魔王の妻になる!!(5)
ここは、黒の大陸の中にあるレナトゥ-ス国という国。
この国の中では黒の大陸ではなく、シャルエル大陸と言うらしい。
意外にもここは想像を絶するほどの素晴らしい国だ。
木々の緑はたくさんあり、水もきれい。
驚くことにこの大陸に住んでいる人々は皆、「魔法」が使える。よくあるファンタジー物語と一緒だ。
まさに妄想をするのに持って来い!!の場所なのだ。
「ホントに綺麗なところだなぁ~」
と、肩肘つきなが呟いているのは、他の国々から最も恐れられている人物。
アルファス・ディア・レナトゥ-スの今は、「名目上の妻」になった。
リリアーナ・ディア・レナトゥ-スだ。
言っておくが、「名目上の妻」なのだ。まだ正式に婚姻を交わしていない。
何故なのかはまだ分からないが。
今私がいるのは、レナトゥ-ス国の城の一部、町が全て見回せるほどの塔の中にいる。
私がここに来てから一週間が過ぎた。
私の「名目上の旦那様」アルファス・ディア・レナトゥ-スに会ったのはたったの一回だけ。
私がここに来た時に初めて挨拶をした。
この一回だけだったのだ。
「リリアーナ様、そろそろお茶の時間にしませんか?お庭の東屋に御用意しております。」
声をかけてきたのは、私の側近のメアリーだ。
「そうね、行きましょう。」
椅子から立ちあがり、メアリーにと一緒に東屋に向かう。
*
-1週間前
「リリー、体には気を付けね。」
「分かっているわ。お母様。」
母は私をしっかり両手で包み込むように抱きしめながら言った。
「リリアーナ、大変なこともあるだろうが。頑張るんだぞ」
「大丈夫よ。お父様。心配しないで」
父は感情が顔に出やすい。
行かないで欲しい、というような顔だ。
思わず私は苦笑してしまった。
「お姉様っ。向こうに着いたら必ず手紙を出して下さいねっ!」
「えぇ、分かっているわ。必ず出すから。そんな泣きそうな顔しないで。」
フィオレロも今にも泣きそうだ。
ついつられて私まで泣きそうになってくる。
「リリー、今までありがとう。それと、ごめんなさい…」
「どうして謝るのよ、お姉様。それじゃあ感謝してるのか、してないのか。分からないじゃない」
泣きそうになるのを堪えて笑顔で姉に返答する。
「今までのを含めてよっ!。あなたに嫌み言ったりしたじゃない…それを含めて本当にごめんなさい」
「いちよう、気にしてくれてたんだ。ありがとう」
精一杯の気持ちを私に向けてくれた。
それだけで嬉しい。
そして最後に泣きじゃくっているジュリーに挨拶する。
「私」が「私」になったときに一番お世話になった人だ。
辛いときも嬉しいときも悲しいときも側に居てくれた。家族と同じように大切な人。
「ジュリー、泣かないで。綺麗な顔が台無しじゃない」
「うぅ~。お嬢様ぁ」
ハンカチで涙を拭いながら、抱きしめてくる。
とても心地いい。
「ジュリー、いつもありがとう。一言じゃ言い表せないほど、とても感謝しているわ」
涙がじわじわと溢れてくる。
でも、
「離れがたくなるから、そろそろ行くね。
皆、本当にありがとう。行ってきます」
鞄を持って卓上の上に置いてある、手紙とペンを見る。
ここに名前を書くと私はどうなるのだろうか。
緊張する。
ペンに手を伸ばし、自分の名前を書く。
『リリアーナ・エルモア・エストワール』
すると、手紙が光り出しまばゆい光が私を包み込む。
*
私は黒の大陸は暗い場所だとずっと思っていた。
けれど、そこは私の想像を絶していた。
目を開けると周りは白い大理石の壁にに包まれており、天井は球形の屋根だ。とても高い。
下には赤いカーペットが敷いており、前を向くと玉座には王様らしき誰かが座っていた。
椅子の近くには、側近らしき人が一人だっていた。
二人とも後ろのステンドグラスの光で陰ができていて顔があまり見えない。
そう、ここは謁見室。いわば広間ともいう。思わず口が開いたまま閉じなかった。
呆然としていると、側近と思われる人が階段を下り私の近くに来た。
黒い短髪で背が高い。身だしなみがきちっとしている。いわば英国紳士みたいだ。
「ようこそいらっしゃいました。エストワール帝国の第二王女様ですね?」
「はい、そうです。エストワール帝国の第二王女、リリアーナ・エルモア・エストワールです」
慌てて挨拶をする。
「存じておりております。」
ご丁寧に挨拶を返してくれた。
「私は陛下の側近をしております。ヴァシェロンと申します。以後、お見知りおきを」
軽く腰を曲げ頭を下げる。
後ろを振り向き、ここの王様である人に目をむける
「このお方はレナ-トゥス国並びにこのシャルエル大陸の国王となられている方。アルファス・ディア・レナトゥ-ス様です。」
すると、玉砕に座っていた王様が
「我が妻となる者よ。この国では、自由にしてくれていい。貴女の命は私の命となっている。
以上だ。ヴァシェロン、この者を部屋へ案内しろ。ついでに側付きの方も紹介しておけ。」
「はっ。陛下の仰せのままに…」
ヴァシェロンが、頭を下げ終えると「行きましょう」とそのまま部屋へと案内された。