1 怠け者の剣士
ワクワクするような物語を書けたらと思っております!
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五年前――
「やめろ……もうやめてくれ……」
村中に転がる人の死体。
想いを寄せていた幼馴染や毎日遊んだ友達は、もう喋らない。
大好きな両親と兄も、見るも無残な格好で息絶えている。
そして――
「ほほう……この子は才能がありますネェ。連れて行くことにしましょう」
「兄ちゃん、助けて!」
今すぐ助けたいのに、体が動かない。
ごめん、タクト。
目の前の悪魔が怖くて怖くて、指一本動かないんだ。
くそ。
やめてくれ。
大切な弟なんだ。
オレによく懐いていて、いつも後ろをついてきてうっとおしい時もあるけれど、愛おしくて、ほんとうに大切な弟なんだ。
「クキキ、この子の他にもまだ生き残りがいましたか」
もう、これ以上。
これ以上、オレから何も奪わないでくれ。
「やめろ……連れてくな」
濃厚な血の臭いで胃がひっくり返りそうだ。
頭が割れそうで、胸が張り裂けそうで、涙が溢れてとまらない。
「クキキッ、一人くらい残しておくのもいいですかネェ。どうせこの後、喰われるでしょうしネ。ではでは、サ・ヨ・ウ・ナ・ラ♡」
悪魔が羽ばたき、最愛の弟を抱えたまま飛んでいく。
「兄ちゃん、助けてっ! 兄ちゃんっ!!」
「やめろ、連れて行くな……やめろォォォ――――――――ッ!」
悪魔が遠ざかっていく。
残ったものは、何もなかった。
その時、オレは誓った。
平穏な日々を奪ったあいつを。
みんなを殺したあいつを。
弟をさらったあいつを。
絶対に――殺してやる。
――五年後。
悪魔は生き物を喰う。
悪魔に噛まれたものは、悪魔と化す。
悪魔は世界中にいる。
何百年も前から、ずっと。
それがこの世界の常識だ。
悪魔を滅することは、人類の悲願。
誰もがそれを願っている。
――だがそんなことは、オレにとっちゃどうでもいい。
悪魔が人を襲おうが知ったことか。
そう、どうでもいいのだ。
オレ――カイト・ヴィンテイジは、ただ、いつまでも堕落した生活を送っていたいだけだ……
風が心地いい。
午後のポカポカと暖かい日差しが全身を包み込む。
葉擦れの音をbgmに目を閉じていると、りーんごーん、りーんごーん……。
遠くで鳴り響く鐘の音。
オレはあくびとともに大きく伸びをした。
「あー……。もう授業終わりか」
あと少しだけ寝よう。
そう思い目を閉じるのだが、第一訓練場から校舎に戻る生徒たちの声が騒がしく、いまいち眠りにつけない。
(そろそろ教室に戻るか……いや、それはだりぃな)
それどころか、立つのも面倒だ。
次の授業まではあと十分ある。
あと五分だけなら……。
「おい」
不意に頭上に影が差し、直後、頭部に振り下ろされたかかと落としを、オレは横に転がることで間一髪かわすことに成功した。
ドゴォン!!
かかと落としに穿たれた地面は、べこりと凹んでいた。
(っぶねえ……!)
こんなもん食らったら、頭蓋骨が粉砕どこじゃねえぞ。
寝起きにこんなことをしてくるイかれた人物は、一人しかいない。
オレは立ち上がると、深く頭を下げた。
「レイナ先生、おはようございます」
「おはようございます、じゃねえぞテメェ……」
額に青筋を立てた黒髪ポニーテールの女性は、レイナ先生。
エンドワルツ学園の教師で、オレが所属する二年Dクラスの担任だ。
担当が『純戦闘学』かつ現役のスレイヤーということもあり、言うことを聞かない生徒は容赦なくボコボコにするおっかない女だ。
頼むから、さっさと教育委員会に訴えられてくれ。
「カイト、テメェまたアタシの授業をサボりやがったなァ? 殺されてェのか、おォ?」
顔と口調が絶対にカタギじゃない。
レイナ先生はマフィアのボスの娘という噂が生徒間ではあるが、真実だとオレは読んでいる。
「すいません。なんつーか……昨日寝るのが遅くて、はい。完全に寝不足っス」
「あァ? 寝不足だァ? 何時間寝たんだ」
「えっと……十時間っス」
「めちゃめちゃ寝てるじゃねーか、ボケェ! カイトよォ……前々から思ってたが、アタシのこと舐めてんだろ? どたまカチ割られてェのか、あぁん?」
「すいません冗談です舐めてないです」
この女怖すぎるぅ。
どたまとかいうワード、普通に生きてたら使わねえから。
「ったくよォ、いつもいつも……テメェにはやる気ってもんがねえのか?
授業はサボる、任務はいかねェ、頭ん中は常に寝ることばっか、目には覇気がねえ、髪はボサボサ。そんなもん、死んでるのと同じじゃねェか」
それは言い過ぎ……でもないか。
「やる気は仕方ないですよ。出したくても出せないんですから」
「はなから出す気がねェだろうが……。そんなんじゃ、いつまで経っても最下位のままだぞ? ……分かってんだろうな。来年の卒業まで今と同じ調子なら、留年決定だからな」
「へいへい」
「それによ、いつまでもあだ名が“サボり魔王”じゃテメェも嫌だろ?」
「ほいほい」
「このままじゃ仮に卒業できたとしても、必ず悪魔どもに殺される。いいか、悪魔を舐めるんじゃねーぞ? その気になりゃ、人間なんざ瞬殺だぜ?」
「そいそい」
「死ねやゴラァ!!」
飛んできた拳をオレは紙一重で避ける。
拳は背後にあった木に直撃し、バキバキとへし折れた。
あっぶね! 今のは殺す気だったぞ!
「……なんでアタシの拳を避けられんだよ、テメェは」
「なんでって、避けないと死ぬからですよ」
ほんとうに教師か? この人。
「ちっ……まあいい、教室に戻るぞ」
レイナ先生は舌打ちすると、身を翻した。
「へーい」
オレは傍に置いてあった剣を掴むと、天を仰いだ。
雲ひとつない青空を鳥たちが飛んでいる。
(鳥はいいよなぁ……自由で)
ああ、切に思う。
人生って……面倒だ。
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