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2 エンドワルツ学園

 スレイヤー。悪魔を滅ぼし、人々を守る為に人類から選ばれた精鋭で、その誰もが常人を遥かに凌駕する力を有している。

 そしてスレイヤーの卵を育成する機関――それがここ、エンドワルツ学園だ。

 エンドワルツ学園はストーンズ王国最西端にある“虚ろの森”のなかにある。20キロ平方メートルもの敷地を誇るエンドワルツには校舎はもちろん、闘技場コロシアムや商店街や温泉スパなど、どれも古びているものの、多様で便利な施設がある。

 それもこれも、将来有望な悪魔狩り――スレイヤーを育成する為だ。

 しかし学園といっても、エンドワルツはそんじょそこらの教育機関とはまるで違う。

 生徒はエンドワルツに入った時点で、スレイヤーとしての才能を認められており、スレイヤー免許を与えられている。

 つまり、生徒といっても一スレイヤーであることに変わりはなく、授業の一貫で死線に送り出されることなんざ日常茶飯事。昨晩同じ釜の飯を食った友人が今晩はいない、なんてこともなんら珍しくない。

 エンドワルツを一言で表すならば、『世界で最も死に近い学園』だろう。


(あー……眠い)


 現在は授業中。

 六時間目だから、これが終われば寮に帰還だ。

 眠いし、腹減った。はやく夕飯食いてえ。


 本日最後の授業は、チャリタリ先生による『悪魔歴史学』。

 チャリタリ先生は柔和な雰囲気を持つ女の先生だが、相当な悪魔嫌いであり、事あるごとに生徒にこんな質問をする。


「ペルム歴二百年。この年は産業革命が起きた年ですが、クソ悪魔による残虐非道・最低最悪の事件が起きた年でもあります。さて、このクソッタレな事件はなんと言うでしょう? クソ分かる人はいますか?」


 クソクソ言い過ぎだろ。

 チャリタリ先生、いっつもニコニコしてるけど、表情と言動が一致してねえんだよな。


「はいはーい!」


 元気よく立ち上がったのは、ブロンドヘアを背中まで伸ばした女子生徒。

 ラナ・ミザリー。元気だけが取り柄のアホなヤツだ。


「どうぞ、ラナさん」


「『ワンダフロストの大虐殺』どぇーす!」


「クソ素晴らしいですね。そうです、『ワンダフロストの大虐殺』。この事件では、数多くの人々がクソ悪魔の手によって命を失いました。ふふ……考えるだけで全身が怒りに支配されてしまいますね、殺意が湧いてきますね」


 うふふふ……、と笑うチャリタリ先生。こええよ。みんなドン引きだよ。


「さて、このクソ忌々しい事件をキッカケにして生まれたのが……カイトくん、分かりますか?」


「え? あ、はい」


「では、立ってお答えください」


「えっと……」


 …………やべえ、わからん。

 急に指名されたから頷いちまったが、全くわからねえ。


「んー……?」


 首を捻っていると、クラスメイトたちからクスクスと笑い声が漏れる。それは単に可笑しくて笑っているというよりは、どこか嘲るような笑いだった。

 ……ま、いつものことだ。


「カイトくん、分かりませんか?」


 チャリタリ先生はやや困った笑みを浮かべていた。これは完全にオレが悪い。


「すみません、分かりま――」


「――カイトくん、カイトくん。スレイヤー、だよ」


 と、不意に横から小声が聞こえてきたので、オレはありがたく頂戴した。


「スレイヤーです」


「はい、正解です。フォローありがとうございます、エマさん。そうです、『ワンダフロストの大虐殺』を端にしてスレイヤーは生まれたと言われています。クソ厳密には――」


 オレは席に座ると、右隣に顔を向けた。


「ありがとな、エマ。いつもすまねえ」


「ううん、大丈夫。お役に立ててなにより」


 そう言って微笑むのは、綺麗な金髪をショートカットにした女子生徒。

 エマ・イグニストロン。圧倒的美少女。二年D組のアイドルだ。このクラスには他にも美少女が何人かいるが、容姿だけじゃなく性格まで兼ね備えているのはこいつくらいだ。マジで良いヤツ。ただ、良いヤツすぎるが故にオレにまで親切にするもんだから――


「……あいつ何エマと喋ってんだよ」


「ほんとうだよね。落ちこぼれの癖にさ」


「“サボり魔王”がエマさんと話すんじゃねーよ」


 と、周囲から厳しいお声を頂く羽目になるのだ。

 だから、オレとしてはあんま話しかけて欲しくないってのが本音だ。親切にしてもらって申し訳ないけどな。

 ちなみにだが……ご覧の通り、オレはクラスで嫌われている。

 いや、嫌われているというよりは、見下されている。

 イジメられているわけではないが、見下すような発言や視線を受けることは日常茶飯事だ。

 理由は言わずもがな、オレが“サボり魔王”だからだ。そんだけ。

 ま、特に気にしているわけでもなし。

 オレがやる気を出すことはねーけどな。

 いや……出せない(・・・・)といった方が正しいが。

 ま、なんでもいいか。


 放課後になった。

 クラスメイトたちが談笑しながら、各々の剣を腰に差し、教室を出て行く。

 彼らのほとんどはこれから任務――通称クエストに出かける。

 クエストを受けることで、単位と金が得られるからだ。

 エンドワルツでは、卒業に必要な必須単位という制度がある。必須単位は授業のテストで得られるものの他に、クエストを受けて得られる単位も対象となる。というか、むしろそっちの方が多い。実戦を積め、ってことだろうな。

 だから、生徒はお小遣い稼ぎも兼ねて授業が終わるとすぐさま部活感覚でクエストに出かけるのだ。イかれた学校だぜ、まったく。

 ま、オレはそんな面倒なことはせず、直行直帰するつもり――


「――カイトはいるか!?」


 ドアを蹴破って教室に入ってきたのは、レイナ先生。あんた、ドア弁償しろよ。


「お、いたいた!」


 レイナ先生はオレを見つけるとズカズカと近づいてきて、背中をバンバンと叩いてきた。

 拳が飛んでこないのを見るに、上機嫌だな。

 ……嫌な予感が。


「テメェ、今日こそ任務に行けよ!」


「なんでですか。オレ、寝不足なんで、今日のところは帰ろうかと思ってるんスけど」


「散々寝ただろーが! まあいい、これを見ろよ」


 ニヤニヤしてて気持ち悪いレイナ先生に渡されたのは、一枚の紙。なになに……


『二年D組 カイト・ヴィンテイジ

 学園長室への出頭を命ずる。

 理由:必須単位の修得見込みが極めて低いため』


 汗が頰をつう、と伝うのが分かった。


「がははははは! ざまーみろ、カイト! サボりまくってるからこうなるんだよ! 退学か? 退学かもな!? ギャハハハハ!」


 うぜえ……! ここぞとばかりに煽ってきやがって。教師だろてめえ!


「退学したら当然、スレイヤー免許も剥奪だぜ! はは、よかったな!」


「よかねーよ! オレ、そんなにやばいんスか?」


「ああ、やばいね。やばすぎるね。おら、さっさと学園長室に行ってこい。で、退学しろ! あっはっはっは! “サボり魔王”が消えて清々するぜ! じゃあな! シー・ユー!」


 ビシッ、と手を掲げて出て行くレイナ先生。

 殴ってやろうか、あの女。


(いやしかし……これは普通にやべえな)


 いずれこの日が来ることは覚悟していたが、マジな退学はさすがに困る。


「どうかしたの? カイト」


 どうしたものかと悩むオレに声をかけてきたのは、赤茶色の髪を持つ男子生徒。童顔で背が低いのが特徴だ。

 マルス・A・ランスロット。数少ないオレの友達だ。”サボり魔王”たるオレにも普通に接してくれるいいヤツだ。


「マルス。これを見てくれ」


 今し方受け取った紙を見せると、マルスはあぁ……、と呆れたように頷いた。


「こうなるのも時間の問題だったね。できれば一緒に卒業したかったけど、残念だよ」


「まだ退学確定じゃねーよ。なあ、お前も成績悪いよな? 同じ紙渡されなかったか?」


「ちょっと、僕をカイトと一緒にしないでよ。確かに成績は悪いけどさ。下から数えた方が早いくらいだけどさ。でも、それは実技だけだからね? 授業の単位は全部取ってるし、クエストだってちゃんとコツコツ受けてるから」


「マジかよ……」


 いや、そうだ。こいつはオレと違って真面目なんだった。


「で、どうするんだい? 退学するかい?」


「しねーよ。なんでお前らはオレを退学させようとすんだ。……ひとまずは学園長室に顔を出すしかねーだろ」


「もしも退学って言われたら?」


「許してもらえるまで土下座する。オレは自分の為ならいくらでも頭を下げる」


「見下げた精神だね」


 まあでも、とマルスは肩をすくめた。


「みんな見る目ないよね。カイトを落ちこぼれ呼ばわりしてさ」


「……何も間違ってねえさ。オレは落ちこぼれだよ」


「またまた。僕は知ってるよ、カイトはほんとはここにいる誰よりも強いってことを。あの時(・・・)から、君は僕の憧れなんだぜ?」


 マルスが微笑む。

 オレは照れ臭くなって頭をかいた。


「あん時のは……そう、たまたまだ。もういい、行ってくる」


「うん、行ってらっしゃい」




 大きな扉の前に立つ。


(学園長室か……入学式以来だな)


 コンコン、と扉を叩く。


「二年D組、カイト・ヴィンテイジです」


「入れ」


 中からしゃがれた声がして、オレは扉を開けた。


「失礼します」


 アンティーク調な内装の薄暗い部屋だった。両壁の古びた棚には壺や刀剣なんかが並び、壁の空いたスペースには絵画や大きな古時計が置かれている。高い天井からは巨大な翼竜の化石がぶら下がっており、懐古趣味とでもいうのだろうか、色々と迫力のある部屋だ。

 窓から差した光の帯に埃が浮いている部屋に足を踏み入れる。

 歩くたび、足元が沈む絨毯の上を進むと――奥の暗がりから一人の老人が現れた。


「よう。きたか、カイト」


 錆びた弦のような声。

 小さな体躯の老人だ。白髪混じりの頭髪をツンと立て、目には眼帯、口元は不機嫌そうに結ばれている。そしてひときわ目立つは、この場にそぐわぬアロハシャツ。なんでやねん。

 オーベック・ビッグ。スレイヤーの中で彼を知らぬ者はいない。元・十三英傑じゅうさんえいけつ――世界で最も強い十三人をそう呼ぶ――の一人で、現役の頃はたった一人で数万の悪魔を屠ったとか。

 現役を退いた今も、彼から放たれるオーラはえげつないほどに鋭い。その場にいるだけで肌がピリつくほどだ。


「ご無沙汰してます、学園長」


「おう。去年の入学式ぶりだな。相も変わらず気の抜けた炭酸みてえな顔だぜ」


「学園長は相も変わらずファンキーな見た目っスね」


「おう、小僧にもこのファッションの良さが分かるか。なんならシャツを一枚やろうか?」


「いらねえし、良さも全く分かりゃしません」


 オレがそう言うと、オーベックは吐き捨てるように笑った。


「はっ、生意気なガキだぜ。ここに呼ばれた意味は分かってんだろうな?」


 早速本題か。


「まあ、そうですね。一応聞いておきたいんスけど、オレって退学ですか?」


「ああ、退学だ」


「ははっ、退学ですか」


「退学だ」


「…………」


 しばらくの沈黙。


「――すんませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 奥義、DO・GE・ZA。

 こいつで乗り切るしかねえ!


「退学は、退学だけは勘弁してくれ! 退学以外ならなんでもする! この通りだ!」


 オレはスレイヤーにならないといけない。

 あの日――全てを失った日、そう誓った。

 必死に懇願すると、オーベックはプルプルと震えていたが、やがて爆笑しだした。


「がっはっは! 冗談だ、冗談! 小僧、儂がお前ほどの才能をむざむざ捨てるような真似をすると思うか!」


 土下座しやがった! と笑い転げるオーベック。

 なんでこの学園の連中は人をコケにするのが好きなんだ?


「それによ、退学なんてさせたらお前の師匠に合わせる顔がねえんだ。余程のことがなけりゃ、退学まではしねえよ」


「……あざす」


 オレは頭をかいた。

 師匠か。

 師匠といえば、辛い修行の日々を思い出すな。

 うおぉ、あまりに辛すぎる記憶で鳥肌が。


「で、だ」


 オーベックはニヤリと笑った。


「小僧。なんでもするって言ったよな?」


「……言ってません」


「もう遅ぇ」


 ちっ、墓穴掘ったか。


「お前にはクエストを受けてもらうぜ」


 足元にひらりと紙が落ちる。一体どんな高難度のクエストやら……

 と思ったが、そこに書かれた内容に、オレは拍子抜けした気分になった。


「Fランククエスト、か」


 クエストにはランク、というものがある。

 ようは難易度だ。

 ランクはFからはじまり、E、D、C、B、Aの順に難度は高くなり、Sを最高難度としている。

 通常、学生が挑むのはF、E、Dランク。高くてCランクだ。

 単位はランクと相関関係があるので、高ランククエストの方が多くの単位をもらえる。

 まあ、むざむざ危険なクエストに出る酔狂なヤツは少ないけどな。


(Fランククエストか。だったら楽そうだぜ)


「お前の階位じゃFランクしか受けられねえ決まりだからな。受けるだろ? じゃなきゃ退学だ」


「こいつを受けたら退学はなしにしてくれますかね?」


「いいだろう。ま、クリアできたらの話だけどな」


 そう言って不敵に笑うオーベック。

 いや、Fランクだろ?

 さすがにそれはオレを舐めすぎだぜ。

 いくらオレが落ちこぼれの烙印を押されているとはいえ。

 内容も『迷子のペット探し』とかいう、いかにも楽そうなものだし。


「よし、受けるぜ」


 今日頑張れば、しばらくはまた怠惰な生活ができそうだな。はっはっは。


「決まりだな」


 オーベックは鼻を鳴らすと、不意にやや真面目な顔になって、


「小僧、お前の体質は理解している。が、だからって何もしないヤツを学園に置いとくわけにもいかねえんだ。分かるな?」


「……ああ、分かってるよ」


 オレが頷いたのを見て、オーベックはならいい、と頷いた。


「んじゃ、早速向かえ。場所は――」

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