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エンドロール・スタートライン  作者: ラウンド
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第1話 開拓地と境界線の守護者 1-7


 目的地に向かう四機は、地形と空の変化を、シーカーアイを介して探査しながら飛行する。森には相変わらず、多数の、侵蝕獣が残したと思われる痕跡が見受けられ、しかし本体は見つからないという状態が続いている。

「異様だな。影はあれども見つからず、とは」

 シロヴィアは、機体の姿勢制御を行いつつ、自らの肉眼と機体の目とをリンクさせて、広く、頻りに、見回している。

「こちらでも、先ほどの高速型が残した排気反応程度しか、見つかりませんね」

 ブラン・ティアは、シロヴィアとHNが集めた映像とを分析しながら、シーカーアイの展開方向を変えている。合計で四つの視覚情報を整理しながらの作業なので、こちらも非常に忙しない。

「…ブラン・ティア。これと類似した記録が無いか、ディ・グロリアのデータバンクで検索をかけてくれないか?視覚情報はこちらで預かろう」

「そうですね。もしかすれば、過去に似たような状況があったかもしれませんからね。命令、承知しました」

 ブラン・ティアは送られてくる映像を一度すべて遮断し、調べ物に適した環境をコクピット内部に即席で作り上げる。

 一方、シーカーアイの視覚情報を預かったシロヴィアの視覚には、合計で四つの映像が同時に映し出される形となった。その全てが、彼女の目線の移動に合わせて、見える映像が動くようになっている。

「ふむ…」

 映った映像から、彼女の後方ではミズェルとホァンが、左方ではレドールが、それぞれの視覚装置を駆使して索敵を続けている様子が見える。機体頭部の目に当たる部分が淡く光り、ゆっくりと左右に動いているが、しかし、他も似たような成果なのか、行動前の会話の後は沈黙していた。

 すると。

『シロヴィアさまー』

 唐突に幼い雰囲気の声が聞こえたかと思うと、ミズェル機との通信回線が秘匿回線を介して開かれ、視覚情報に通信相手の顔を表示するための五つ目のウィンドウが開いた。

 相手は、ミズェルのパートナーを務めるDM、ソラ・ノアオだった。

「どうした、ソラ・ノアオ。秘匿回線を使うなんて。何かあったのか?」

『うん。目的地からは、ちょっと西側に離れた場所なんだけど。シーカーアイが、バラバラに木が揺れるのを見つけたの。風の方向と全然違うから、何かいたかもです?』

「ふむ…。ソラ・ノアオ、もう少し情報を集めてみようか。もしかするとブラン・ティアの調べている情報に、引っ掛かるものがあるかも知れないからね」

『はーい。あ、座標とかのデータ、リンクした方がいいです?』

「お願いするよ。今はブラン・ティアが、手が離せない状態だから、後で見せたい」

『はーい』

 その言葉の一瞬後、画面の向こうのソラ・ノアオの体が淡く光り、そのまま通信が切れた。

 数秒後、シロヴィアの視覚情報に、ミズェル機から情報が送信されたことを示すマークが表示された。

 その時だった。

「マスター・シロヴィア。復帰しました。視覚情報、こちらで受け持ちます」

 ブラン・ティアの声と同時に、表示モニターを圧迫していたシーカーアイの映像と、送られてくる視覚情報とが消え、HNの目の映像のみとなった。

「どうだった、首尾は?」

「はい。大漁…とはお世辞にも言えませんが、類似した情報は確認できました。あと…」

「あと?」

 そこで少しの間が開く。

「…現在、クロト隊長のチームが交戦中。侵蝕獣の襲撃を受けた模様です」

「状況は?」

「特に問題なく撃破しているようですが、少々小型の数が多いようです」

「なるほど…。よし」

 そこでシロヴィアは通信回線をチーム全員にオープンにし、表情を引き締めた。

「全員聞いてくれ。クロトのチームが小型の群に手を焼いている。目的地の調査は後回しにして、これの援護に向かう!」

 そして毅然と、凛とした声で、全員に言葉を放った。


 その頃。戦艦ディ・グロリア艦橋では、艦の状況や所属する部隊員の現状を管理している人員が何人も、忙しなく動き回っていた。

 それぞれ男女ともが、学生服と軍服を混ぜたようなデザインの衣服をまとっており、一部はDM専用のフォロースーツを纏っている。そこに、役割に応じた腕章や徽章を身に着けている。

「シロヴィア様のチーム、戦闘終了しました。損害、ありません」

「クロト隊長のチーム、戦闘終了。損害、無し」

「高速型侵蝕獣、シロヴィア様の追撃により完全に消滅。残留反応ありません」

「報告!小型侵蝕獣の群体が、クロト隊長のチームに接近中です!シロヴィア様のチームが支援に向かわれました!」

 宙に像が結ばれている仮想コンソールと、実体コンソールとを同時に操作しつつ、モニターに、急流のように流れては消えていく情報を読み取り、汲み上げ、報告していく。

 艦長は、それぞれの報告を手近のモニター表示や、空中に表示されていく仮想モニターで確認し、追加で確認が必要なことはないか、次にどう動くべきかを考え、部下に伝達することに注力していた。

「両チームともに戦闘状況のフィードバックを。その後、各チームのホスト担当DMに向けて送信。索敵班、この艦のシーカーアイの反応はどうですか?」

「はい、艦長。現在、全シーカーアイが稼働していますが、敵影は確認されていません。範囲を広げますか?現状であれば、三分の一を遠距離の精密索敵に割くことが出来ます」

「ふむ…」

 艦長は一瞬、思考を巡らせる。

 艦艇搭載のシーカーアイは、HNのそれと比較して、搭載基数や性能面において、防衛能力の向上に必要な精密索敵に向く仕様となっている。少数であれ、遠距離に飛ばすことが出来れば、より精確な援護も行えるようになる。

「いえ、その必要はありません。シーカーアイを除いた、この艦単体での索敵範囲だけでは問題が生じる可能性がある場合にのみ、遠距離索敵を行いましょう。索敵班は、高速型や小型の群体の増援を警戒してください」

「分かりました!」

 しかし、艦長は遠距離へのシーカーアイ派遣を行わず、艦の防衛力強化に舵を切った。

(これらの群体が、今回のフロンティアフィールド襲撃の犯人でしょうか?だとすると…)

 艦長職とは言え、ただ戦術を思考して指示を出すだけが仕事ではない。部下の収集した情報を元に、小規模な“大局”を見据えた行動指針を誰よりも先行して打ち出すことも、その職務の内である。

 艦長は、その白い指で艦長席の手置きをテンポよく突きつつ、思考を巡らせる。そして、ある一つの考えに至り、席から立ち上がった。

 彼女は席の横にある、城の通路を思わせる階段を降り、索敵担当の一人が座る席に向かった。

「少し良いかしら。シーカーアイの展開範囲を、本艦を中心に、下方に向けて広げられますか?」

「下方に、ですか?はい、可能ですけれど…。何故です?」

「念のため、境界門(ゲート)を警戒範囲に入れて、死角を無くしておきたいのです。小型が地上を行くと、なかなか見えませんから」

「なるほど、確かに…。では、私の担当しているシーカーアイで、下方を重点的に索敵します」

「お願いしますね」

 指示を下し、索敵担当が作業に入ったことを見届けると、艦長は席へと戻った。

「ふぅ…」

 座ると同時に再表示された仮想モニターに、現在の戦局と艦の状況とが次々と流れ始めた。直ぐに目を通す。

 すると。

「艦長。シロヴィア様のチームが、小型侵蝕獣の群体に、音速機動による奇襲をかける形で戦闘を開始しました。なお、奇襲は成功。これにより、侵蝕獣の排気反応の、およそ半数が消滅しました」

 さっきとは別の索敵担当者の報告により、前線の状況が佳境に入ったことを艦長は悟る。

「これならば、すぐに決着が見えそうですね。前線の状況は戦闘終了まで継続して観測。変化があればすぐに報告してください」

「了解しました」

「さて…」

 指示を下した後、艦長は席に仮想コンソールを浮かべ、艦橋以外から上がってくる報告について、対応の指示を下していくのだった。


 その頃。前線では、再び一つのチームとして行動を開始したシロヴィア達の手によって、奇襲を受けて壊滅状態に陥った侵蝕獣の群体を分断し、追撃を行っていた。

『ミズェル、側面から回り込み、挟撃しましょう』

『オッケー。レドール、追い込みは宜しくー。ホァン、通せんぼ行くよー!』

「りょ、了解です!」

「どんどんスコア稼ぐネ、マスター・ホァン」

 ミズェル、レドール、ホァンの三人は、分断した群れを、さながら追い込み漁のように、前衛のレドールが後衛二人の待ち構えている方向に追い詰めていく。

「クロト。四機で四方を囲み、包囲を敷こう!」

『はい、分かりました!よし。スイレンは私の、ダイトウはシロヴィア卿の、それぞれ後方に付き、陣形を構築しましょう。行動開始!』

『了解した、隊長。腕が鳴る!』

『おう、任せろ隊長!改めて、宜しくっ!お願いしゃす!シロヴィア姐さん!』

「ははは。こちらこそさ。ダイトウ、ついてこい!」

『ウッス!』

 一方で、シロヴィア達は、分断されたもうひとグループの侵蝕獣を四機で円形に囲み、二機で撹乱しつつ残り二機で刃風を同時使用して攻撃するという、余勢を駆った包囲殲滅を行っていた。

 こうなると、奇襲に浮足立ち、数の利を失ってしまった小型の侵蝕獣では勝ち目など無く、次々と撃破され、渦潮に飲み込まれるように消えていくのだった。


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