魔王の妻になる!!(9)
私は彼の話をずっと聞いていた。
痛々しい話や楽しかった話、悲しかった話などたくさんことを教えてくれた。
「全部私のせいなんだ…。私が人間に関わらなければこんなことにはならなかった」
アルファスが重苦しそうにうつ向く。
私は何をしてあげられるだろうか?
「大丈夫ですよ」だろうか「もう過ぎたことじゃないですか」なのだろうか。流石に無神経すぎる。
そう悩んでいると、
「でも…、ある時図書館に行ったんだ」
「図書館?ですか」
突然の話題転換に驚いてしまった。
「あぁ、今から10年くらい前だったかな。今や私は世間を脅かす魔王という存在になっているだろう?図書館の記録ではどのようになっているかと思って魔法を使い、幼児化した私はエストワール帝国の国立図書館に行ったんだ」
「えっ!?」
嘘でしょ。と思わずにはいられない。
だって今、図書館と言ったのだ。
ちょっとの期待と共にもしかして?の気持ちが交互に混ざり合う。
「そこで会ったんだよ。君に」
そう告げられたとたんなぜだか涙が溢れてしまった。
私は長年もう一度会いたかった人にやっと会えたのだ。
すごく嬉しいっ。
「ほ、本当にあの時の男の子なんですか?私に水色のリボンをくれた男の子なんですか?」
「あぁ、そうだよ。10年かけてやっと見つけたんだ」
陛下の頬は少し赤くなっていた。
でも、私としては一つ気になることがあったのだ。
「えっ、10年?かけて?」
「あぁ、まぁな。リボンを首もとに着けたからすぐ見つかると思ったんだかな。なかなか見つからず、10年かかった………」
目を逸らしながら照れていた陛下を見て思わず口元が緩んでしまった。
「あははっ!そうだっんですか。私も探してたんです。リボンの主を。やっと見つけましたっ!」
その言葉にアルファスはびっくりしているようだった。
「探していたのか?…私を?」
「はい!今度あったときには名前を聞いて、私とお友達になって貰いたかったんですっ」
「そうだったんだな。ありがとう。リリアーナ」
優しく微笑みながら私の顔を見ている。
「!!」
と、いうよりも今の言葉には目を開かずにはいられなかった。
だって今初めて名前を呼んでくれたのだ。
「今…私の名前を呼んでくれた」
思わず泣いてしまった私に陛下が慌てて私のところへ駆け寄る。
「すっすまない。嫌だったか?!」
「いっいいえ……。違うんです…。これは……嬉し涙です」
「そうかぁ。なら良かった」
本気で安心したのだろう。さっきまでの慌てような顔は消えていた。
*
それから数分後には、私の気分はだいぶ落ち着いた。
「もう、大丈夫か?」
「はいっ!ご迷惑をおかけしました」
ソファーに座りながら頭を下げる。
「迷惑だなんて、かけられた覚えはないよ」
実にスマートな返し方だと思う。
思わず惚れ惚れしてまう。
「あのっ。陛下」
「なんだい?リリアーナ」
「陛下は外の大陸の人達とはもう関り合いたくないですか?さっきは私、手伝うとか無神経すぎる言葉を言ってしまったからも知れませんが、今ではどうなのですか?」
「………」
それは私が一番聞いてみたかったことだ。
彼は人間に心身共に傷つけられた。
もう、関り合いたくなのが当然なのだろう。
でも、陛下は一度私達の国に来ている。
そして今現在、人間である私が妻としてここにいる。
アルファスが長い沈黙の末に口を開いた。
「私には、よく分からない。でも、リリアーナのお陰で少しは人間が好きになったんだ。そして、これを気に私自身を変えていきたいんだ」
彼の力強い意志に圧倒されてしまう。
「難しいかも知れないが、少しでもこの国と関わりを持って貰えるようにいろいろしたい…。だから…その…」
ん?何かの言いにくい事でもあるのだろうか?
急にもじもじ喋りだした陛下に「どうしたのですか?」と言おうとしたとき
「リリアーナに手伝って貰いたいんだ。国と国をつなぐ架け橋として。私に力を貸してくれないだろうか?」
不安そうな顔で私を見てくる陛下に思わず、
「ふふふっ!もちろん手伝いますよ!陛下の妻として微力ながらも頑張ります!!」
「そうか、ありがとう」
手伝わないわけがない。私は、この為にここに来た理由の内の1つでもあるのだ。
少しでも助けになればいい。
するとここで、ふと思った。そういえば!の話だ。
「あの、すみません。話変わるんですけど、この大陸に住んでる人達って私が陛下の妻になったというのは知ってるんですか?」
「いや、まだだ。でも城内の使用人達は皆知っている」
陛下もそういえば、みたいな顔をしていた。
「それじゃあまずは、ここに住んでいる人達に私がこれからお世話になることを伝えないとですねっ。その後に、外の大陸の人々にも伝えましょう」
「そうだな。そろそろ国全体に伝えないといけないな」
程なくして彼が何やら考え始めた。
しばらくしてからふと、顔をあげて
「良ければこの国で結婚式を挙げないか?」
「えっ!?」
その言葉は私をとても驚かせた。
なぜなら、まさかこんなことを言うとは思わなかったからだ。
「今度はちゃんと正式な夫婦になって欲しいんだ。思えば最初に会った時からリリアーナに一目惚れしていたのかも知れないな」
私の目をまっすぐ見詰めながら、優しくほほ笑み
「好きだよ」
その一言が私の体を震わせた。
まさか、そんなことを言ってくれるとは思わなかった。
私は両手を口に当て、今にも泣きそうな顔をしている。
「好きだ。リリアーナ。私と結婚してくれないか?」
続けざまにもう一言。
さすがに陛下も照れてきたのか、頬が赤く染まっている。
そして、どうだろかと手を差し伸べてくる。
かああと、つられて私の頬がも熱くなる。
まさかこんなとを言ってくるなんてぇ~。頭の中がパンクしそうぉ。
思えば私も一目惚れ状態だったのかもしれない。
10年かけて追い求めた相手が今、目の前にいるのだ。
私はこの人のことが好きだ。
手を振り解かないわけがない。
アルファスの手にそっと自分の手を置く。
「私も好きです、陛下。結婚しましょう」
彼が私の隣に座り、互いの唇を重ね合わせる。
二人の10年かけた思いがようやく実を結んだ瞬間であった。
ありがとうございました。
次で第一章は終わりです。
二時間後に投稿させて頂きます。