅん……?」


 フィルトは訝しそうに首を傾げる。

 ちっ、無駄に可愛いなこいつ。


「フィルト、階位はいくつだ?」


「階位? 第四位ドミニオンズだけど」


 第四位か、そりゃすげえや。やっぱオレとは別次元の存在だな。

 階位とは階級のようなもので、第一位セラフィム第二位ケルビム第三位オファニム第四位ドミニオンズ第五位ヴァーチュース第六位パワーズ第七位アルケー第八位アークエンジェル第九位エンジェルの九つに分けられている。

 第一位セラフィムから第三位オファニムまでを上位、第四位ドミニオンズから第六位パワーズを中位、第七位アルケーから第九位エンジェルを下位と呼ぶ。第九位エンジェルを最下位と呼ぶこともある。

 階位を決める基準はいくつもあるが、一つ確かなのは、階位が一つでも違えば、その力量には天と地ほどの差があるということ。言い過ぎかもしれないが、これは事実だ。


 ――で、だ。

 一般的に、階位の人数比を図に表すと菱形であると言われる。

 上位と下位ほど少なく、中位ほど多い。

 組織図としては中々理想的な形といえる。

 そしてエンドワルツ卒業者の平均的な階位は、第五位〜第七位。

 ――というデータを鑑みれば、フィルトがどれだけ優秀なスレイヤーなのか理解できるだろう。

 ああ、ちなみにオレはというと――


「オレは第九位エンジェルだ」


「え?」


「だから、第九位エンジェルだ」


「……最下位じゃないの」


「言ったろ、落ちこぼれだって」


 オレはフィルトの脇をするりと抜ける。


「これで分かったろ。オレはスレイヤーに向いてないんだ。コンビを組みたいなら他を当たれ。お前となら誰でも喜んで組むだろうぜ」


 やや離れてからチラリと振り向くと、フィルトは小難しそうな顔をして悩んでいた。

 ようやく諦めてくれたようだな。

 よかったよかった。


 ――というのはオレの勘違いだったようで。

 翌日。


「――遅い!!」


 あれ、デジャヴ?


「なんで今日もいんだよ!」


 オレが苛立った口調で言うと、


「別にいいじゃない。なによ、私のことが嫌いなの?」


「嫌いに決まってんだろ!」


 それを聞いたフィルトは青筋を立てた。


「あんたがいいって言うまで毎日来るから!」


「くんな!」


 さらにその翌日も、


「――今日はちょっと早いわね」


 時間ずらしたのに!

 がんばって早く起きたのに!

 なんでいるんだ!


 その翌日も翌日も翌日も――


「――遅すぎ! 今、十時なんだけど!!」


「――あら、今日はちょうどいい時間に来たわね」


「――まだ校舎空いてないけど?」


 遅くしようが、普通にしようが、早くしようが、フィルトは寮の前で待っていた。

 今日なんて朝の六時に寮を出たのにいたんだけど。

 オレはフィルトの顔を見た瞬間、踵を返した。


「もういい、部屋に戻って寝る! ストーカー怖え!」


「ダメよ! 授業サボるなんて許さないから。あと私はストーカーじゃない! ほら、行くわよ」


 と、引きずられるようにして校舎へ連れていかれる。これも日課だ。

 もうこいつと登校するのが習慣みたいになってんじゃねえか。


 ――ある日の昼休み。

 教室で落ちこぼれ仲間のマルスとストーカーの定義について論議しているとフィルトがやってきて、


「下僕――カイトはいる?」


 と大声で言うものだから、クラスメイトの視線はオレに集中。


「おい、あれフィルトだぜ。B組首席の」


「本物かよ。めっちゃ可愛いな」


「あのフィルトさんが落ちこぼれのカイトに何の用かしら……?」


「ほんとだよね。でも今、下僕とか言ってなかった?」


「ああ、それなら納得」


 納得するな。誰が下僕だ。潰すぞ。

 おいおいフィルトのヤツ、教室こんなところにまで来るのか。


「噂をすれば、って感じだね。ほらカイト、行って来なよ」


 マルス……オレが嫌がってるのを分かって面白がってやがるな。


「マルス、覚えとけよ」


 言い残し、オレはドアに向かった。

 教室を出てすぐ、フィルトが腕を組んで立っていた。

 ……廊下の生徒の視線が痛い。


「何の用だ」


「あんたの答えを聞きに来たの」


「だから嫌だって――」


「お願い、あんたじゃなきゃダメなの!」


 どこか焦るような、真剣な眼差し。

 くそ……そんな目をするな。


「……悪いが、オレはお前とは組まない」


「っ、理由を聞かせて」


 ざわざわ。

 周囲の生徒がオレとフィルトのただならぬ様子にひそひそ話をしだした。

 勘違いされて変な噂が広がっても面倒か。


「とにかく、場所を変えるぞ」


 オレの提案に、フィルトはチラリと周りを一瞥すると、くるりと身を翻した。


「付いてきて」


 そう言ってスタスタと歩き出す。


(……つくづく勝手な女だ)


 嘆息し、オレはフィルトの後を追わんとする。

 その時、


「カイトくん」


 ひょこっ。

 エマが教室から顔を出していた。


「ごめん、盗み聞きするつもりはなかったんだけど。その、嫌ならはっきり断るのがいいと思うよ」


「? ああ、そうするつもりだけど」


「そ、そっか。それなら安心……あ、引き止めてごめんね! ばいばい!」


 そう言って、そそくさと顔を引っ込めるエマ。

 ……よくわからんヤツだ。



 フィルトが向かったのは、校舎から北西に五分ほど歩いたところにある商店街。

 ここはスカラベストリート。エンドワルツ生の為に作られた商店街だ。喫茶店や酒場、武器屋や道具屋、服屋や遊技場など、なんでもござれの人気スポット。昼休みや放課後になると大体、生徒で溢れている。

 オレはフィルトに連れられ、二番通りにある喫茶店『ぐり〜ど』にやってきていた。

 暖色の照明に照らされたレトロな店内は昼休みにも関わらず、オレら以外に誰もいなかった。


「ここは美味しいのに人が少なくて穴場なの。その代わり、料金は他よりも若干高いけどね。あ、美味しい」


 コーヒーを飲みながら、向かい側に座るフィルトがそう言った。


「そうか。ちなみにだが、オレは今金欠だ」


 普段クエストを受けていない上にルビィの世話代もあるから、奨学金を足しても常にカツカツなんだ。


「私の奢りでいいわよ。私が付き合わせているわけだし」


「わりいな。金が入ったら返す」


「別に返さなくてもいいのに」


 そうしたいのは山々だが、金勘定はきちんとしろって教わってるんでな。


「――で、本題だけど」


 フィルトは透き通るような碧眼を細め、オレを見た。


「私と組みたくない理由は何? 自分で言うのもなんだけど、私は超優秀だし、組むことのデメリットなんてないでしょ?」


 自分で言うな。


「……いやな、お前はそもそも前提が間違ってるんだよ」


「前提?」


 ああ、とオレは頷く。


「――オレはな、働きたくないんだよ」


「……は?」


「働きたくない。何もしたくない。授業もクエストも面倒だし、できることならずっとグータラしていたい。今だって、さっさと帰ってクソして寝たい」


 オレがそう言うとフィルトはしばし固まっていたが、やがて嘆息しながら頭を押さえた。


「なんとなく察してたけど……あんた、クズね?」


 正解だ。

 ちなみに、直すつもりは一切ない。


「はぁ……なんでこんなヤツに……」


 フィルトはぼそぼそと何事かを呟いたが、オレの視線に気づいて取り繕うように言葉を続けた。


「つまり、何もしたくないから私とは組めないってこと?」


「ご名答」


「……なんか格好つけてるけど、めちゃくちゃダサいわよ」


 フィルトがジト目で見てくる。

 オレはレモンティーを一息に飲みきると、おもむろに立ち上がった。


「どこに行くのよ」


「これ以上話しても無駄だ。オレの意思は変わらない」


「ちょっと待ってよ、私にも事情が――」


「お前の事情なんざ知るか。他を当たれ。第一、どうしてオレなんだ? オレよりも優秀なヤツはごまんといるだろ。そいつらと組め」


「……他にもコンビを組んだ人は何人もいたわよ」


 フィルトは呟いた。


「でも、誰も私には付いてこれなかった」


 そらお前の性格じゃあな。

 同情するぜ、そいつらには。


「あんたには――」


 フィルトはガタッ、と立ち上がると、オレの腕を掴んだ。


「あんたには才能がある。私、調べたのよ。カイト、あんたのスレイヤー試験の時のこと」


 ……ちっ、マジかよ。

 スレイヤー試験とは、文字通りスレイヤーになるための試験で、エンドワルツへの入学試験も兼ねている。

 試験ではランダムで決められた二人一組で山に入り、ゴールまでに倒した敵の数と質で合算したポイントを競うという単純なもの。

 が、その山には他の受験者の他に様々なトラップや敵役の試験官が配置されており、なんなら悪魔だっている。他の受験者であれ試験官であれ悪魔であれ、倒せばポイントになるため、試験はかなり緊迫した雰囲気のなか行われる。

 その試験で、オレは競争相手や教師陣をほぼ一掃した。

 それだけならまだしも、オレは絶対に倒せないことが前提で設置されていた危険度Sの悪魔を倒してしまったのだ。

 そのおかげで試験を突破できたわけだが、入学したての時は注目を浴びまくって最悪だった。

 ちなみにスレイヤー試験で一緒に組んでいたのが、今も親交のあるマルスだ。


「あんたは強い。どうしてか学園のほとんどが知らないようだし、私も知らなかったけどね。……なのに、なんでもっと真面目にやらないの?」


「さあな。オレに才能なんてねえよ。性格がスレイヤー向きじゃない」


「ごまかさないで。……別にあんたの事情にまで立ち入るつもりはないわ。だけどもったいないじゃない。私とあんたが組めば、」


「――いい加減にしろ。何度同じことを言わせるつもりだ。オレはお前とコンビを組むつもりはねえ。オレに関わるな」


 言い残し、オレは問答無用で去ろうとする。


「待ちなさい」


 オレは舌打ちすると、嘆息しながら振り向いた。


「悪いが、もう話すことは――」


 ボォォォォォォォ……!


 フィルトの手に、蒼い炎が灯っていた。

 オレはニコニコしながら尋ねた。


「あの、フィルトさん? 何をしているのでしょうか?」


 すると、ニコッ。

 フィルトは男なら誰もが見惚れるような笑顔を浮かべ、言った。


「あんたがあまりにも聞きわけがないから、実力行使に出ようと思って」


 オレはぽん、と手を叩く。


「あーなるほど、実力行使。実力行使ね……」


 ダッ!

 オレはダッシュで出口に向かう。

 フォームは陸上選手並みだ。


「逃すか! 【竜炎】!」


 ゴォッ! という音とともに蒼炎の竜が襲いかかってくる。

 冗談だろ、ここ店内だぞ――!


 ドガァァァァァァァァン!!


 耳をつんざくような音とともに蒼炎は爆発し、オレは店のドアとともに吹き飛んだ。ドアの破片とともにゴロゴロと道に転がる。


「なになに、修羅場?」


「うーわ、おっかねー」


 道行く生徒たちが奇異の目でオレを見ている。

 どこに行っても結局目立つじゃねえか。


「どう? 私と組む気になった?」


 店内から出てきたフィルトが笑顔でそう言った。目が笑ってない。

 オレはガバッ! と体を起こし、怒鳴った。


「てめえ、店のなかで魔法ぶっ放すバカがいるかよ!」


「仕方ないじゃない、あんたが話を聞かないのが悪いんだから。店の弁償は私がしておくわ。で、私と組む気になった?」


「なるか!!」


「えー、なんでよ」


 イかれてんのか、こいつ。


「そう……でも、あんたがそこまで言うなら仕方がないわね」


 フィルトが肩を落とした。

 やっと諦めたか。

 ボッ!

 フィルトの両手に蒼炎が灯る。


「下僕にしてくださいって懇願するまで燃やし続けることにするわね」


「ちょっと待て! どういう思考回路!? 分かった、分かったから! 火を消せ!」


 思わずそう言うと、フィルトはぱぁっ、と顔を明るくした。しまった。


「組んでくれるの!?」


「いや……まずは一回だけだ。これ以上は譲歩しない」


「それでいいわ。ふふん、決まりね♪」


 満足げに鼻を鳴らすフィルト。

 この女……!

 まあ、いい。

 こいつは昨日の件でオレが優秀なスレイヤーだと勘違いしているらしいが、それは大きな間違いだ。

 オレはスレイヤーに向いていない。

 それは自分でも理解している。

 そのことを知れば、こいつも諦めるだろう。

 だから、一度だけ。

 このイかれ女に付き合ってやる。

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