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Killing Syndrome 2  作者: 兎鬼
プロローグ
3/5

成長


9月21日(土)19時47分


「イチ。お嬢ちゃんの様子はどうじゃ」


「万全です。順調にトレーニングメニューを消化しています。しかし、どうやら、予定より成長が速いようです。妹達ではあと数日持つかどうか」


「いいことじゃないか。それに、実は少しくらい早く終わって欲しいと思っとったんじゃ」


「流石マスター。想定通りでしたら何よりです」


モニターを確認すると、お嬢ちゃんは襲いかかる娘たちを、今日もせっせと粉砕している。

お嬢ちゃんが目覚めてから、今日でおよそ4日が経過するが、お嬢ちゃんは目覚めてから今日まで、一切休むことなく戦い続けている。


体をタフに作り替えてやったお陰で、気力さえ持てばできん芸当ではない。しかし、ここまでやるとなると正直、精神的にもキツくなっているはずじゃ。それに、もし無事生き延びられたとしても、しばらく戦闘はできん体になってしまうじゃろう。


「ほう」


前方の5体がお嬢ちゃんを取り押さえ、後ろの5体がビーム砲でお嬢ちゃんを焼き殺そうと試みる。そこで、お嬢ちゃんはなんと、一歩で後ろの娘たちまで近づくと放たれるビームを利用して前方の5体を倒してしまった。


相当疲労が溜まって、眠気だって襲ってきているはずなのに、あの動きか。イチにはああ言ったが、予想よりもお嬢ちゃんの成長は遥かに上回っているかもしれんな。

それにしても、ぶっ通しで闘っているはずじゃが、なんかどんどん速くなってる気がするのう。


本人は気付いていないようじゃが、娘たちはアンドロイド。当然、日を追うごとにお嬢ちゃんの動きを学習し強さを増している。じゃが、お嬢ちゃんは、娘達を圧倒する術を学習している。既にどの娘たちも個体としての強さでは、Aランクに到達しようというほどに強くなっているはずじゃ。にも関わらずお嬢ちゃんは娘達を置いてけぼりにするほど強くなっておる。


「イチ。お嬢ちゃんの様子、どう思う」


「明日の朝から昼ごろで力尽きるのではないかと。あの部屋に入れれば問題ないでしょうけれど、そうでなければ掃除されるでしょう」


「そうか」


当初用意した数は1000体。そして、残機数は、およそ300。イチには悪いがわしの予想では、お嬢ちゃんは倒れることなく、今日中にここに来る。

もちろんそこに文句などあるはずもない。そして、お嬢ちゃんは、今の状況でできるベストを尽くしているとも思う。しかし……


「イチよ。戦闘面ではどうかのう」


「ベストを尽くし、確実に強くなっています。このまま続けても強くはなるでしょう」


「続けても、か。やはり、お前さんにも思うところがあるんじゃな?」


イチは、わしと同じところに引っかかったようじゃ。戦闘における致命的な癖。この先、よほど運が悪くなければ、しばらく気にすることもない程のものではある。じゃが、あの娘の今後を考えてやるなら、あの癖だけはなんとしても修正する必要がある。

もちろんこれは欲目でしかない。しかし、そのせいで殺されてしまうかもしれないことを考えれば手を打っておいてもいい。


「イチ。暇か?」


「ええ、とても。そして必要なソフトのインストールも終了しています」


イチに断られればいいくらいの気持ちで、手伝いを打診しようとしたが、どうやらイチはイチで乗り気らしい。


わしの言葉に返答すると、イチはすっと立ち上がり、入り口まで歩いていった。そして、改めてこちらを振り返りスカートの裾を上げお辞儀をして見せた。


「イチや。後は任せるぞ」


「はい。行ってまいります、マスター」


我が娘ながらに美しい。親バカなんじゃろうが、イチだけは本当に出来がいい。人間らしい心をほとんど持たない、このわしにすら親心を抱かせるほどに。


「パパと呼べ、パパと」


「死んでもごめんです、マスター」


ついちょっかいを出してしまったが、イチはわしの言葉を軽く流し、扉を出て行ってしまった。


扉を出ていく彼女の背中には、ベースになったメイドの優しい面影が浮かんでいる。お嬢ちゃんの面倒はイチに任せておけば心配はない。ワシはその後のパーティーの準備でもするとするかの。


立ち上がり、壁に置いてある装置の一つを手に取る。"彼"には悪いが、楽しい遊びをさせてもらうとしよう。


まてよ。イチのやつさすがとか言っておったが、予想してたんだったら、適当なこと言っておったんじゃなかろうか。そう思うと、わしは娘の成長が少しだけ切なくなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


9月21日(土)19時45分


「うっらぁぁあああああ!」


ドゴォォォン


正面のメイドに向けて、メカの右腕で渾身の突きを放つ。本気で踏み切ったせいか、どの機体も私の動きに反応できなかったようだ。


胸元にもろに攻撃を喰らったメイドは、後ろにゾロゾロと続くメイドをドミノのようになぎ倒した後に完全に動かなくなった。

10体くらいは巻き込むことができただろうが、それでもまだ波が引く様子はない。


キュィィィィイイイイン


後方からビームを溜める音がする。長い戦闘の中で、あのビームはもはや溜める音だけで見切れるようになっていた。私はギリギリまでタメを待ち、攻撃が放たれる瞬間に地面を蹴り、後方、ビームを放つ機体よりも後ろに向かって跳躍した。


ドゴォォォン


私の予測通りビームは正面にいたメイドの波にぶち当たり、多くの機体を粉々に破壊し無力化した。


「コロス、コロス」


「ハカイ、ハカイ」


着地地点ではすでに無数のメイド達が私を捕らえるために陣形が組み、どこに降りたっても対応できるよう動き出している。しかし、それももう、繰り返し見てきた動きに過ぎない。


降りたった途端に、波のように左右からメイド達が押し寄せてくる。私は一気に前方へ駆け出し、さっきの要領で一体の胸に突きを入れる。


ドゴォォォン


またもなぎ倒されたメイドによって波に隙間ができる。私は倒れたメイドをふみつけ、急いでまたメイドの波の外へと抜け出した。


ここ数日で私の戦闘はルーチンワークの繰り返しに成り下がっていた。戦闘経験を積むことを考えれば、明らかに良くないことだろう。しかし、私の体にはもう自由に動き回れるだけの余力は残されていなかった。ルーチンの動作自体には負担がかかるような動きは微塵もない。けれど、寝ずに戦い続けたせいで、疲労が蓄積し体が重い。そして何より辛いのが、気を抜けば押し潰されてしまいそうになる程の眠気だ。


必死に眠気を振り払い、追撃を試みるメイド達をかわそうと踏み出す。しかし、踏み出した足は言うことを聞かず、次の瞬間には私の体は倒れ込む姿勢をとっていた。


「ヤバっ」


ドサァ


あと400体近くはいるであろうメイド達が私に向かって迫ってくる中、私は踏み切りの勢いそのままに、地面に叩きつけられる。痛みのおかげで、意識はなんとか保っていられるが、床に寝てしまったことにより、さらに体の自由が効かなくなる。


キュィィィィイイイイン


前方からはにじり寄るようにメイドが迫り、方位の隙間からは別のメイドが、私を焼き殺そうと口を開けビーム砲の銃口をこちらに向けている。


「クソ!」


バコン


モテる限り全力の力を込めて、頬を叩き意識を覚醒させる。そして、なんとか床を這うようにして四つん這いで立ち上がると、四肢に力を込める。


ビィィン


ビームが放たれる瞬間、思い切り地面を押し空中に飛び上がる。鳥になったかのような癖になる浮遊感に襲われる。


気持ちいい。


私は空中に飛び上がり、浮遊感になんともいえない安心感と快感を得て、そのまま眠りに落ちてしまった。


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