私と彼女のお茶会(1)
チュンチュン…。ピュピュピュ………。
この世界には本当に不思議な生き物がたくさんいる───。
例えば全身が緑色のすずめみたいな鳥と、変わった鳴き声のカラスサイズの全身が黄色1色、くちばしが茶色の鳥。その他、もろもろな鳥がいる。
初めて見た感想は一言で言うと、実にシンプルだ。
(個性的&ハデすぎませんかっ!!)
それのみ。
前世でも似たようなのは居たのでそれほど違和感はない。見た目だけは……。
だけれど私が姿形よりも目が行ってしまうのは鳥の色だ。個性的すぎる。
今、私が見た中でもさまざな色が目に入り込んできた。
赤、緑、黄色、紫、白黒の水玉模様…………etc.
(これはあれだな。多分レインボー柄の鳥もいるよ。多分だけど───)
目が虚ろ虚ろになりつつも目の前の通りすぎて行く鳥を観賞する。というよりも、勝手に目が鳥を追いかけてしまうのだ。
(早く色に対する耐性をつけなれば、ここは異世界なのだからぁぁ!!)
ウンウン唸っていると何処どこから可愛らしい声が聞こえてきた。
「リリー様、どうかされましたか?」
「いっ、いいえっ!なんでもありませんよ!あはは」
「フフフ、そうなのですか。ゆっくりとおくつろぎ下さいね」
「はい。ありがとうございます」
今私達がいるのは、エピナント国の城の最上階である。いわゆる屋上だ。
実はフローラルーンの誘いにより、只今二人でティータイム中である。領主妃が自ら淹れてくれたミントティーはなんとも幸せの気持ちになることか。心地いい風になびかれ、空の天気も快晴である。
「最高!」この一言に尽きる。
そしてお気づきいただけただろうか?彼女とはあのとき話が弾んで以降、名前は愛称呼びになったのだ。
「是非とも、フローラと呼んで下さいな」
彼女からのきっかけで、ぐんっと距離が近くなったような気がする。なんとも有りがたい。
ちなみに男二人は何をしているのかというと、前日の夜にお酒の飲みすぎで二日酔いである。今はもうお昼時だというのに、いまだにバテてしまっているのだ。
屋上からの眺めはとても気持ちがいいもので、一生ここに居てもいいかもと思わせるほど。王の城は国全体が見渡せるほど高く、国の人々が住んでいる大木も上から眺めるような感じで見える。首を少し右に回すと、この国の象徴といわれる「ソルマージュ」という木が距離は離れているが肉眼でしっかりと確認できるのだ。
「リリー様、お茶のお代わりはいかがですか?」
「えっ!あ、ありがとうございます。頂きます」
花のような優しい笑顔でお代わりの申し出をしてくれたフローラルーンに対し、私はなんとも落ち着きがなく答えてしまった。なんだか恥ずかしい。彼女との距離は近くなっても、世間にまだ慣れない。こうゆうことを踏まえて、落ち着きというものを改めて身につけたいものだ。
この国に来てもう3日が経つというのに…。
私にとっては、嫁いできてから初めての他国でのお仕事だ。緊張もするし、失敗しないかがとても心配だ。今更ながら気にしてもしょうがないとも思うが、どうしても思ってしまう。
私の目の前にいる綺麗な方を見るとどうしても。彼女はエピナント国の領主妃でありながら同時に立派に妻を務めている。
私は何もかもがまだまだ新米だが、いつかこの人みたいになりたいとも思ってしまったのだ。
自分の感情は複雑で面倒だが、少しずつ少しずつでも、絡まった感情がほどいていけるようにしていきたい。
するとここで「そう言えば」となにかを思い出したかのように、フローラルーンが口に付けて飲んでいたティーカップをソーサーの上に戻した。
「リリー様は、私たちの呪いについてはご存じですか?」
「っえ、まぁ少しだけなら存じておりますが……」
いきなりの問題定義に驚いてしまった。私としては余り深く突っ込まない方がいいかと思っていたのだか、フローラルーン自らが直接聞いてくるとは思いもしなかったのだ。
「詳しいことは直接フローラ様かエリクシル様に伺った方がよろしいというふうに、陛下とカトリーヌに言われております」
「そう………」
私の発言に対してフローラルーンが少しだけ怪訝そうな顔をしていたのは私の気のせいだろうか。
「あのっ…。フローラ様?どうかされましたか?」
「えっ、いいえ。なんでも無いわ」
なんだか怪しい。ついつい疑り深くなってしまうが、フローラルーン様はなにかを隠している、私の直感がそう告げているのだ。
「そうねぇ。リリー様はどこまでご存じなのか、お聞きしてもよろしいかしら?」
「はい。もちろんです」
私はフローラルーンに自分が知っていることを包み隠さず全てを話した。
何千年と続く呪いだということ、エルフ族はあまり長くは飛べないということなどを。
私の話を聞いていたフローラルーンは「そう、本当に詳しいことはまだなのね」と何かを考えているようだった。
「あの。一つ気になっていたことがあるのですが聞いてもよろしいでしょうか?」
「え、えぇ。何かしら?」
「陛下に教えてもらったのですが、何故密かにお祭りと儀式を行われているのですか?」
「・・・」
あっ、やはり聞いてはまずかったのかと思いつつも、今さっき思い出したエピナント国の疑問の内のひとつ。
「密かに行われている祭りと儀式」だ。
私がカトリーヌに聞いた話だと、他国の皇族はこの祭りがあることを知らないし、知らされてもいないそうだ。知っていても、彼女らの友人であるアルファスのみだそうで、この事の記述が残されているのもレナトゥース国だけだそうだ。
これ程までに厳重とまではいかずとも、他国の皇族が知らないとなれば、かなりの事情があるはずだ。
私としても少しでも彼女の話を聞いて、お節介かもしれないが力になりたいとも思っている。
「そうねぇ、そうよねぇ。あの結婚嫌いのアルファス様が妻に迎え入れたほどですもの。よっぽど、信頼なさっているのね」
手を顔に軽く触れながら「フフフ」と笑顔でありつつも、やはり何処か重い空気はある。
(やっぱり、地雷でも踏んじゃたのかなぁ)
いつの間にか私の顔が落ち込んでいることに気づいたのであろうフローラが声をかけてきた。
「今からお話することは出来れば構いません。他国の方々へは、他言無用でお願いできますか?」
「えっ!あ、あのもしかして………」
「はい、折角ここまで来ていただいのです。リリー様にはただただ、楽しんで帰って頂きたかったのですが、もうついでです。全てをお話ししましょう」
いつまでも笑顔を崩さず、「そのかわり」と言葉を続けた。
「この話を聞いた暁には、私達に協力して頂くことを前提といたしますが、それでもよろしいですか?」
協力?もしかして、呪いの解呪方法かなにかだろうか。それでも、その事について気になっていることは事実だし、何よりも私の好奇心が押さえられないでいる。
「はい、もちろんです。是非、私にも協力をさせてください!」
その言葉を聞いたフローラは少しだけ驚きつつも笑顔で、ありがとうと答えた。