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エンドロール・スタートライン  作者: ラウンド
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第0話 剣士シロヴィアと剣士ライディア


 傍らの通信機器から、興奮した様子の男声が聞こえる。

『さあ、今回も始まりました交流戦。そして、ただいま激戦を繰り広げていますのは、ここ最近で連続の勝ち星を上げ、領土拡大の快進撃を続けるガーデン、“アクアリオ・ノア”と、昨年度の剣舞賞受賞者最多を誇る強豪ガーデン、“ヴィル・フランメ”です。来る一ヵ月後の領土争奪戦でも序盤にぶつかる予定の両者。果たして、ここで勝ち星を挙げて勢いをつけるのはどちらか!?』

 

 一方。

 その女性二人は、現場から少しだけ遠い位置にある廃ビルの屋上から、その“交流戦”の様子を見つめていた。二人ともに軍服と学生服の混ざったような服装をしており、およそ戦いの場に居る格好ではないように思われる。

 目線の先には、何処までも広がる水面上を、幾つかの閃光が頻繁に交差する光景が広がっており、時たま、その閃光の先端が突如として火球となり、煙となって水面へと落下していく。

「この分だと、今回はアクアリオ・ノアの勝ちかな?」

「そうなりそうねー。私たちはどうする?横槍でも入れに行く?今回は本気の争奪戦じゃないし」

「それはどうだろう。まあ、私達は中立の立場だから、どちらに参加しても文句は出ないだろうけど」

 戦いの趨勢を静観しつつ、片方は悪巧みをするような微笑をし、もう片方はそれを見て苦笑を浮かべている。

その二人の後方にあるもう一つの廃ビルには、細身の甲冑のようなシルエットが特徴的な赤と青のロボットが二機降着しており、鳥の鳴き声のような、独特なエンジン音を耳に届けている。


 それはHNヘイブンナイトと呼ばれる機動兵器で、一度戦闘に入れば、常人では認識すら困難な速度で機動し、加えて常識外れの稼働時間を誇る、この世界における一般的かつ最強の兵器である。これを駆る者は剣士ソーディアンと呼ばれる、一般的なヒト種族を遥かに凌駕する身体機能を持つよう生み出された、人造強化人間たちだ。

 そして、ほぼ絶対的な力を持つこれらの存在は、多くの無用な血の流れる理不尽な戦争や紛争といった、最終的外交手段を捨て去ったこの世界において、その代わりとなる「スポーツ」を行う、言うなれば戦闘代行人でもあった。


「で、どうするー、シロヴィア。流石に、少し退屈なんだけど…」

「そうだなぁ。確かにライディアの言う通り、私も少し暇を持て余してきた。本部の許可が下りたら参加しようか」

「お、さっすがー、話が分かる。それじゃ直ぐに準備しよう。そうしよう」

「いや待て。出陣は本部の許可が下りたら、だからな?」

 素早く結論を出し、話を終えた二人は通信機器を回収すると、助走をつけ、後方に見えるビルの屋上に向けて跳躍。勢いよく翻るスカートや服の裾を気にせず、そして、風を切るというには些か荒々しい突風と共に滑らかに着地すると、降着しているロボットの下へと走り寄る。

 すると。

「あれ、マスター・ライディア?交流戦を見物されていたのでは?」

「何か、緊急の事態ですか?」

 それぞれのロボットの肩部に座っていたレオタード状のドレス服に身を包む少女が、走り寄る二人の様子を見下ろしながら、少し驚いた表情で声を上げた。

「よいしょっと!いやいや、単純に暇だから、戻ってきたとこ」

 ライディアは赤い機体の膝、手と蹴り跳び、肩部に飛び乗る。

 シロヴィアも同様に青い機体を蹴り跳び、こちらは展開しているコクピット部へと滑り込む。内部にシートに当たる座席はないが、シロヴィアの体がコクピット内部に滑り込んだ瞬間、その体を複数の固定アームが捕捉し、中央に浮かぶような形に配置した。更にその周囲を複数のモニターが囲む。

「本部の許可が下りれば、交流戦に第三勢力として乱入しようかとね。向こうの方が乗り気になってね」

「分からなくはないですね。ライディア様は確かに退屈しそうです」

 その後部席に相当する、こちらはシート式の座席部分に、先ほど肩部に乗っていた少女が滑り込んだ。座ると座席が頭部方向へと上昇し、そのまま別コクピットに収まった。

「ところで、マスター・シロヴィア。本当に乱入されるのですか?」

「そのつもりだよ。流石に私も少し暇を持て余してな。早速だけど、本部に渡りをつけておくれ、ブラン・ティア」

「承知しました。直ぐに繋ぎます」

 シロヴィアの指示のもと、ブラン・ティアが後部席に備え付けられている機器を操作。機体の通信能力を活用して暗号通信を“本部”に向けて送ると、驚くことに、間を置かずに返信が行われた。

「…マスター・シロヴィア。本部からの許可が下りました。あと数分で、マスターの母艦が到着します。ただ、介入は穏便に、という事でした」

 この報告に、シロヴィアは何かを確信したように微笑した。

「やはり早かったな。本部長は姫の性格をよく御存知だ」

「しかし、ライディア様は、お姫様なんですよね。失礼ながら、とてもそうとは思えませんけれど」

「気持ちは分かる。私も最初は面食らったものよ。それに、私の素性そのままに守護剣士に迎えたことにも、ね」

 会話を交わしつつも、二人ともに機器の操作の手を止めず、機体の起動準備を整えていく。

「さて、そろそろライディア様にも許可の件をお伝えしますね。待ちわびていらっしゃるでしょうし…」

「ああ、そうだった。頼む」

 ブラン・ティアがライディアに通信を送っている中、シロヴィアが機体を戦闘起動させる。最初に聞こえていた鳥の鳴き声のような駆動音が、小さく、テンポ早く聞こえ始める。同時に視覚情報がコクピット内部の縦横に展開され、外の景色に情報表示が重なる。

 隣の機体からも、戦闘起動のための準備を開始したことを報せる独特の駆動音が聞こえ始めた。

「マスター。HN(ヘイブンナイト)アグリィ。最終確認を行います」

「分かった。クリムゾルの戦闘起動完了と同時に出られるよう間に合わせてくれ」

「了解しました」

 通信を終えたブラン・ティアが、シロヴィアと共に戦闘起動した機体の最終確認を行う。

 両腕がまるで準備運動でもするように動き、腰にしている刀状の武器へと手を伸ばしてみたり、目の役割を果たすセンサー部分を動かしての視点移動をしてみたり、操縦者の視覚に合わせた標的の追尾機能の確認などが行われた。

 隣も同様の確認を行っているらしく、機体頭部の目に当たる部分が、動物の様に左右に動いている。

「マスター。機体の最終確認、終了しました。いつでも出られます」

「分かった。んー…っと」

 シロヴィアが体を伸ばす。体を補足している固定アームが、周囲のモニターが、体の動きに合わせて位置を調整していく。すると、立ち上がった状態の機体もまた、彼女の動きを模倣するように駆動した。

「さて!ライディア、アンバ・ロップス、用意は良い?」

 次に、近くにある機器を操作し、隣で準備を進めているライディアへと通信を送る。

 返信はすぐに行われた。モニターにライディアともう一人、アンバ・ロップスと呼ばれた少女の顔が映った。

『こっちは大丈夫ー。いつでも行けるわ!』

『いつでも大丈夫ですわ。シロヴィア様』

「分かった。それでは、行くとしよう!」

 最初に聴こえていた無数の鳥が鳴くような独特の音と共に、装甲の表面を光の膜が覆う。

「飛べ、アグリィ!」

 そして、舞い散る光の粒子に導かれるように、大空へ向けて飛翔した。

『いけぇ!クリムゾル!』

 ライディアもまた裂帛の声と共に、機体を飛翔させる。舞い散る粒子が周囲の色に溶け、消えていった。


 数十秒後、戦場上空にて。

『シロヴィア、今回の作戦はどうする?今度の交流戦で使う予定のヤツ、試してみる?』

「そうだなぁ…。手の内はあまり明かしたくはないが、驚かせるのも悪くはないな。次の領土争奪戦で、心理作戦として働くかもしれないしね」

 機体の体勢を自分の姿勢を変更することで微調整しつつ、頭も回転させる。忙しないやり取りが文字通り目まぐるしく行われていた。

『なら決まりねー。アンバ・ロップス、ブラン・ティア。ちょっと無茶しちゃうけど、許してねー』

「すまないね。なるべく負担を減らせるように機動させるからさ」

『大丈夫ですわ。マスターの無茶にも、もう慣れましたし』

「同じくです。そして、マスターの要望を支え申し上げるのが、私達、DM(デディケイドメイド)の役目ですので…」

『あはは…』

「…本当に、すまないね」

「ただ、作戦内容には賛成です。次の争奪戦は、強豪ガーデンである“パラディスス”が相手ですから、剣士(ソーディアン)本人の実力が直接影響するHN戦では、大変有効です」

『ワタクシも賛成ですわ。ライディア様は、実力はありますが頻繁に猪突なさいますし…。もう少し、冷静さをですね…』

『なーによ、人を獰猛なイノシシみたいにいってさー。これでもお淑やかな乙女よ、オ・ト・メ!』

 通信画面に、アンバ・ロップスの呆れ顔とライディアの膨れっ面が同時に映る。

(事実だからな)

(事実ですからね)

 一方で、シロヴィアとブラン・ティアは表情には出さず、心の中でアンバ・ロップスに同意を示した。

「さあ、二人とも。仲良し口喧嘩も良いけれども、そろそろ戦闘空域に入るぞ。連携位置についておくれ」

『誰が仲良し口喧嘩って…ああ、もう!こうなったらアクアリオ・ノアの連中に八つ当たりしてやるー』

『それは穏やかではないですわね…』

 語気や口調とは裏腹に、クリムゾルは安定した加速を見せている。

「気持ちは察するけれども、程ほどにな。ブラン・ティア、シャープブローのロックを解除。すれ違いざまに一撃を加える」

「分かりました。刀身の振動圧を調整します」

 アグリィの腰にある刀状武器の柄が、少しだけ鞘の端から浮き上がる。

「抜刀準備、整いました」

『こちらも抜刀準備、整いましたわ』

 クリムゾルの腰にしている武器の柄も、鞘から少し浮き上がる。

『それじゃ、いっちょやりましょうか。シロヴィア!』

「ええ!」

 そして、ほぼ同時に武器を抜き放った二機は、まるで猛禽が獲物を狩る時のように、目の前で戦闘を繰り広げている鳥人のようなHNたち目掛けて、急降下を開始した。


ご覧いただき、有難うございました。

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