第0話 剣士シロヴィアと剣士ライディア 第二場面
前回の続きとなります。
戦闘は、シロヴィアたち第三勢力の乱入によって、混沌とした様相を…呈することもなく、実に透明度の高い展開のまま進行していた。
シロヴィアとライディアは、水面に向けての急降下を敢行しつつ、アクアリオ・ノア側の機体であるHNデルシエロ二機に対し、頭上からの奇襲攻撃を仕掛ける。抜き放ったシャープ・ブローの刀身が、両者が交差する刹那に打ち込まれ、デルシエロの腕部を切断した。電流の火花を散らしつつ、持っている武器ごと腕が吹き飛ぶ。
「うわっ!?」
「ひゃあ!?」
突然の攻撃に、それを受けたデルシエロの剣士とDMは、大きく揺れたコクピット内で驚愕の声を上げる。
「ず、頭上からの、音速機動!?すみませんマスター!捕捉が遅れました…!』
「何が、起こった…?」
「頭上からの、音速機動による奇襲を受けました。仕掛けてきたのは、今回、中立の第三勢力役として参加しているガーデン、リグノ・デイ・キャバリーのHN、アグリィとクリムゾルです!アグリィには、剣に羽の複合紋様が刻まれています!」
「剣に羽の紋様を持つアグリィと、クリムゾル…?まさかシロヴィア卿とライディア王女か!」
DMからの報告を受けたデルシエロの剣士は、再び驚愕の声を上げた。
「態勢を整えてくれ!さっきの攻撃は挨拶代わりだ、すぐに反転して仕掛けてくるぞ!」
「りょ、了解しました!予備のシャープ・ブロー、スタンバイ…!」
一方。攻撃を仕掛けたシロヴィアは反転して距離を取り、移動。ライディアは既に次の標的への攻撃を開始していた。
「流石です、マスター。確実性の高い、見事な機動でした」
「まあ、慣れた戦術だからね。頭上からの音速機動による奇襲は、警戒していなければ、どうしても捕捉に時間が掛かるから」
一気に過ぎていく景色の中、シャープ・ブローを構え、先ほど攻撃を仕掛けた二機のデルシエロを見据える。
「次は一機で、二機同時に相手をする。情報分析と微調整を頼む!」
「承知しました」
二機で連携して防御の態勢を整え、回避機動に入りつつあるデルシエロに対し、快速を生かして一気に接近するアグリィ。双方ともにシャープ・ブローを構え、交差までの時間に出来得る手を打っていく。
双方の距離が近付き、目まぐるしく視界が上下左右に振られ、しかし一切のぶれもなく追い詰め、追い詰められていく。そして、時が来た。
「今だ!反転して、後方のアグリィを叩こう!」
『おう!』
最初に動いたのは、二機のデルシエロだった。今まで回避に徹していたが、急制動をかけ、反転を行い、高速で接近してくるアグリィに対して反撃に出る。
「ここで仕掛けてくるか。今の速度では迎撃は厳しいが、だが受けて立つ!」
「軌道予測、修正…」
それを見て取ったシロヴィアもまた、機体に急制動をかけて僅かに軌道を修正。不完全ながらも、正面からその攻撃を受ける態勢を整えていく。
双方にシャープ・ブローを構え、距離が近付き、正面から衝突する、かに見えた。
「今だ!散開!」
『左右から挟む!』
突如、正面のデルシエロ二機が散開。そこから更に急制動をかけて、左右からアグリィを挟むように攻撃を仕掛ける。
「ブラン・ティア、少し無理をする!良い?」
それを見て、瞬間的に、シロヴィアは判断を下す。
「思う存分、やって下さいませ」
ブラン・ティアは、その判断を信頼し、身を委ねる。
「ならば!」
シロヴィアは機体を失速のギリギリにまで減速し、まるで地面を蹴って後方宙返りをするように、空中でそれを実行した。
「出来た…!」
その結果、左右から攻撃を仕掛けてきたデルシエロ二機の頭上を取る位置に陣取ると言う形になった。
「しまっ…!?」
『なっ!?』
アグリィから舞い散る光粒子が、弧を描き、頭上へと昇る様を目で追いながら、デルシエロの剣士二人は、自分たちが完全なる死地に入ったことを確信した。
「そこっ!」
これによって生じた一瞬の隙を見逃さず、シロヴィアは二機の頭上からシャープ・ブローを振るう。
煌刃一閃。繰り出された一撃は確実に二機の頭部を捉え、両断。見事二機の“目”を奪い、戦闘不能へと追い込むことに成功したのだった。
『おおっと!これは何という事でしょう!第三勢力役として参加していたガーデン、リグノ・デイ・キャバリーの奇襲攻撃です!速い!そして早い!奇襲攻撃後の僅か一分で、アクアリオ・ノアのデルシエロ二機の逆襲を躱し、同時に中破させました!』
興奮気味の実況解説が、交流戦を放送している通信機器すべてから流れる。
『スコアを飾ったのは、情報によりますと、どうやらリグノ・デイ・キャバリー新進気鋭のロイヤルガード、シロヴィア卿のようです!そのクールなキャラクターが、特に同性に人気との彼女ですが、噂に違わない冷静な戦いを見せてくれました!』
どこから仕入れてきたのか、出所不明の情報も含めた実況は続く。
『そして、同ガーデンの統治者リグノ家の三女であらせられます、ライディア・ギウス・リグノ王女殿下も強い!ヴィル・フランメの重HNであるフッコアルデンタを中破!燃える様な赤同士の、火花散る熱い戦いを見せて頂きました!』
シロヴィアとライディアは、両機ともが一旦上空に退避。その上で先ほどの実況を聞いていた。
『ふっふっふ、同性に人気、だってさー?』
『違和感はありませんわね。事実、シロヴィア様は多くの応援のお手紙を、半分以上は同性の方から受け取っておられましたから』
『親友を自負する私としては鼻が高いわー』
「いや待て。何かおかしくないか?何故そんな情報が噂で流れているんだ…」
楽しげに話を進めるライディアコンビの一方で、シロヴィアは少々の冷や汗を垂らしながら放送の内容を述懐していた。
「……中央の、戦闘管理委員会の広報部には、情報収集に長けた者しか所属できないという噂があります」
「実に…笑える冗談。自分がそれに巻き込まれない限りは、だけれど」
聞こえる笑い声をよそに、軽い頭痛を覚えたシロヴィアであった。
『さて、思わぬ乱入がありましたが、交流戦はまだまだ継続しております。アクアリオ・ノア、残りHN六機。ヴィル・フランメ、残りHN五機。戦力としてはややアクアリオ・ノア有利ではありますが、目が離せないことに変わりはありません!皆様、引き続き、私にお付き合いくださいませ!』
交流戦は、皆の期待を乗せて、続く。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。