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エンドロール・スタートライン  作者: ラウンド
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第1話 開拓地と境界線の守護者 1-4


 シロヴィアは、周辺の地形に大きな変化がない事を確認した後、予定通りに近くの湖へと進路を取った。赤に黄に燃える様な鮮やかさを見せる森の木々を見下ろすように、ゆったりと機体を進める。

 ブラン・ティアは、その進行に合わせて情報収集を抜かりなく行い、周囲に敵影が無いことを、予測から確定へと変えた。

「マスター。周囲に侵蝕獣の排気反応、ありません。予定通り、集合場所は湖で問題なさそうです」

「分かった。だが一応、シャープブローの解放と、フォトンシールドの使用準備はしておこうか」

「承知しました。共に出力は十分に確保出来ていますから、同時に、存分に使用可能です」

「よし。あとで他の機体のDM(デディケイドメイド)にもその調整具合を伝えておこう」

 二人は会話を交わしつつ、行動開始までに偵察や戦闘行為に必要になるだろう情報について詰めていく。

 HN(ヘイブンナイト)は、まごうことなき最強の汎用機動兵器ではあるが、その性能は、扱う剣士(ソーディアン)の超人的な身体能力に、DMの持つ大規模な演算・情報処理能力が加わって初めて発揮されるものであるため、扱う側の技量の鍛錬、知識の収集は、非常に重要な意味を持っているからだ。

 すると。

「マスター。今、合流予定のHNアグリィ六機が、境界門を通過しました」

 周囲の情報を整理していたブラン・ティアが、報告を上げる。

シロヴィアの駆る機体は指揮官機仕様となっていることもあり、必要と判断された情報は即座に集積される仕組みになっていた。

「さて、と。それでは、本格的に仕事開始だな」

 シロヴィアは機体を着地させ、見えやすい位置へと歩行で移動する。

 程なくして、ディ・グロリア所属を表す意匠の装甲を纏ったHNアグリィ六機が、周辺に着地した。

『シロヴィア卿、遅くなりました』

 小隊長の任を負っている剣士が、シロヴィアに対し通信を送ってきた。

 内部モニターに表示された通信先を表すウィンドウには、あどけなさを残す顔立ちの若い男性が映っており、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

「別段、遅くはない。むしろ丁度良いくらいだよ。ところでクロト。早速で悪いけれど、共有しておきたい情報があるから他との通信の橋渡しを頼みたい。やってもらえるか?」

『あ、はい!分かりました!』

 シロヴィアの静かな声音に安堵したのか、通信先の男性クロトの表情や受け答えから、硬さが消えていた。

「ブラン・ティア、情報を彼のDMプレト・ファボに送信してやってくれ」

「了解しました。プレト・ファボへの暗号化通信を開始します」

 ブラン・ティアはシロヴィアの指示に従い、先ほどまとめ上げた情報データを、他の機体と共有できる形に変換したうえで送信していく。

それなりの情報量を持つデータではあったが、DM同士の処理速度の関係で、ほぼ間が開くこともなく送受信は終了した。その直後、クロト機から通信が入った。

『ブラン・ティア殿、シロヴィア様。情報を有難うございました』

 柔和な雰囲気の若い女性と思われる音声が聞こえたと同時に、コクピット内の視覚情報モニターに通信用のウィンドウが開く。そこには、男性用のフォロースーツ〔DM専用HN操縦用スーツ〕を纏った少女の顔が映っている。

『ここにいる、私の指揮下のDM全てと共有致しました。これで新人の方も、シロヴィア様の機動術にどうにか追従出来ましょう』

『ああ、そうでした。シロヴィア卿。本日は、新規に叙勲及び辞令を受けた新人の剣士が一人、部隊に組み込まれておりまして…』

 プレト・ファボの通信ウィンドウの横に、別にクロトの通信ウィンドウが開く。微笑を浮かべているプレト・ファボに対し、クロトは苦笑を浮かべている。

「新人?どの機体かな?」

 コクピット内部に投影されている外視界を頼りに、シロヴィアは周囲の機体を見渡した。

 新たな剣士が編入した場合、基本的に同じ外観の機体ばかりで編成されている関係で、パーソナルマークをもって見分けるしかない。

『はい。当機右側の…、あ、鞘入りの剣を抱えた龍のマークの機体ですね』

 クロトが答える。シロヴィアも視線で機体を捉え、頷いた。

「私から見て左側の、端の機体か。分かった。ブラン・ティア、アーカイブに登録を」

「了解、登録します。名前は、後でまとめて登録いたしましょう」

「ああ。さて、クロト。その新人さんに、私から直接通信を送ってもいいかな?」

『ええ、大丈夫だと思います。向こうは大変驚くかと思いますが。ああ、これが通信コードです』

「了解だ。なるべくフレンドリーに行くとしよう」

 シロヴィアは一度クロト、プレト両名との通信を閉じ、先ほど受け取った通信用コードを介して、新たに通信枠を開いた。


 真新しい機体の内部で、ホァンは緊張していた。

 剣士としての素質を開花、見出されてから養成学校での日々を経て、無事に卒業。何処に配属されるかと戦々恐々としていたところ、何と言う巡り会わせか、憧れのロイヤルガードであるシロヴィア・ブロンク卿の乗艦、戦艦ディ・グロリアに決定したのだった。

「だ、大丈夫だよね?ねえ、リースゥ。あたし、ロイヤルナイツになっちゃったよ?」

「問題ないヨ。マスター・ホァン、経験無いけど成績優秀。実績欲しいなら、ここで活躍するヨ。それより、最初の挨拶、礼節を間違えないようにするヨ」

「うぅ…、分かってるよぉ。ここまで来たし!絶対、シロヴィア様に認めて頂くんだから!」

 混乱する頭の中を何とか抑え込みつつ、目と鼻の先に佇むロイヤルガード仕様のHNアグリィを見やる。専用の装飾と、肩に燦然と輝く、ように見えている翼と剣の紋様。その全てを目の前に見ているホァンには、全てが夢のように感じられていた。

 その時だった。情報を表示する視覚モニターに、専用の通信コードを受信したことを報せるマークが表示された。

「あ、通信…。リースゥ。受け取って」

「お、これは。マスター・ホァン。準備と覚悟は宜しいカ?」

 悪戯っぽくリースゥが笑っていることが声音から感じられる。

「どういうこと?」

 少しだけ嫌な予感を覚えつつ、ホァンは恐る恐る続きを促した。

「この通信コード。ロイヤルガード特有のコードだヨ。つまり、シロヴィア様から」

「!?」

 一瞬で頭の中が真っ白になった、と感じてしまう程に、思考が停止した。

「それじゃ、繋げるヨー」

「え、ちょっと待って、まだ心の準備がぁ!」

 しかし無情というべきか、無慈悲というべきか、通信回線が開かれる音がした。

 通信ウィンドウが表示され、そこには、自分と同じ黒に、自分とは異なる銀の混ざった艶やかな髪を持つ眉目秀麗な容貌の女性、つまりシロヴィアの姿が映し出された。

『やあ。君が今回、新規に配属されたヒトだね?私はシロヴィア。君の上官となる。宜しく頼む』

「あ、あ、はい!こちらこそ、ご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」

 緊張に緊張を重ねた結果、逆に、まともな受け答えが出来ていた。

 すると、もう一つ別の通信ウィンドウが開き、別の少女が表示される。

『そして、私がマスター・シロヴィアの補佐をお務めしているDM、ブラン・ティアです。以後お見知りおきを』

「あ、はい!宜しくお願いします。ほら、リースゥ、挨拶!」

「はーい。こちらリースゥです。彼女の補佐をやっております。宜しくお願いしますねー」

 促され、いつもの調子で通信に参加したリースゥは、ホァンの補佐どころか、より緊張を高める結果を残した。誰かの微かな笑い声が聞こえるが、今はそれどころではなかった。

『ところで。君の名前を、教えてもらってもいいかな?慣例に従って、ルーキーと呼んでもいいが、それでは、君も辛いだろう?』

 しかも、尊敬している相手に助け船を出される始末であった。

「あ、あたし…じゃなくて。私は、ホァン・ドウリーと申します。改めて、宜しくお願いします。シロヴィア卿」

 ただ、その助け舟のおかげで冷静さを取り戻したホァンは、自分の口から、自分の名前を伝えることに成功したのだった。そういう意味においては、リースゥは的確な「補佐」をした、とも言えるだろう。

『ああ、こちらこそ宜しく頼む。あと、何かあれば言っておくれ。できる限りの事はさせてもらおう』

 そう言って、シロヴィアは優しく微笑んだ。

「有難う御座います」

 ホァンにとっては、今こうしてこの場に立ち、シロヴィアに声をかけて貰えているだけでも、眩暈がするほど幸福なのだが、今は失神して倒れてしまいそうであった、が、本当に倒れてはいけないので、気力で阻止する。

『ファイトですよ。元気があれば何とかなります』

 ブラン・ティアが真顔でそのような事を口にした。

「はい。有難う御座います」

 もう、そう返すだけで精一杯だったが。


 通信を切り、ウィンドウを閉じた後。シロヴィアは独り述懐する。

「なあ、ブラン・ティア。私は堅苦しすぎるだろうか?」

「そうですね。真面目で、優しく、不器用で。それでいて、父性と母性の両面で他人を支える。それがシロヴィア様のイメージです」

 やはり真顔で、そう返すブラン・ティア。

 シロヴィアは苦笑する。

「そうなのか?」

「はい。ただし、私個人の経験則から導いた、勝手な想像ですが」

「……」

「少なくとも。私はシロヴィア様が大好きで仕方がありませんので。何も問題はありません」

「…いや、ちょっと待て」

 ブラン・ティアが、ほぼ無表情と言ってもいい真顔で口にしたセリフに、シロヴィアは軽くため息をついた。

「敬愛するマスターをお慕いすることはDMとして普通のことですので、何も問題ありません」

 一方のブラン・ティアは、確固たる自信も持って微笑むのだった。


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