第2話 戦う者というアーキタイプ 2-2
この世の中には、修練艦と呼ばれる飛行艦艇が存在する。内部には剣士やDM用の鍛錬場があり、アデポートによる手合わせや、演算シミュレーションによるHN操縦練習が行えるようになっている。
こう言った補助艦艇は、大きな艦隊には必ず一隻は配備される決まりになっており、ガーデンごとに形状や内装に差異があることで有名だ。
「全員、よく集まってくれた」
そんな修練艦内部にある大修練場の演台から、シロヴィアの声が響く。
「今回の親善試合は、来るべき領土争奪戦に向けての鍛錬を兼ねたものだ。つまり、今この場に集まってもらった剣士、DMは、全員が参加対象者となる。心するように」
よく通る声によって、その場に集まった全員が襟を正し、背筋を伸ばす。
艦隊内でHN隊を率いている隊長格や、年季のあるベテラン剣士たちは、自然に整った姿勢を取っている一方、隊に配属されて日が浅い者や、合流したばかりで隊に慣れていない者は、緊張した面持ちでシロヴィアに対している。
二階席からは、カメラ等を操る放送器具担当員たちが、他の所属艦に向けた放送用としての映像を撮影しており、シロヴィアの言葉や場に集まっている剣士やDMたちを逃すまいと構えている。
「さて…。今回の親善試合を開催するにあたって、我らが主、ライディア・ギウス・リグノ王女殿下より、お言葉を賜る。殿下、お願い致します」
そう言うとシロヴィアは一歩引き、背後からライディアが姿を現した。そのまま演台に立つ。
「えー…。こほん。全員よく集まってくれました。この度の親善試合では日頃の鍛錬、これまでの経験を存分に発揮して、悔いの無いように戦ってください」
咳払いを一つした後、ライディアは威厳ある、淑女然とした姿勢と声音で、その場に居る全員に向けて言葉を発した。その言葉を聞き、シロヴィア含めた慣れた者たちは各々様々な笑みを浮かべ、まだ慣れない者たちは背筋をさらに伸ばした。
すると、ライディアは軽く頭を掻き、一つため息を吐いた。
「えー…あー…。ま、何が言いたいかというと。この親善試合は新人歓迎の意味も含めてるわけだし、みんな気負わず、一緒に試合を盛り上げていきましょってことで!」
ため息の次に飛び出してきた口調は、それまでの王女然とした振舞いが嘘のように、砕けた雰囲気を全開にしたものだった。その変わり様に、慣れない者たちが呆気にとられている。
「よーし!そんじゃ、ここからは今回の親善試合の、余興を発表していくわよ!」
その言葉が引き金となり、場が、この流れに既に慣れた者たちが上げた喝采の声に包まれる。慣れていない者たちも、その喝采の勢いに引っ張られる形で声を上げているようだ。
「余興その一!ここに居る我が守護剣士。我がガーデン最強の十六人たるロイヤルガードの一人、シロヴィア・ブロンク卿とのエキシビジョンマッチ!」
ライディアが声を張り上げてマイクに叩きつけ、傍に立っていたシロヴィアに前に出てくるよう促す。シロヴィアは一つ息を吐き、スッと前に歩み出た。
喝采の声が大きくなる。
「余興その二!今回の親善試合はペアマッチのトーナメント形式!この後、各部隊内でペア分けしてもらうわ。よろしい!?」
場内に賛同の声が響く。
「最後に!親善試合決勝戦出場ペアは、シロヴィア卿とのエキシビジョンマッチに参加して戦う権利を得る!以上!この話の十分後に、私のDMアンバ・ロップスと、シロヴィア卿のDMブラン・ティアを各部隊の聴き取りに向かわせるから、分けたペアをこの二人に申告してちょうだいね。それじゃあ、ペア分け開始!」
まるで嵐のように概要説明の時間が過ぎ去ると、今度は相談による喧騒が場を包みこんだ。
どうするべきかを自分のDMに相談する者や、経験の浅い者を誰がカバーするかを考える年長者や、それぞれが考える最善を組み上げる努力を、ああでもない、こうでもないと、頭を捻りながら行っている様子が垣間見える。
「ライディア。まさかとは思うけれど、エキシビジョンマッチは一対二?」
「勿論。それくらいのハンディキャップはあって良いと思う。それくらいシロヴィアは剣士として強いんだよ。過去の記憶が無いから、その辺りの自覚が無くても仕方ないとは思うけれど」
「さて…?何とも、不思議な感覚だよ」
「そこら辺の記憶、何とか復元したいね。シロヴィアの本当の名前も分かるだろうし、剣士能力の高さについての理由も、納得のいく答えが得られるんじゃない?」
「そうだな。ただ、今はこれで良いさ。いつか分かるだろう」
忙しなく状況の動き回る周囲を優しく見守りながらも、全く停止したままの己を、シロヴィアは何処か遠くの出来事のように見つめるのだった。
※親善試合本番は次回からとなります。今しばらくお待ちくださいませ。




