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エンドロール・スタートライン  作者: ラウンド
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第2話 戦う者というアーキタイプ 2-1


 視察任務から数日後。シロヴィア率いる、戦艦ディ・グロリアを旗艦とした空中艦隊は、ガーデン「リグノ・デイ・キャバリー」中央島周辺の巡回警護任務を終え、帰還の途中にあった。


 その女性は、目の前の少女に語る。

 戦いという行為は、物事の決定を、有形無形に関わらず力で解決するものである。これは古来より、社会の中において一定の説得力を伴って実行されてきたもので、時としてそれが、歴史を動かし得る偉業の達成や、悲劇の引き金となった。

 戦争という外交手段が消失した現在においても、戦いそのものがなくなったわけではなかった。

「国民皆兵の心構えが不要になった代わりに、私達のような戦闘代行者が必要な時代になったという事だね。つまり私達の勝敗が国家の行く末を左右する。ただ、前時代のように国家間戦争をしていては何も変わらないから、少人数による決闘の、その成績で政治的衝突を解決するという、ある種古代の手段に取って変わられたわけだね」

 しかし、少人数とは言え、無秩序に戦いが起これば当然、無用な犠牲者が出る。そこで、戦い全てに明確なルールが設けられ、戦いを行う者はそのルールの下でのみ力を振るうことを許された。

「それが、この前もあった国家交流戦であり、今度行われる領土争奪戦であるというわけだ。まあ、当然と言えば当然だね。私たち剣士(ソーディアン)は、普通の人間とは身体能力が文字通り桁違いだからね。しかもHNという比類なき最強の機動兵器を操るのだから」

 女性はそこまで語り、一旦話を切った。目の前の窓ガラスの向こう側に続く風景へと目線を向ける。雲が遠くをゆっくりと進んでいく様子がはっきりと見えた。

「誇りを持ちなさい。貴方はその中でもトップクラスの剣士の下に配属されたのだから」

 女性は目の前の少女の肩を叩いた。


 すると。

「まあ要するに、それなりに頑張んなさいってことで」

 別の女性が、少女と女性の会話に滑り込むように現れた。

「そういう貴方は緩すぎます。貴方はもう少し頑張りましょう。アオセナさん」

「あんたは引き締めすぎ。締め付けがきついのも考えものよ。ヘキレイ」

「面白い冗談ですね」

「あ、あははは…」

 にっこりと笑顔を浮かべ、一瞬で危うい均衡状態に突入してしまった二人を、少女がおろおろと見守っている。

「そこまでにしときなよ、二人とも。ホァンが困ってるよ?」

「毎度の事だけれど、いつも別を巻き込むのは感心しないな」

 数十秒ほどの、威圧的な微笑みによる睨み合いが続いている中、二人とはまた違う別の女性が二人、現れた。

「あ、ライディア王女殿下!シロヴィア様!」

「し、失礼しました!」

 その二人の女性を見たアオセナとヘキレイは、さっきまでの睨み合いはどこへやら、一瞬で姿勢を正し、騎士礼を構えた。

「ぶつけ合うなら、この後の鍛錬で存分にぶつけ合いなさいな」

「そうだな、ちょうどいい。ホァン。自分のアデポートは持っているな?」

「え?あ、はい!ここに」

 ホァンは腰に佩いている細身の長剣を示す。

「今回は、先日話していた、交流戦向けの親善試合を行う」

「名付けて、交流戦ディ・グロリア杯だ!」

「いや、それだと公式戦の名前に近い…」

「ならライディア杯?」

「いや、それだと御前試合扱いになるだろう?普通に親善試合で良いと思う」

「えー」

「“えー”じゃない。気持ちは察するが、キミは名前を安売りし過ぎだ…」

 アオセナとヘキレイが睨み合いをしていた時と似て非なる空気が場を満たし始める。

それが継続するかしないかの微妙な間が訪れる前に、シロヴィアが大きく息を吐く。

「取り敢えず」

直後、大きく息を吸った。

「アオセナは整備班へ撮影器具の準備を伝令。ヘキレイはホァンを案内。私はライディア様と共に、今度の国家交流戦に参加する全剣士へのアナウンスと艦隊への指示を行う。その後、全員で修練艦へ移動。そこで親善試合を執り行う。良いかい?」

 そして、まるで全てを吐き出す機関銃の連射力で精密狙撃を行うように指示を飛ばし始めた。

「畏まりました。ホァンさん、私について来てくださいね」

「は、はい!」

「了解!不肖、アオセナ!伝令役、しっかり務めます!」

 しかし、それを聞いていた、その場の全員が指示を正確に聞き取ったらしく、しっかりと頷いた。

「よし。各員、行動開始!」

 命令一過。シロヴィアとライディア以外はディ・グロリアの後部へと向かった。

「さあ、私達も行くとしよう。ライディア」

「オッケー。盛り上げて行こうね!」

「無論だ。全員の技を見るのが楽しみだよ」

 二人もまた、ディ・グロリアの艦橋目指してその場を後にした。


 廊下を曲がった先から声が聞こえる。

「ところで、余興は何しよっか?シロヴィアとのエキシビジョンマッチ?」

「それだと、私が親善試合に参加できない」

「いやいや、素でも参加厳しいと思うよ?」

「参加できない?何故?」

「自分の腕前に聞いてみると良いんじゃないかな。あ、じゃあ、全員コスプレで演武とか!」

「うん?普通に演武で良いじゃないか。何故仮装する必要が?」

「あたしが楽しいから!」

「……また私に薄着や男装で戦えとか、言うんじゃないだろうね?」

「えー、良いじゃない。前のアレ、好評だったしー」

「いやあれは…。少し恥ずかしい。あと写真集が…」

 その辺りで声が聞き取れなくなり、そのまま消えて行った。


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