表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い天使に救われた青年と神域の聖天使  作者: 松プリン
プロローグ
1/3

エンジェルズ・イブ

作者執筆殆ど初心者なので暖かく見守って頂けるとありがたいです。

西暦二千三十九年。十二月二十四日。人間が主流となって動いていた世界に衝撃が走った。突如として空に大きな白き門が現れ人々の心を鷲掴みにする。そしてその門が開き、中からは背中に純白の翼を持った<天使>の大群が雪崩の様に世界に降り立つ。


そんな、世界が驚愕に包まれている中、見晴らしのいい丘で曇った空からは太陽の光が漏れ出しながらも雪が降り続ける幻想的な空を背景に二人の子供が対話している。一人は普通の七、八歳くらいの少年。そしてもう一人は白髪のこの世のものとは思えない程に美しい容姿の八歳くらいの少女。だが、そのどれよりも少年の目を引いたのは少女の背中に折りたたまれている白い翼だった。


「あなたの、血をくれない?」


透き通る様な透明感のある声で少女が少年に問う。その表情にはなんの感情もなく、機械的に質問された様に少年は感じてしまう。


「血?少しならいいよ」


少年は震える声で答えた。普通見知らぬ人?に血をくれと言われても嫌だというと思うが、この少年は家庭の事情により人から必要とされる事に飢えていてその願いが魅力的に思えたのだ。


「少しじゃ足りない・・・・・・」

「じゃあ、どのくらい?」

「これくらい・・・・・・」


そう言うと少女は何処からか金色の剣を取り出し少年の胸を横薙ぎに斬り裂いた。


「え?う、うウァァァッ!」


少年の胸から止めどなく溢れる血が少年の命の火を減らし続ける。


「すまない。人の子。時間がなかった」


そう言う少女の表情は先ほどと変わらず無表情のままで少年はその顔に氷を連想した。


「ど、どうしてこんな事?」


少女は地面に垂れてしまった血に手をかざす、すると空間が歪みだし少年の血を何処かへと消し去ってしまう。


「さようなら人の子。あなたの魂が幸せになりますように」


少女は少年に向けて祈りを向けると背中の翼を広げて何処かへ飛んでいってしまう。


そして斬られた少年は・・・・・・



「死んでたまるか!夢を叶えないと!まだだ、まだ、死ねない!」


少年には夢がある。飛行機の操縦士になると言う夢。そして少年はその夢にこだわりを持っている。今は亡き父の様な立派な操縦士になるといつも母親に語っている。


少年の意識がどんどん薄れていく。そして薄れていく程に少年の心はどす黒い感情で満たされていく。明るい光が少しずつ闇に閉ざされていく様に少年の心は少女への恨みで満たされていく。少年は一時たりとも恨む事をやめなかった。それをやめたら今すぐにでも死んでしまいそうだったから。


少年は願った。生きたいと、生きてあの少女を殺すと、自分にされた様に斬り裂いてやると、すでに少年の心には先程までの夢を叶えると言う明るい心情では無く、ただ少女を殺したいとそれだけを考えている。 すると少年の腹の辺りが暖かくなる。少年は血が出過ぎて気が狂ったかと思ったがそれは違った。黒い鳥。カラスとも違うどこか神秘的なその鳥は少年の切り裂かれてしまった胸に留まっていた。


「助けて、あげましょうか?」

「だ、れ?」

「目の前にいるじゃない?」

「鳥?」

「そうよ」


少年は目の前の鳥から聞こえる女性の声に驚きながら先ほどの言葉を思い出す。


「助けて、くれるの?」


少年は苦しみながらも助かるかもしれないという希望に縋る様に目の前の鳥に問う。


「助けられるわよ、物凄く確率は低いけどね」


鳥は小馬鹿にする様な声音で答える。


「助かるなら、なんでもいい!アイツを殺せるなら!」

「さっきの天使?あれは強いわよ。正直化け物ね」

「それでも、それでも殺したい!何をしてでも、殺したい!」

「いいわねぇその憎悪、気に入ったわ。助けてあげる」


すると黒い鳥は歪みながら少年の傷口へ滑らかに入り込んでいく。すると少年の身体は・・・・・・


ドクン、ドクン、ドクン、ドクンドクンドクンドクンドクン。


少年の心拍数が異常なほどに脈打ちながら少年の身体を構成する要素が一つ一つ変化していく。血液、筋肉、それら全ての要素が人間のものでなくなっていく。


「ァァァッギャアァァッ!」


少年はこれでもかと苦しむがそれを助ける者もそれどころかここら一帯には人影すら見えない。少年は一人、ただ一人苦しむ。


「あれ?」


突如として痛みが消失する。少年は何事かと自分の体を確認するが天使の少女に付けられた傷も塞がり傷跡だけが残されていた。


「驚いた、本当に耐えたのね」


何処からか耳では無く頭に直接声が聞こえてくる。


「え?」

「私の堕天力に耐えられる人間なんているはず無いと思ってたわ」

「???」

「まぁその辺は追って話すけど、まずこれだけは言っておくわね」

「うん」

「あなたはもう、人間じゃないわ」


その一言はとても簡潔なものだったが少年の頭をパンクさせるには十分過ぎた様で少年は先ほどの苦痛での疲れもあり意識を手放してしまった。


そしてこの一連の出来事こそが<天使の雪崩>と呼ばれる世界に初めて天使が現れた現象であり世界が天使に支配される事となる運命の日、<エンジェルズイブ>だった。


だが、世界は知らない。それ以上に危険で悪質なこの世に災厄をもたらす事になる異物がこの日に誕生した事を・・・・・・







十年後~天使歴十年、世界のすべての国が天使に統治される天使国家となり人間たちが過ごす毎日は全てにおいて天使が絶対とされるものへと変貌していた。


天使国家の中でも主要国とされ四大天使ウリエルによる統治が行われる国ウリエラティアでは今、四大天使が会議の為にとある高層ビルの一つの部屋に集まっていた。


「ミカエル。あの案件は?」

「それは済んだ。それよりガブリエルよ、寝てはいないか?」

「大丈夫大丈夫。あれ?ウリエル?どこまで話したっけ?」

「もう!ガブリエルったら、人間たちをもっと効率良く酷使する方法についてよ!」

「ああ、ごめんごめん。そうだったね」


<天使>とは人間が住む平界より一つ上にある天界に住む住人の事であるのは今の時代を生きる人間達には常識的な事である。天使にも明確なランクがあり、一番下から天使、上天使、聖天使、聖情天使、真天使、神域天使とある。そして今会議を行っているのが聖情天使の中でも強者と呼ばれる四大天使だ。


聖情天使は基本的に一つの国を統治する。聖天使は聖情天使が統治する国の領地経営を任せられる。四大天使の国はどこも主要国なので四大天使は実質的に平界のトップではあるが四大天使にもさらに上がいるので本当の意味でのトップでは無い。


「天使製具をもっと増やせばいいのでは?」


ラファエル。銀色でストレートな髪を腰のあたりまで伸ばした絶世の美女が案を出す。


「だめだ。それでは我々天使の負担も増える」


それに対して黒に所々赤いメッシュの入った髪を肩のあたりまで伸ばしたミカエルが答える。


「じゃあ、人間たちを強化すればいいんじゃない?」


ウリエル。金色の長いフワフワの髪の目元が少し垂れている美女がそんな事を言い出す。


「強化ってー、どのやり方で?」


銀髪の長い髪が所々がピンクになっていていつも眠そうなガブリエルが疑問をあげる。


「天使力を入れてしまいましょうか?」


ラファエルがそう言う。


「そしたら、死にすぎちゃうんじゃない?」


ウリエルがそう言うのも当たり前で普通天使力。天使が持つ固有の超常現象を起こすパワー。その力は地球上の生活面にも活用され、車や電車などもこれで動いている。そしてその力を人間に与える、と言うのは結論から言うと可能である。だがその力の絶大さに比例して負担も大きく並の人間では身体が耐えられず力を与えられてから僅か数年で死に至る。


「人間など繁殖力だけが取り柄の生き物だ。その辺はどうとでもなるだろう」

「ミカエルらしいわね」


ウリエルが出した不安要素を一瞬でミカエルが切り捨てる。ここら辺はやはり彼女の天使としての誇りを重んじる生き方によるものだろう。


「じゃあ会議はこの辺にして、いつものやっちゃいますか!」


ウリエルは突然席を立つと大声を上げる。その声音には表面上歓喜しているように聞こえるがここにいる天使たちは皆頭の中で今日のゲームについて腹黒い考えを巡らせていた。


「運んできて」

「御意」


ウリエルが僕の天使に何かを命じる。


それから程なくして白い檻に入れられみすぼらしい服を見に纏った人間(家畜) が運ばれてくる。その人間達は皆同じ様な生気の無い表情でどこか抜け殻の様だ。だが、その中に一人。黒い髪に紫の目をした驚くほどに笑顔の青年がいた。


「ねぇ、あなたはなぜ笑っているの?」


ウリエルが怒気を含んだ重い声で青年に問う。


「笑わない方がおかしいですよ。だって、こんなに嬉しいんだから」

「何を言ってるの、貴方達は今から私たちのおもちゃになるのよ?」


すると青年の周りに黒いモヤの様なものが現れる。


「おもちゃ?俺を?いい冗談だなぁ」

「なっ!」


檻はモヤに包まれるとどこかに消え去り座っていた青年も立ち上がる。その表情は先程から変わらず笑顔で心の底から嬉しそうだ。


「あなた達はこの人間達に天使力を込めて遊ぶつもりだったんでしょう?」

「そうだが、何か文句でもあるか?」


ミカエルが答えると少年は手を額に当てて笑い出す。


「笑えるなぁ!天使はやっぱりゴミじゃないか!だから、死んでください」

「人間如きが天使に敵うとでも?」

「俺が人間に見えてる様じゃだめですよ。四大天使ミカエル」

「何?」

「ほら、これで死んでください」


少年の周りに黒いモヤが集まり、それは即座に複数の剣の形をとると天使達全員に向けて放たれる。それを四大天使はそれをギリギリで避ける。そしてその時の青年の表情と言えばこれはもう嬉しそうで、天使達もその笑顔に少しばかりの恐怖を抱き始める。


「それは堕天力か?それにしては強い気がするが・・・・・・」

「半分正解です。でもミカエル、あなたですら残り半分はわからないでしょうね」


青年は馬鹿にする様な口調でミカエルに答える。


「三人共気をつけろ。相当高位な堕天使かもしれない」

「ミカエルなら勝てる?」


ラファエルがミカエルに問う。


「正直時間を稼ぐので精一杯だ。四人掛りでやっとと言ったところか」


四人の中で一番戦闘力が高いミカエルがそう言うと言う事がこの事態の重さを表している。


「わかったわ」「わかりました!」


ウリエルとラファエルが答える。すると・・・・・・


「ミカエル。三人で頑張ってね」

「ガブリエル、どう言うことだ?」

「ミカエル、貴女ならもう気付いているんでしょう?」


青年が煽る様にミカエルにそう言う。


「ああ、だがそうだとしたら最悪の状況だな」


すると突然、青年とガブリエルの周りに黒いオーラの様なものが集まりだす。


「「堕天力解放!」」

「くそ!やはりそう言う事か!」


青年の背中からは禍々しい黒い翼が、そしてそれと同じ物がガブリエルの背中にも現れていたのだ。


「行くよ、深司(しんじ)

「ああ、ガブリエルこそ頼むよ」


深司と呼ばれた青年は先程迄の笑顔を解くと完全な戦闘態勢に移る。そしてこれから起こるであろう。天使歴の中でも歴史的な事件が起こるまでの時間はそう長くはなかった。







「でやァァッ!!」


ミカエルの持つ炎の聖大剣から放たれる青白い炎は会議室を真っ二つに割りこのビルにある他のフロアにまでその炎は轟く。十年前のエンジェルズイブでもミカエルに歯向かった人間達がその炎に身を焼かれて散っていった。そして深司達はそれを簡単に避けてしまうのだから異常さが見て取れる。


「流石は四大天使だ。天使力の質も量もとんでもない」

「・・・・・・」


深司はまたしてもミカエルに対して馬鹿にする様な口調で話す。ミカエルも普段ならこんな事を言われて黙ってはいないのだが相手のレベルが違い過ぎた為戦闘に集中していて怒る暇もない。


「深司、早くしないと逃げちゃうかもよ?」

「そうだね。一人は確実に仕留めたいから少し本気を出すよ」


その言葉を聞いてミカエルは即座に判断を下す。


「ウリエル。ラファエル。今すぐにこの場を離脱しろ」

「ダメよ。貴女一人を死なせるわけにはいかない」


ミカエルの案をラファエルが切る捨てるが。


「このままでは全員無駄死にだ!頼む、頼むから、逃げてくれ!」


そう言うミカエルの目元には涙が浮かんでいる。きっと彼女は悔しいのだろう。四大天使の中では一番強いと普段から自分でも思っていたし周りからの評価もそうだった。それなのに圧倒的に敵を前にして手も足も出ない。


「私の国を、ミカエティルトを頼んだぞ。お前達になら安心して任せられる」

「ミカエル・・・・・・」


ウリエルも目元を涙ぐませながらミカエルを見つめる。ラファエルは折れそうな程に歯をくいしばる。


「早く行け!!」


その一言を聞いた二人は背中の翼を広げると体の周りに天使力の障壁を張り壁なども無視して物凄い勢いで飛び去っていく。そしてそれを傍観していた深司は。


「賢明な判断だ。ミカエル、あの二人が戻れば幾らでも残りの四大天使国家は機能する」

「そうだ、だから死ぬのは私一人でいい・・・・・・」

「ガブリエル、二人を追いかけろ」

「りょーかい」

「なっ!」


深司の慈悲のかけらすら無いその言葉を聞いて絶望に顔を歪めるミカエル。以前のガブリエルは自分よりも弱かったがミカエルには今はそう思えない確信があった。その理由はガブリエルの堕天力の量だ。天使力と堕天力は対をなす物だが、基準は一緒である。量、質、制御力、想像力。ただそれだけだ。それだけだからこそ、ガブリエルの堕天力の異常さに気づいてしまった。


「いい顔をしますねミカエル。そういう顔が見たかった!」


深司の顔は今日一番の笑顔だった。ただ笑っていても隙はなくミカエルも下手に攻められない。ミカエルは思考を巡らせる。どうすれば勝てるか、どうすれば確実に目の前の敵を殺せるか、そしていつもは考えずに殴るが基本のミカエルが考えて攻撃を繰り出す。


その攻撃は自分の聖なる大剣。炎垂剣(えんすいけん)ブカリオスに天使力を刃の部分にだけ凝縮して纏わせそれを相手に飛ばす様に放つもの。その一撃は真っ直ぐに深司に向けて飛んでいく。


「くらえぇぇ!」

「確かにそれは危険だ。でもね」


深司は自分の周りに堕天力の霧を出しただけでミカエルの攻撃をかき消してしまう。


「基本的なスペックが違いすぎる」


深司は亜空間に手を入れ、少し顔を苦痛に歪めたかと思うと漆黒の柄に銀色の刀身の剣を取り出す。


「これは天無の剣(あまなしのつるぎ)少し扱うのが難しいんですけどね、貴女の善戦に敬意を評して使いましょう」


その剣の周りにどんどん堕天力が込められていく。それはとてつもない量でミカエルは目を瞑りあきらめてしまう。すると深司は歓喜に包まれ気分が高揚したのか堕天力の量がさらに増して体にまで纏わせていく。


「黒凪の型、二式。霧散剣!」


深司の姿が霧に包まれ消えたかと思うと、次の瞬間にはミカエルの後ろに現れる。そしてそのまま・・・・・・


スパンッという音と共にミカエルの首が斬り落とされる。四大天使最強と呼ばれた聖情天使ミカエルは圧倒的な敵を前にその命を落としたのだった。


少しでも気に入っていただけたらブックマークやポイント評価していただけると嬉しいです。感想やアドバイスなどもよろしくお願いします。


2019年9月9日。修正を加えました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ