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一通の手紙

今回はリリーの家族のお話です。

これも、のちのちは本編と関係ありにしているつもりです。






 我が娘が嫁いで1ヶ月くらいが経ちました。

 現在エストワール帝国では波乱な日々が続いています。なぜなら、国民に公表したことが世間を震わせたからです。


 公表内容は、″第二王女であるリリアーナ・エルモア・エストワールが魔王に嫁いだ″ということ。城内には毎日のようにいろいろな人が来ては、「何故、リリアーナ様を魔王に渡したのですか!?」などなど、耳にタコができるくらい繰り返した内容。


 そうなるくらいなら、いっそ公表しなければ良かったのでは?と思うでしょう。

 しかし、いきなりリリーが居なくなったとなればそれこそ、国民に多大なる不安がよぎるかもしれないと考えた末の結果です。


 そんな忙しい日々に、ある一通の手紙が届きました。



***

「お母様。いつまでこんな日々が続くのかしら?」


 皆そろってのティータイム時に、ローズが口を開いた。普段からはあまり、そのようなことを口に出さないようにしている。言ってもきりが無いからだ。


「大丈夫よ、ローズ。もう少ししたら静まるわ」


 娘の不安も分からなくない。いつまでもこんなことが続く日々にそろそろ終止符を打ちたいと思っている。


 シーンと静まる空間に、フィオレロがなんとか場の雰囲気を明るくさせようと試行錯誤しているようだ。さっきから、「えーと」や「あのー」と言葉を探している。

 ここで、ふっと思い出したかのようにフィオレロの顔が明るくなった。


「そっ、そういえば!リリーお姉様からのお手紙。まだですね!」


 ぎこちない笑顔とともに必死さが伝わってくる。そういえばと、私も思い出した。リリーが嫁ぐ前に、「必ず手紙を出すわっ!」と言っていた。


 ここで私は紅茶を堪能している夫に視線を向ける。「手紙はまだなのですか?」と。

 すると、フルフルと首を横に振る夫に、まだなのですね。と少し残念な気持ちになる。


 そうしているときに、トントントンと扉のノックの音が聞こえる。「どうぞ」と夫の許しを得て入ってきたのは、リリーの乳母でもあるジュリー・ライオネットだ。


 だがここで、びっくりしたことがあった。私を含め夫もローズもフィオレロも何があったと言わんばかりにジュリーの顔を見ていた。


 なにがあったか、それはジュリーが泣いていたからだ。それはもう、顔がグシャグシャになるくらいに。本当に何があったのかと尋ねない訳にはいかない。私がジュリーに何があったのかと、声をかける前にジュリーが言葉を発した。


「旦那様ぁ。奥様ぁ。リリー様から、お手紙ですぅ~」

「本当なの?!リリーからの手紙なの?」

「はぃ。本当です"ぅ」


 私としたことが、はしたないくらいに舞い上がってしまった。リリーからの手紙だなんて、信じられないくらい嬉しかった。

 ローズもフィオレロも夫も、とても嬉しそうだ。


 手紙は白い封筒に、水色が縁取られていており金で国の文様が描かれていた。


 表面には『親愛なる家族へ』と書かれており、裏には『リリアーナ・ディア・レナトゥース』と差し出し人ととして記されてあった。


 ジュリーが手紙と一緒にペーパーナイフを持ってきていてくれたので、ジュリーを含め皆で見ることにした。



***

 夜になり私たち夫婦は、就寝する準備をしている。

 ベットに腰かけ長い髪をといている私は白のゆったりとしたドレスを着ている。同じくベットに腰かけている夫はワイシャツに黒のズボンをはいている。


「良かったですね、あなた。リリーが幸せそうで」

「あぁ。そうだな」


 正直、手紙が来るまで不安だった。あの世界を滅ぼそうと考えている魔王に嫁いでいるのだ。なにがあってもおかしくない。頭の中ではいろいろ考えていた。幽閉や生け贄など、そればかりでいっぱいいっぱいだったのだ。でも、手紙にはそんなことじゃなかった。


『私は元気で過ごしています。楽しいよ!』


 と手紙ではなんとでも言えるが、他にも


『今は毎日にのようにティータイム を満喫しているの。とっても美味しいのよ!皆にも飲んで貰いたいな』


 と言うふうに綴られていた内容にびっくりしたものだ。黒の大陸であるレナトゥース国は自然がいっぱいだという。私達が最も敵視している魔王についても簡単なことが書かれていた。


『私の旦那様はね。とってもシャイでかわいいの。いつか会って貰いたいな』


 と信じられないことも書かれていたのだ。でも、娘を信じない訳にもいかない。


 そう思いながらも2枚目の手紙をみると、大きな字でこう書かれていた。


『私、とっっっっても幸せよ!!』


 その文字を見た瞬間、涙を堪えていた私はとうとう溢れてしまったのだ。涙が止まらない私を夫が肩に抱き寄せた。ローズもフィオレロも泣いているみたいだった。涙で視界がぼやけていたのでこれ以上のことは私には分からなかった。




「あの子は本当に幸せなのねぇ」


 あの時と同じように今度は自ら自分の頭を夫の肩に乗せる。優しく撫でられ、とても居心地が良かった。


「今はリリーを信じよう」

「そうね。そうよね」



 またもや昼の出来事を思い出し、涙が出てきそうになる。私はあの手紙を見て思ったことが一つだけある。


 それは、魔王は本当はいい人なのではないかということ。


 リリーは悩みながらも、本当に嫌だと思うことはハッキリと嫌だと言葉に出す性格だ。


 きっと大丈夫。そうに違いない。


 私はリリーを信じながら、次の手紙を待つことにした。






ありがとうございました。

次は第二章になります。もうしばらくお待ちくだいさい。

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