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黒の水晶玉(1)






「ふぁぁ~~…よく寝たなぁ」


 目を擦りながらベットから上半身を静かに起こす。カーテンから漏れる朝日の光が今日もキラキラと輝いていた。

 隣ではすやすやと寝息をたてながら、ベビーフェイスのごとく可愛らしく寝ているのは、私の旦那様であるアルファス様だ。

 超絶美形である彼の顔は顔面偏差値100を越える(わたし基準の)勢いだ。私の中にあるパラメータがグンッ!と一気に上がっては、上がりすぎてパリンッ!と割れそうな程に…。


 前世でもアニメをよく見ていたので、いつかは白馬に乗ったカッコいい王子様に出会いたい!などと考えていた時期もあったりしたものだ。まぁ今では妄想に浸るまでもなく、右を見ても左を見てもカッコいい旦那様がいるから、私の欲求は常に満たされ続けている。


 だがここしばらく私の妄想癖が封印されていたからだろう。ここでいつもの私の癖が出てしまった。いつの間にか、ムフフとよだれが出そうになり、ついでにフワンフワンと妄想への入り口が開けてきたのだ。

 …………だが妄想へ入る前に、ここで正気を保たせてくれたのは他でもないあの人だった。


「ぅ、う″~ん。…おはよ、リリー」

「!!! へ、陛下!?」

「うん、そうだよ?」

「あ!お、おはようございます」

「うん。おはよ」


 彼も同じく目を片方の手で擦りながら、もう片方の手で私の腕を掴んでいる。今まさに、ここで掴んでくれなければ、私は久々の妄想へとまっしぐらであっただろう。


(あっ、危ない~っ!変な醜態をさらすところだったぁ!)


 私の心の中はヒヤヒヤだ。今のはタイミングが良かったからなので、なんとかなった。だが、次はいったいどうなることやら。でもとりあえず一安心なのは間違いない。


「どうしたの、リリー?なんだか、安心した顔してない?」

「!?、ぃやだなぁ、陛下!なんでもありませんよっ」

「そう?」

「はいっ、もちろんです!」

「そっか、分かったよ」


 彼も上半身を起こして、ベットから出るのかなー?と思いきや、後ろから私に抱きついてきた。私は思わず「ピャッ!」と変な声を出してしまったが、彼は「かわいい、かわいい」と言っては少し強く抱きしめる。

 彼は白いシャツを着ていたが、彼の温かい体温と肌の柔らかさ、そして彼のいいにおいが私の全体を包み込む。

 彼に抱きしめられているこの居心地のよさが私は好きだ。


(ずっと、このままでいたい)


 そう思ったのもつかの間。


「リリー、こっち向いて?」

「は、ぃ…………っ!!!」


 振り向きながら返事をしようとした瞬間、私の口は塞がれた。気づくまでが若干遅れてしまったが、私は今まさにキスをしている。そんなに濃厚じゃないやつ。かるーく、くっつけているだけのやつなのだが、異様に長い。


「ぅう″ーん!」

「………………」


 何秒だっただろうか。ようやく離れた。


「─っぷはぁ。な、長すぎです!!」

「って、言われてもねぇ。リリー、息は口でもできるけど鼻呼吸でも出来るんだよ?」

「しっ、知ってますげどぉ………その、…心臓がドキドキしずぎて、上手く出来ないんですぅ…」

「はああ!やっぱり、リリーは可愛いね!私の世界一のお嫁さんだよ」


 私が本気で照れながら答えるも、彼はこうして最終的には私をドンと甘やかすから、そんなに強くは言えない。本当に困った人である。そんな彼に私は心を奪われたから今ではデレデレあまあまの毎日を送ってはいるが、もし違ったらと思うとなんとも言えないだろう。

 日々私は彼に恋をして、彼もまた私に恋をしている。相思相愛だからできることだ。


 そんなこんなで二人の世界にどっぷりと浸っていると、トントントンとドアを叩いた音がする。誰だろうと思っていると、


「アルファス様、リリアーナ様。お目覚めのお時間でございます」

 

 ドア越しに私たちを訪ねてきたのは、フローラの侍女であるカトリーヌだった。

 

「あ、はーい!二人とも起きてまーす!」


 私は何気ない気持ちでカトリーヌに返答をしたのだが、未だに私を抱きついて離さない私の旦那様は少々不服そうだった。

 それに関しては、少しばかり申し訳ない気持ちでいっぱいである。だが、このままでは支度も何もかもできないので離してほしいとお願いをすることにした。


「陛下、そろそろ離して下さい」

「いやだ」

「お願いします」

「………………」

「へ・い・か?」


 最初はやさしめな口調ではあったのだが、最終的には少々厳しくなってしまった。彼は本当に不服そうながらも渋々離してくれた。正直言って私も離されるのは惜しいと思っているのだが、しょうがない。次にとっておきたいと思う。


「さっ、早く支度をして朝食を食べに行きましょう」

「そうだな、あいつらも待っているだろうし。この続きはまた夜にでも…ね?」

「─っ!もぉ~陛下ったらぁ」


 最後のセリフに顔がたちまち顔が真っ赤になってしまったが、同時に嬉しくも思う。彼が私に愛の言葉を言ってくれるごとに、私の心の中は満たされるのだ。

 だが、ここでふと思ったことがある。

 それは彼がプロポーズしたとき以来、私は彼に『好きです』と言ったきりではないかと。あれ以来一切、愛の言葉を口には出したことがないのではと…。


(あれれ?…そういえば私達まだ新婚だよね?頻繁に『愛してる』とか『好きだー!』とか私は言ってないような……?っていうか、そんな頻繁に言うものなのけな?)


 私の頭の中で様々な疑問符が浮かび上がる。うーんと腕を組ながら様々な記憶をほじくり返す。

 出会ったとき、思いを伝えあったとき、結婚したとき、それからの数ヵ月間、そして今。

 

(うーん、なんだろ。記憶が飛んだり飛んでなかったり、たまに有りもしない記憶があったりすんだよなぁ~。なんでだろ…?)


 だが、その答えは分かりきっている。それは、自分の妄想がちょくちょく寝ている間に夢として出てきてしまっているせいだ。妄想ロスなせいもあるのだろう。最近はよく、金髪碧眼のイケメン王子様が私の前に現れるのだ。もちろん、夢の中での話だが…。


 ─とにかく話は戻して、私としても愛の言葉を言い放つことをしなければ、いつかは捨てられてしまうのだろうか?そんなことはないとは思いたいけれど、人生そんなに甘くはない。私としても、自分が陛下の妻だということを改めて認識して、いつまでも私のことを好きになってもらわなければ困るのだ。

 もちろん私は旦那様に日々恋しているけれども…♡


 って今はそんな場合ではない!急いで支度をしなればっ!………て思っている内に、エピナント国のできる侍女数人と私の侍女であるメアリーがテキパキと終わらせていたのだ。


「リリー様、お支度の準備が整いましたよ」

「っえ、ええ。ありがとう」


 若干戸惑いながらになってしまったが、なんとかお礼を言えた。それにしてもいつの間に旦那様は部屋を出て、なおかつ侍女たちが入ってきたのだろうか。まあ、私が自分の考えに浸っている間に来たのだろうが。



トントントン。


(こんどは誰だろう?)


「私が見てきますね」

「あっ、うん。お願い」


 この場はメアリーに任せて私はベットの縁に腰かける。

 それから少しした後にメアリーからの声がかかった。


「リリー様。アルファス様がお迎えに上がりましたよ」

「あ!はーい」


 いつの間にか出ていった旦那様が私を迎えに来てくれた。今から朝食である。


「リリー、今日も綺麗だね。さすがは私の妻だ」

「もぉ~、アルファス様ったら。ほ、ほらっ!さっさと行きますよ」

「はいはい」


 私が顔を赤くしている中で、彼はニコニコしながら私の後ろを付いてくる。なんとも可愛らしい。

 動物みたいだなと思いながらも、今日は精霊祭まで後2日、ということで問題の品である黒の水晶玉を見せてもらう約束があるのを思い出した。

 フローラ様から少し話は聞いたが、どのような物なのか。もちろん、黒色の水晶玉だということは分かっているのだ。どのような影響を及ぼしたのかも知っているし。

 でも、まだ他に何かしらありそうな気がしてならない。それはただ単に私の妄想癖のせいなのか、または女の勘というやつなのか。もしくは、ただの勘違い野郎か。なんとも言えない妙な気持ちを持って、私たちはエルクシル様たちが居る食堂へと向かった。






ありがとうございました

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