魔女とぬいぐるみのくまの騎士と呪われた兄妹
とおいとおい別の世界にある、小さな国の、小さな町の出来事です。
この町には、とても仲のよい兄と妹の2人の兄妹が住んでいました。
10才の兄の名前はブルック。
ブルックはすこし凛々しくて、すこしやんちゃな男の子です。
8才の妹の名前はベルタ。
ベルタはとても可愛らしくて、とても内気な女の子です。
ある冬の寒い日、ブルックはベルタからおくりものをもらいました。
「なになに?」
ブルックは誕生日でもその他の特別な日でもなかったのですがとても喜びました。
包み紙をあけると中からはとても美味しそうな赤と白の2色の棒つきキャンディが2枚出てきました。
「わぁ、おいしそう!!」
ブルックが喜んで食べようとすると、お付きの人が止めました。
「まず毒味をしますね」
キャンディ2枚を1人が毒味するには時間がかかるので、お付きの人が1枚ずつ2人で毒味をすることにしました。
これは妹のベルタのていあんでした。
まわりの大人たちはベルタのかしこさをとても誉めました。
お付きの人が2人で1枚ずつペロペロと毒味をしてるのをブルックはよだれをたらしながら待ちました。
「大丈夫です」
毒味役の2人が毒味を終えて言いました。
「いただきます」
ブルックは大きくお口をあけて言いました。
「待って」
まさにブルックが食べようとしている時に待ての声をかけたのは、魔法のくまのぬいぐるみ『ナイト』です。
ナイトはベルタが7才の誕生日をむかえた時に、ブルックが妹を守る騎士として贈ったくまのぬいぐるみです。
くまのぬいぐるみの騎士のナイトは言いました。
「念には念を入れて、キャンディを交換してなめてみて」
ナイトはベルタを守る騎士のつとめとして色々なちしきを勉強していたので、ひとつひとつは毒じゃなくても同時に食べることで毒になるものがあることを知っていたのです。
そして、ナイトはベルタに自分を贈ったブルックにとても感謝していたので、ブルックのことも護ろうと考えていました。
「大丈夫です」
また、毒味役の2人が毒味を終えて言いました。
「ナイト! わたしのていあんに意見するなんてひどいわ」
ベルタは内気ですが、家来のナイトにはちょっと強気なところがありました。
ベルタは自分のていあんがナイトのせいで採用されなかったので、とても不満そうです。
「今度こそいただきます!」
ブルックはまた邪魔がはいらないうちにと急いでキャンディ2枚を同時にほおばりました。
「お、おいしい」
するとしばらくして、ブルックは言いました。
「く、くるしい」
ブルックの顔色はまっ青に近い色になっています。
それを見ていたベルタは「まあ、たいへん」と近より、背中をさすってあげました。
「一度に2枚もお口に入れてほおばるからよ」
ブルックは言いました。
「た、たすけて」
まわりの大人たちはやっとここで異変を感じました。
ブルックを助けようと大人たちが近づこうとすると、ベルタがいきなり豹変しました。
「近づくんじゃないよ!」
ベルタの先ほどまでのかわいらしい声はガラガラの恐ろしげな声に変化しました。
そして見た目も見るからに恐ろしい魔女の姿にみるみる変わっていきました。
「アタシは恐怖の魔女『ウィッチ』。ブルックとベルタの兄妹があんまり仲がいいから許せなくて2人に呪いを掛けに来たのさ」
恐怖の魔女のウィッチはとても楽しい事が起こったと言わんばかりに満面の笑みでグシシと笑いながら言いました。
ブルックはもう動けない様子です。
まわりの大人たちは、ブルックがもう死んでしまったと思いました。
「バカどものおかげでアタシの目的はたっせいした。あばよ!」
ウィッチはグシシと笑いながらコウモリに変身し、そのまま窓から外に飛んでいきました。
さて、残されたのは大人たちとくまのぬいぐるみの騎士のナイト、動かなくなったブルックです。
本物のベルタはどこにいるのでしょう。
◆ ◇ ◆
ベルタは大きな物置部屋にいました。
恐怖の魔女のウィッチに閉じ込められたのです。
大きな声で助けを求めてもだれにも気づいてもらえません。
でも、ベルタは8才の小さな女の子ですが、泣いたりはしませんでした。
「待っていたらきっとだれか気づいてくれるわ」
でも、なかなか気づいてもらえません。
「何か助けを呼べる道具はないかしら」
物置部屋には、使えなくなったり使わなくなったり、とても高価だけど時代おくれになった色んなガラクタが、いーっぱい山のようになっていました。
するとこわれて音の出なくなったたて笛が見つかりました。
このたて笛は昔ベルタが学校の音楽の授業で使っていたのですが、やんちゃな兄のブルックがチャンバラをしてこわしてしまったのです。
「この笛がなおって音が出るようになったら、きっとだれかに気づいてもらえるわ」
ベルタは小さな窓からさし込んでくる小さな光の下で、こわれたたて笛を調べます。
はじめの内はどうして音がでないのかまったくわかりませんでした。
しかし、とうとう「ふぅ~」と、少しだけ音が鳴りました。
「あ、わかった!」
ベルタは、たて笛のある部分にひび割れを発見しました。
「きっと、このひび割れから空気がぬけているのが原因だわ!」
ベルタは今日の自分はとても冴えていると思いました。
ひび割れをベルタは手で塞いでみます。
「ふぉ~っ」
さっきと同じぐらいの小さな音しか出ません。
ひび割れが大きすぎて、ベルタの可愛い小さな手では塞ぎきることができないのです。
「どうしたらいいのかしら……」
またガラクタの山を探してみると、古い救急箱を見つけました。
するとベルタの冴えた頭脳が高速回転します。
「ひらめいたわ!」
ベルタはいそいで救急箱をあけました。
「ケガの時に巻いたりする包帯があれば、ひび割れを塞げるわ!」
救急箱の中を探してみると包帯を発見しました。
「やったわ!」
しかし、だいぶ使われてしまったのか長さが短く、たて笛のひび割れを塞げそうにありません。
「どうしたらいいの……」
ベルタは少し落ち込みましたが、また元気を出して救急箱の中を他に使えるものがないか調べてみました。
すると、ケガをしたときに貼る絆創膏を5枚見つけました。
「そうだ、これで人の傷に貼るみたいにたて笛のひび割れにはればいいわ!」
ベルタは絆創膏を5枚と短い包帯を全部使って、たて笛のひび割れを塞ぎました。
「今度こそうまくいくはずよ」
ベルタはおもいっきりたて笛を吹きました。
「ふぁあぁああああ~~~っ!」
すると、今度はとてもとても大きな「ファ」の音が出ました。
「ふぁあぁああああ~~~っ!」
ベルタは「今度こそだれか気づいて!」と願いをこめて何度もたて笛を吹きました。
◆ ◇ ◆
「ふぁ~~~っ」
その音に最初に気づいたのは、ぬいぐるみのくまの騎士のナイトでした。
どこからかかすかにたて笛の「ファ」の音が聞こえてきます。
ナイトがその音の発信源を探すと、物置部屋に行き当たりました。
急いで物置部屋の扉を開けようとしますが、鍵がかかっていて開きません。
「だれか、鍵を開けて!」
でも、急に言われたところで、誰も物置部屋の鍵をもっていません。
ナイトはベルタに授かった自慢の騎士の剣を抜きました。
「ベルタ様、扉の前からは離れておいてください!」
扉の向こうのベルタに的確な指示を送ります。
そして、ナイトの剣がキラリと光りました。
「えいっ」
気合いとともに見事に錠前を切り裂き、扉が開きました。
流石ぬいぐるみ剣流5段の剣技を持つ男です。
「ベルタ様!」
ナイトがまさに扉に飛び込もうとしたその時、中から誰かの姿が現れました。
右手に包帯やら絆創膏やらで修理されたたて笛をもったベルタです。
ずっと暗いところにいたからでしょうか、光が眩しいのか目の上に左手をかざしています。
「あぶない、ベルタ様!」
ベルタが少しふらついていて倒れそうなところをさっとナイトが騎士らしく支えました。
「ベルタ様、無事でよかった!」
ナイトはほっとして気が抜けて、安心感からおいおい泣きました。
ぬいぐるみなので涙を流す機能はありませんが。
「ナイト、ありがとう」
ベルタは自分のからだを支えてくれているナイトにお礼を言いました。
「わたしを物置部屋に閉じ込めたのは恐怖の魔女のウィッチよ」
ベルタは自分の身に起こった出来事をかいつまんでナイトに説明しました。
そこでナイトはブルックのことをベルタに説明しなくてはいけないことにやっと気づきました。
「ベ、ベルタ様……ブルック様が……た、大変なことに……」
ナイトはブルックを護り切れなかったことで面目がありません。
しょげこんだナイトの説明はまったく要領をえないものでした。
「ナイト! しっかりして! さっきは見事にわたしを見つけ出してくれたじゃない。あなたへの信頼は何も失なってないわ。ブルックお兄さまに何か大変なことが起こったのね。何が起こったのか落ち着いて説明しなさい」
ナイトはベルタにはげまされて、普段どおりとまではいきませんが、少し落ちつきを取りもどしました。
「恐怖の魔女のウィッチがベルタ様に化けてブルック様に呪いのかけられた棒つきキャンディを食べさせました。その結果、ブルック様が苦しんでおられます」
ナイトは今度こそ、しっかり何が起こったのかをベルタに報告することが出来ました。
「それは大変じゃない! いそいでブルックお兄さまのところに案内して!」
2人とまわりの大人たちは、またブルックのところに急いで引き返しました。
「それにしてもウィッチめ。わたしに化けるなんて、してやられたわ。今に見ていなさい!」
そんなベルタが内気だったなんて、まわりの大人たちはもうだれも覚えていませんでした。
◆ ◇ ◆
ベルタとナイトがブルックの元に急いで駆けつけた時、ブルックはもうぐったりと横たわり、顔色は青白く、ピクリとも動けなくなっていました。
もしかしたらブルックはもう死んでしまったのかも。
そんな悪い考えがナイトの頭をよぎります。
「ブルックさま! ブルックさまー!」
ナイトが顔面蒼白になり、ブルックを揺すりながら名前を必死に呼びかけます。
「ナイト、落ち着きなさい! こういう時は病人を揺らしちゃいけないのよ」
どこまでもベルタが頼もしいとナイトとまわりの大人たちはまた感心しました。
「ナイト、どうして恐怖の魔女のウィッチが毒じゃなく呪いをかけたと分かったの? ウィッチ本人がそう言ったの?」
ベルタが疑問に思ったことをナイトに尋ねます。
ナイトは頑張って、その時の記憶を探ります。
「え~っと、それはウィッチがこう言ったからです。"アタシは恐怖の魔女『ウィッチ』。ブルックとベルタの兄妹があんまり仲がいいから許せなくて2人に呪いを掛けに来たのさ"」
「恐怖の魔女のウィッチは『2人に呪いを掛けに来た』と、確かにそう言ったのね」
ベルタはなるほどとうなずき、また質問します。
「どういう風にキャンディで呪いを掛けたのかしら」
ナイトはまた頑張って思い出します。
「う~んと、赤と白の2枚の棒つきキャンディを毒味役の人が1枚ずつ、それから交互になめても呪いは発動しなかったのですが、ブルックさまが2枚同時になめると、しばらくしてブルックさまが苦しみだしました。きっと2枚同時になめたら発動する呪いが仕掛けられていたと思います」
頑張って思い出したナイトをベルタは頭をなでなでしてあげました。
「きっと、それが正解ね! だとすると……」
この後もベルタはナイトに色々と事情聴取しました。
「色々分かってきたわ」
今日のベルタの頭は冴えまくりです。
「ということは、恐怖の魔女ウィッチのところには、わたしだけでいかないといけないということだわ」
この世界の呪いは、呪いをかけられた本人または一番身近な人が解かないといけない性質のものがほとんどでした。
また、この性質の呪いは他の人に助けを求めることが出来ないのです。
今回の呪いもきっとそれだろうとベルタは目星をつけました。
そして今回の場合、ベルタは呪いを掛けられたブルックの一番身近な人であり呪いを掛けられた本人でもあります。
自分ひとりだけで解決するにはどうしよう……とベルタが思案しかけたところに、ナイトがいいました。
「ぼくはぬいぐるみだからベルタ様についていっても大丈夫ですよね?」
ベルタもはっと気づきました。
「ナイト、名誉挽回ね! ナイトの言うとおりだわ。ナイトはぬいぐるみだからわたしを手伝えるわ!」
ナイトはもうひとつ提案しました。
「魔女の館は冬の雪山であるスノーマウンテンにあると言われています。ここからベルタさまの足では到底たどり着けないでしょう。お供にぬいぐるみロバのロバートもお連れください。雪山では足が沈み込んでしまって歩きづらいですが、ロバートにソリを引かせれば平気です」
ベルタはナイトに感心しました。
「ナイト、素晴らしいていあんだわ。さっそく準備に取りかかって!」
「ははっ!」
ナイトはベルタに敬礼をすると、準備のためにびゅんと広間の扉から飛びだしていきました。
◆ ◇ ◆
広間に残されたベルタも、自分に出来ることは何だろうと考えをめぐらせます。
「呪い返しをしなくてはいけないわ」
今回のような呪いを解くには、相手に呪いを返す呪い返しが必要でした。
過去に魔法の先生から習った呪い返しのやり方を思い返します。
「恐怖の魔女のウィッチはきっと呪い返しは想定内でしょう。きっと簡単な呪い返しとはならないはず……」
ベルタはウィッチの性格を想像してみます。
今回の状況から、最初からブルックとベルタの兄妹を用意周到に狙いうちした呪いだと考えられます。
だって、ブルックが棒つきキャンディを2枚同時にほおばるだなんて、ブルックのことをよくよく見ていないと絶対に気づかないはずですもの。
とても慎重で執念深い性格であるとけんとうをつけました。
「そういう性格だから……こういう感じにして……」
呪い返しのおおまかな設計のレシピが出来あがりました。
そして、呪い返しの素材には、ウィッチと同じ棒つきキャンディを選びました。
「シェフー、シェフー!」
シェフを呼んで、呪い返しスペシャル棒つきキャンディを2枚作るように指示します。
「色は青とオレンジにして、可愛くラッピングしてね。リボンもつけて」
「ははっ!」
シェフもベルタに敬礼して、びゅんと広間の扉から飛びだしていきました。
「他に準備したほうがいいことは……」
ベルタはまだまだ考えます。
「そうだわ、物置部屋に何か使えるものがないか見てみましょう」
物置部屋に急いで引き返します。
そこで見つけたのは『遠見の双子水晶』という魔道具です。
「これはきっとウィッチとの交渉に役立つわ。持っていきましょう!」
◆ ◇ ◆
冬の雪山に備えてベルタはばっちり厚着をしました。
最新の冬服なのでおしゃれ度もばっちりです。
ナイトとロバートはぬいぐるみなので、そのままの毛皮で大丈夫です。
ロバートはソリをつないで2人が乗り込むのを今か今かと待っていました。
「用意はばっちりね。改めて確認だけど、ウィッチがいる場所はどこ?」
ベルタが再確認の為に質問をしました。
「雪山のスノーマウンテンと言われています。恐怖の魔女は別名『冬の女王』とも呼ばれています」
ナイトがその理由を説明しました。
「本当にあそこにいるのかしら」
ベルタが右手の人差し指で示した方角には雪山のスノーマウンテンがそびえ立っていました。
「雪山の頂上があれだけ吹雪いているということは、きっといるでしょう」
自信たっぷりにナイトが答えます。
「あの雪山のどの辺に魔女の館があるのかしら」
念には念をいれます。
「中腹くらいにあるという情報をつかんでいます。また、雪山のふもとの住人が魔女の館に食料をよく届けているらしいので、その方に詳しい館の位置を聞きましょう」
ナイトもきちんと調査していたようです。
「十分な食料と水は用意してあるかしら」
ベルタは抜かりありません。
「ロバートなら魔女の館まで2日でいけますので、往復と予備を考えて6日分の食料と水を用意させました」
ナイトもベルタの信頼に応えます。
「ナイト、ばっちりね。それでは出発よ!」
ベルタとナイトはロバートのソリに乗り込みました。
「出発!」
◆ ◇ ◆
ぬいぐるみのロバのロバートは久々の仕事にはりきっています。
ブルックとベルタがもっと小さいときには子守りの仕事をしていたのですが、最近はすっかり引退していました
「ぶるふー!」
気合いが入ります。
「ロバート、こら、もっと速度を落とすんだ!」
ナイトが悲鳴をあげます。
ブルック様のピンチに何を言ってるんだこのクマは。
ロバートは聞こえないふりをして、さらに速度を上げました。
「こわいよー、ゆれるよー」
ナイトは泣き言を言っているようです。
「あはは、これもう飛んでるんじゃない?」
ベルタは逆にはしゃいでいるようです。
流石ベルタ様は肝が太くていらっしゃる。
もしかしたら最後のロバ生の晴れ舞台。
そう思いながら、ロバートは命をかけて走りました。
「ぶるふー!」「やめてー!」
ベルタはこの後に控えている恐怖の魔女のウィッチとの対決に緊張しながらも、一面の銀世界と段々と近づいてくる雪山の壮大な姿に目と心を感動で震わせていました。
わたし、ブルックお兄さまが憧れていた冒険者をしてるみたい!
「ロバート、もっと走れー!」「やめてー!」
ロバートの頑張りで、雪山まで2日の予定が1日で到着しました。
「ロバートお疲れさまでした」
ベルタがロバートを労います。
「ロバート、よくやった」
ナイトも一応ロバートを労います。
「雪山のふもとの村で、魔女の館の場所を教えてもらいましょう。それから泊めてもらえる宿がないか聞いてみましょう」
3人はふもとの村に入っていきます。
◆ ◇ ◆
その3人のようすを魔法の鏡にうつして見ているのは恐怖の魔女のウィッチです。
「どんな嫌がらせをしてやろうかね?」
ウィッチは考えをめぐらせます。
村で寝ている間に、山を高くしてやろうか?
それとも雪山を別の場所に引っ越してやろうか?
しかしウィッチは、呪いを掛けた制約により、あまり大した嫌がらせはできないことを思い出しました。
すぐそばにひかえていた使い魔の烏のクロウがアドバイスします。
「地味なワナしか仕掛けれないと思いやすぜオヤビン! おとしあなを掘る、霧をはっせいさせる、雪崩はあぶないからダメ、間違った道を教える、通せんぼする……」
クロウの口からすらすらと次々にいやがらせの数々が出てきました。
「クロウ、わたしのことは親分じゃなくて『おじょうさま』とお呼び! あと、いやがらせの案は全部採用!」
よく朝、ベルタ、ナイト、ロバート3人が村からでるとものすごい霧で雪山が覆われていました。
「この霧はきっとウィッチのしわざね」
でも、ベルタたちは村の人たちから霧が出たときの対策もしっかり聞いていました。
「霧が出ているときは、しっかりこのロープを触りながらロープづたいに歩くのよ」
そのまま進みしばらくすると、魔女の館への案内標識が現れました。
標識は右を向いています。
「これもウィッチのしわざね。村びとの情報によると魔女の館は左の方向よ」
それを魔法の鏡で見ていたウィッチがくやしがります。
またしばらく進むとロバートが止まりました。
ナイトに「ぶるふ」と何かを伝えます。
「ベルタさま、『その先の雪がなんか変』だそうです。おとしあなかもしれません」
それを見たウィッチはまたくやしがります。
3人がおとしあなと思わしき付近をさけて安心しかけたところで、使い魔の烏のクロウが「いまだ!」と号令をかけました。
何者かが3人の行く先をふせぎました。
「わしは雪男のスノーマンと申す。おまえらに恨みはないが邪魔させてもらう!」
ナイトがソリから飛びおり、すばやくソリとスノーマンの間に入ります。
2人のはげしい戦いが始まりました。
「ナイト、スノーマンにけがはさせないで!」
ベルタはきっと雪男のスノーマンは魔女の命令で仕方なく邪魔をしているのだろうと思いました。
実は、ナイトの騎士の剣はこういう時のために、片側の刃はけがをさせないようなつくりになっています。
ナイトとスノーマンの戦いは激しさを増していきます。
その時、ベルタが動きました。
「雪男さん、わたしをつかまえたらこの戦いは終わりよ!」
スノーマンの目がキランと光りました。
スノーマンがベルタの方に走り出します。
「ああっ、ベルタ様!」
ナイトが悲鳴をあげたその時、スノーマンは見事におとしあなに落ちていました。
「そこで待っていたら後で助けてあげるわ」
見事、ベルタの頭脳と勇気の勝利です。
負けをさとったクロウは魔女の館に逃げもどっていくのでした。
◆ ◇ ◆
ベルタとナイトとロバートの3人はとうとう魔女の館にたどり着きました。
ここまで来られたら、魔女のウィッチもおとなしく扉をひらいて招き入れます。
もちろん、魔女の館の扉は自動で開きます。
「くまに扉を壊されたらかなわないからね」
ウィッチは負け惜しみの台詞を口にします。
「魔女『ウィッチ』、わたし『ベルタ』がここに呪い返しを宣言するわ!」
ベルタが調べたところ、正々堂々と宣言するのが一番呪い返しの成功率があがるということで、真正面からベルタは宣言をしました。
「これが『おくりもの』よ!」
可愛くリボンがかけられた包みをウィッチに手渡します。
ウィッチは呪い返しのおくりものなのにも関わらず、すこし嬉しく思いました。
思い返せば、おくりものをもらったのは彼女の人生で初の出来事でした。
包みを開けると、とても可愛い青とオレンジのキャンディがはいっています。
そのまま食べようとしましたが、はっと気づきました。
「クロウ、毒味をしなさい。最初は1枚ずつ、次に2枚同時に」
実はカラスにも舌があるのです。
クロウはおそるおそる、小さな舌でペロペロと棒つきキャンディをなめました。
最初は青。
次にオレンジ。
最後に2枚同時に、小さな舌で一生懸命なめました。
ウィッチはしばらくクロウが苦しんだりしないか待ちました。
大丈夫です。
魔女のウィッチは初めてのおくりもののキャンディなので、もうたまりません!
「じゃあ、どっちから食べようかしら。青からいただくわ」
ペロペロペロペロ。
あっというまに青の棒つきキャンディがなくなりました。
「次はオレンジをいただくわ」
ペロペロペロペロ。
あっというまにオレンジの棒つきキャンディもなくなりました。
「ふぅ、うまかったわい」
魔女のウィッチは初めての幸せな気分を味わっています。
「く、苦しい!」
しばらくして、ウィッチが苦しみ始めました。
「ア、アタシは抜けがないように調べたはず……い、いったいどうやってアタシに呪いをかけたんだい?」
魔女のウィッチは苦しみながらも疑問に思ったことを尋ねます。
「じつは1枚ずつたべると呪いになり、2枚同時にたべると呪いを解除するキャンディなのよ! もうキャンディはなくなったから、わたししか呪いは解けないわ!」
ウィッチは、してやられたという風にポツリと「なるほど、そうか、ちくしょー」とつぶやきました。
「あなたにもこれで呪いがかかったわ。あなたがわたしたちにかけた呪いを解いたら、わたしがあなたにかけた呪いも解くわ!」
ウィッチはとうとう降参しました。
「うーん、分かった! えい! 解いた! おまえたち2人にかけた呪いは解いたから早く何とかおし!」
ベルタはこの時のためにもってきた遠見の双子水晶をポケットから取り出しました。
この水晶は離れたところに置いてある片割れの水晶を通して、その場所の光景が見える魔道具です。
「ブルックはまだ倒れているわ。呪いはまだ解けていないわ」
魔女のウィッチは今度こそ本当に降参です。
「なんと準備のよい、わかった負けた負けた。アタシの負けだよ。なんて賢いおじょうちゃんだい。はい解きましたよ」
ウィッチはブルックとベルタにかけた呪いを今度こそ解きました。
「ブルックが立ち上がった。動いたわ。確認したので、あなたの呪いも解きます」
ベルタは魔女のウィッチにかけた呪いを解きました。
するとどうでしょう。
「アタシどうしてこんなことしちゃったのかしらん」
なんと、魔女のウィッチは意地悪になる呪いがかかっていた、いい魔女だったのです。
ベルタはどうやら呪いを解きすぎてしまったようです。
「お茶でものんでいって?」
ウィッチのとなりでは使い魔の烏のクロウがよろこんでいます。
「ウィッチさまが元にもどったー! もう意地悪しなくてすむんだカー!」
これまでの苦労を思いだし、涙を流してよろこんでいます。
魔女の館での初のティーパーティが始まりました。
ベルタたちはあまった食料をていきょうして、パーティを盛りあげます。
スノーマンも助け出しました。
「わしはあったかいティーを飲んだら溶けてしまうので遠慮させてもらう」
スノーマンはつめたい東の国のお酒をのむようです。
夜遅くまでティーパーティはつづきました。
「もう、今日はアタシの館に泊まっていったら?」
まさか魔女の館に泊まることになるなんて!
ベルタはおどろきつつも思いっきりたのしんでます。
魔法のお風呂に魔法のベッド!
「アタシの館、たのしんでもらえたかい? 初のお客さまだからもてなさないとね。グフフフ」
ウィッチもはじめてのお客さまをおむかえできてうれしそうです。
さあ、明日はブルックやみんなの待つ家にかえらなきゃ。
もう寝ますよ!
◆ ◇ ◆
帰りみちもロバートは飛ぶように走りました。
「たのしー!」「もう、勝手にしろー!」
ベルタ、ナイト、ロバートの3人が無事に町にかえると、町はお祝いのパレードの準備をしていました。
ブルックもすっかり元気になって3人出迎えます。
ベルタがブルックにかけよります。
「お兄さま、すっかり元気になったのね!」
ブルックもベルタにかけよります。
「ベルタだけ冒険してきたんだな、うらやましい!」
ブルックは大冒険をしてきたベルタがうらやましいようです。
「ぼくもベルタをたすける冒険がしたい!」
ベルタは「お兄さま、わがままをいわないで」と苦笑しています。
そんな祝賀ムードの中、ロバートがよろよろと立ちどまりました。
「! ロバート、どうしたの!?」
ベルタがあわててロバートに近よります。
「ぶるふ……」
ナイトが翻訳します。
「わしはもうだめだと言っています……」
ナイトの目に涙がうかんでいます。
「そんな、ロバート……ありがとう……! ゆっくりやすんで……」
ベルタの目にもみるみる涙がたまっていきます。
「ロバート、よくやったな、ありがとう」
ブルックもロバートの労をねぎらいました。
そうして、ブルックとベルタがロバートのからだをやさしくさすっていると、ロバートが「ぶるふ!」と鳴きました。
ナイトが翻訳します。
「何々、もう休めたから元気になった……だって!?」
ロバートはまた元気に歩きはじめました。
「え、ロバート元気になったの! よかったわ」
「おい、ロバートおまえ……いや、元気になってよかったよかった!」
ロバートはまた「ぶるふ!」と鳴きました。
ナイトは翻訳します。
「これからもよろしくおねがいします、だそうです」
実をいうとロバートはもう少しで黄泉の国に旅立とうとしていたのです。
でも、ベルタとナイトとロバートの3人の頑張りを見ていたこの世界の神さまがロバートに生きる力をひそかに贈ったのでした。
「さあ、今度こそ家にかえるわよ!」
すっかり強気な女の子になったベルタのかけ声で、誰ひとり欠けることなく、みんなで家に帰りました。
それからしばらくして魔女のウィッチからブルックとベルタあてにおわびのおくりものの箱がとどきます。
「何だろう?」
ブルックが箱を開けると、とてもおいしそうな紫と黄いろのケーキが入ってました。
「えー、もう勘弁して!」
ブルックが悲鳴をあげます。
「あはははは」
楽しそうなベルタの笑い声があたりにひびきました。
それからというもの、ブルックとベルタの兄妹と魔女のウィッチは数えきれないくらいおくりものをお互いにおくりあったそうです。
とおいとおい別の世界にある、小さな国の、小さな町の出来事です。
~fin~
作:黒猫虎/クロネコタイガー
編:Nj
さいごまで読んでいただき、ありがとうございます!
誤字、脱字、その他の読みづらいなどのごしてきお待ちしております。
ご感想・評価などもよろしければお願いいたします!
2020.05.11 23:20 ルビ修正。
2020.01.10 20:47 ルビ、行頭空白文字など修正、文章微調整。
2020.01.10 10:58 文章区切り用の飾り文字を修正。
2020.01.10 11:45 前書き削除、あらすじ修正。
2021.06.24 11:20 本文、あらすじ微修正。