魔力について
結界を抜け、私の目の前にはとてつもなくすごい光景が広がっていた。
真っ青な空を飛ぶエルフ族の人々。とてつもなく大きな縄文杉みたいな大木には、所々に大きな穴があいている。なんだろうと、見ていると穴からはエルフ族が出入りしているのが分かる。おそらく、そこに 住んでいるんだなと思う。しかもその大きな木が何本も近くに立っており、迫力すら感じてしまう。
「わぁ~。凄い……!」
唖然としてしまいそれ以上の言葉はなぜだか出てこなかった。
◇◇◇
「ようこそいらっしゃいましたぁ!!エピナント国にようこそーー!」
カトリーヌが馬車の中で両手を広げて迎えてくれてた。すると彼女の体には妙な変化が起きていた。なんと、カトリーヌの背中が緑色の光を発していたのだ。
「へっ?え!?カ、カトリーヌ?背中が何か光ってない?」
「カトリーヌ様!う、後ろがぁ!」
何が起きたのかビックリせずにはいられない。これに関してはメアリーも目を丸くして見つめており驚きを隠せてない。陛下はこの事を知っているようで、ピクリともしていない。当の本人は、大丈夫ですよと安心させるようにニッコリとほほ笑みながら言葉を発する。
「あぁ、ご心配なく。そろそろ魔法が切れかかっているだけですので」
「あっ、そうなんだ。良かったぁ」
本気で良かったと安堵している自分がいる。カトリーヌはレナトゥース国に来る際に羽は魔法で消していると聞いてはいたが、まさか魔法にも時間制限があるとは……。魔法はやっぱり興味深いものだと改めて思う。
(これを期に魔法について少しは勉強してみようかしら)
前世で私がハマっていたものであるアニメや漫画の中で魔法というのはファンタジーというジャンルに含まれる。小さい頃は魔法使いやプリ〇ュアを夢見たことはあったが、しょせん夢は夢。魔法を使えることなんてあり得ない。でも、この世界は違うのだ。私の希望と理想を叶えてくれる世界。まさにザ・ファンタジー世界なのだ。
「もうしばらくしたら、領主王様たちがいる居城に着きますので今しばらく、旅をごたんのう下さい。」
カトリーヌが馬車の中で立ち、優雅に挨拶をする。
ここでさっきから窓の外を見ている陛下にカトリーヌの魔法について聞いてみる。と、いうよりもさっきから放ったらかしにしてしまっているので、少しだけ不機嫌気味なのだ。顔色を伺えば、ムスッとしているのが分かる。
「陛下はカトリーヌの魔法のこと知っていたんですか?」
「ん?あぁ、知っていたよ」
突然声をかけられてビックリしてしまったのか、慌てて作り笑いを私に向けた。
「まさかですけどエルフ族って、魔法にまで時間制限がかかっているわけでは無いですよね?」
「………実はそうなんだよね。羽で飛ぶということも結局は魔法と同じようなものなんだ。」
(同じようなもの?)
思わず首を傾げていると、陛下が詳しい説明をしてくれた。
「魔法を使うにはね、私たち魔族の体内には魔力というものがある。その魔力を糧にして、いろいろな魔法が繰り出すことができるんだ。そこまでは理解出来る?」
「はい。分かります」
彼がうん。と頷いてから言葉を進める。
「その魔力というのは一人一人個人差があるんだ。皆、同じように魔力がある訳じゃない。…と言っても、種族によってって感じなんだけどね」
「へぇ。種族によって魔力の糧は違うんですね。初めて知りました」
なるほどと納得しながら、話を聞く。
「まぁ、だいたいは魔力が尽きるまで魔法を使えるのが当然なんだけど…。エピナント国の呪いの話は覚えているね?」
「はい、もちろん覚えています。カトリーヌにも少しは教えてもらいました。」
その呪いは何千年と続くし決して解けることはない、エピナント国の永遠の呪い。ちなみに使える時間は10分の間だけ。使った後は、しばらくのロスタイムを過ごしてからまた使えるという、聞いている方としてはめんどくさいシステムだ。
「詳しいことは、領主王か領主妃に聞くといいですよ!」とカトリーヌにも言われているので詳しいことはまだ知らない。
「さっきも言った通り、魔力は体内に存在する。羽も魔力をコントロールして飛ぶことが出来るんだ。そう考えると・・・もう分かるよね?」
「はい。飛ぶことと同じこと、ですか。魔力があっても魔法を使い続けることに時間があるんですね」
フムと理解する。でも、1つだけある疑問が残った。
「あの……。魔法を使える時間制限が10分となっていますけど、10分間魔力って持つものなんですか?」
「あぁ、そうだね」
そう、時間制限があっても10分間魔力が持たなければ意味がないのだ。例えば、魔王と戦っていたとしても魔力を使い過ぎればジ・エンドだ。多分、魔法を使う種類によって差はあると思うが…………。
「うぅん。何て言うか、魔力の消費量によっても違うと思うんだけれど。もし魔力が100あったと考えると、エルフ族が羽をしまうのに使っている魔力は1みたいなものなんだ」
(なるほど。その考え方は合っていたのか)
一旦、考えてこんでから目で続きを促す。
「そう考えると、1分間に魔力を1ぐらい使っているとしたら10分間で魔力が10減る。だから、魔力は余裕で持つんだ」
「─へぇ。なるほどー、すごく分かりやすかったです。」
「そう、なら良かったよ。」
「─っ!」
ニコッと微笑む彼を見て思わずドキッとしてしまった。まぁ、最近は陛下を放ったらかしにしてしまっていたということもあり、陛下不足とやらになっていたのだろう。
いや…まぁ放ったらかしにしたのは自分の自業自得なのだが。とにかく改めて格好いい人なんだと思い直した。
それがいつの間にか行動の方にも出ており、陛下の顔をそらせるがいなや無意識に両手で自分の顔を隠していた。
(何て言うか、改めて惚れ直されられた気分っ!)
「?」
陛下の顔をチラッとみれば、どうしたんだと頭にハテナマークが浮かんでいる。メアリーとカトリーヌは話に夢中になってなっており目もくれていない。
なぜだか、見られていたのが彼だけで妙に安心してしまっていた。
私がいつまでもそのことについて悶絶しているとカトリーヌからの声がかかった。
「あっ!皆さん見えてきましたよ。エピナント国を収めている我らが王の城へようこそっ!」
カトリーヌが手を向けた先には、エピナント国に相応しいというような初めて見るお城だった。それは、首が痛くなるほどとてつもなく大きな大木。
「わぁ。凄い!」
見上げた後は、木の城の正面に目を向ける。私達が今通っている場所は木が自然と絡まりあった短いトンネル。城門のような場所だ。そのトンネルを抜けた先に、カトリーヌの主達がいる。どんな人なのかとても楽しみだ。