女神から与えられた16年間
初めての人情劇です。
異世界いって俺つえーものじゃないですが少しでも気に入って貰えたら幸いです。
もう冷たくなってしまった娘を抱きしめながら男は後悔と懺悔の気持ちが込み上げて来る。
もっと私がこの娘の気持ちに気付いてあげられたら、
もっと私がこの娘の周囲を注意して見守ってあげられたら、
こんな悲劇起こるはずなかったハズなのに。
男の後悔はそれでも膨らんでいき今はもう口を開けてはくれないその娘の遺体を抱きしめながらひたすら泣いた。
その後男は娘を強姦して殺した男共を全て殺し、出頭し、情状酌量の余地がありながらも未成年者の殺人数が多かった為に、男はその後死刑判決を受け入れこの世を去った。
光り輝く場所に男は居た。
彼の目の前には女神が居た。
「貴方が女神様ですか?」
女神は答えない。
「私は娘を守り通す事が出来なかった、そして娘を殺した人間達もこの手で殺めました。私の事はどうか地獄に堕として下さい、ですが娘だけはどうか娘だけは幸せな家庭環境に生まれ変わらせて下さい。どうか、どうか」
女神は微笑み告げる。
「貴方の娘は異世界に産まれました。今頃は四歳になる頃です、貴方を転移させ16年間だけ命を与えます、そこで今度こそ娘が大人になるまでその身に替えて守りなさい。」
男は滂沱の涙を流し深く頭を垂れ
「感謝します、貴方の慈悲に感謝します。」
そして街に転移した。
男は名をシナーと名乗った。
シナーはこの街で働く事を決意した。
シナーはその日の内に巡り逢えた。
あの娘だ!!あの右頬をさする仕草、
その子供はシナーに近付き
「おじさんだぁれ?なんで泣いてるの?」
シナーは目元を抑えながら
「なんでもない、気にしなくていいんだ。それよりお父さんとお母さんは?」
「おかいものしててどっかいっちゃった」
「そうか、じゃあおじさんが一緒に探してあげよう」
「ホント!!」
「あぁところでお嬢ちゃんの名前は?」
「マリア」
「そうか、マリアちゃんって言うのか、よしまたはぐれたらいけないからおじさんが手を繋ごう」
「うん」
マリアにぱぁと笑って手を差し出した。
シナーは誓う。
この手をもう離さない、何に代えてもこの笑顔だけは守ってみせると。
そして夕暮れ時で
「マリア〜」
マリアは反応する、
「あっお母さんだ!!」
「行っておやり」
「うん!お母さぁん」
マリアは駆け寄り
「あぁっマリアどこに行ってたのマリア」
母親はマリアを強く抱きしめた。
マリアは後ろを振り返り
「あのおじさんが連れてきてくれたのぉ」
「そうなの?お礼を言わないと」
今のシナーにはこの親子が眩しすぎて一礼して去っていった。
それから5年後
シナーはその後先物取引で利益を上げてマリアの住む街でも裕福な存在になった。
それでもシナーはマリアを見守り続けた。
そしてマリアの父親が職を失った時も従業員として雇った。
父親のビリーは能力は決して高くないが誠実で素朴な暖かみを持つ男だった。
母親のセリナは優しい母親だった。
こんな家庭に生まれたマリアはすくすくとそして中身は立派で優しい子に育っていった。
「ビリー、この物品を商会に届けておいてくれ」
ビリーは頷く
「わかりました社長」
シナーはビリーがどこかソワソワしてるところに気づく
「どうした?そんなにソワソワして」
ビリーは頭を掻きながら
「えへへそろそろ」
すると裏の扉から
「おとーさーんお母さんから弁当渡してって」
「マリア、ありがとうってお母さんに伝えといてくれお前もありがとうな」
「シナーのおじ様こんにちは」
そうしてマリアはシナーに一礼する。
「やぁいらっしゃいマリアちゃんお菓子を上げよう。」
「ホント!おじ様ありがとう!!」
この娘の笑顔は本当に癒される。よくもここまで真っ直ぐに育ったモノだなぁ。
そうして幸せな日々が続いた。
そして2年の月日が流れた。
「ビリー最近体調が優れないのか?」
ここ数日ビリーは目に見えて
「ゴッホゴッホすみませんお見苦しいところを」
シナーは鷹揚に手を挙げて
「いや、それよりもしばらくは休め、お前が居なくても仕事は回る。そんなんでセリナさんとマリアが悲しむの見たくないからな、心配するな休んでも給料は払うから」
「お心遣いありがとうございます。ではこの仕事を終えたら帰ります。」
そう言ってこの職場にビリーが顔を出したのは最後だった。
1年後
ビリーは不治の病で床に伏せっている。
ビリーの家の前まで来たシナーを迎えたのは妻のセリナだった。
そして次にマリアだった。
「これはシナーさん」
「シナーのおじ様こんにちは」
シナーは被っていた帽子をとり
「こんにちはセリナさんマリア、マリア馬車の中に輸入物の机がある今運ばせるから部屋に案内してもらえるかい?」
マリアは目を輝かせて
「ホント!!前から欲しがってたのおじ様大好き!!」
「はっはマリアはいい子だなぁ」
マリアが馬車の方に走ったのを見届けて
セリナが頭を下げながら
「シナーさんには本当にお医者様の手配から何から何まで面倒を見ていただいて」
恐縮したようなセリナにシナーは首を振りながら、
「いえいえマリアちゃんには私も救われてますから、…それでセリナさんビリーの容態は?」
セリナは首を横に振って
「お医者様の見立てですと後半年持つかどうか…」
「そうですか、この事はマリアには?」
「主人が自分から伝えるそうなので私からはまだ何も」
「そうですか」
ビリーが寝ている部屋に行くシナー
ドアを開ければそこには出会った当初から変わらない素朴で温かみのある彼が居た。
「これはシナーさん」
ビリーは身体を起こそうとするも止める
「いい、寝たままでいいから、調子はどうだ?」
ビリーは答える
「今日は随分と調子が良いんです、それに今日も
マリアが何か貰ってしまったようで」
「そんな事は気にするな、とにかく病気を治す事に集中するんだ」
ビリーは首を振る。
「もう長くは生きられませから、それにあんまり心配はしてないんです、僕から産まれたあの子はとても頭が良くて優しくて親想いのいい子に育ってくれました。ただ心残りはあの娘の大人になった姿か見れなかった事かなぁ」
そう言ってビリーは涙声で話す。
「安心しろ、あの子が大人になるまでお前の嫁さん共々なに不自由なく養おう」
それを聞いたビリーは身を起こしシナーに頭を下げる
「貴方に拾って貰った命、最後まで返せそうにありませんが貴方に出会えて良かった。娘と妻を頼みます。どうか、どうかお願いします。」
シナーはビリーを寝かせながら言葉を返す。
「もう十分に恩は返して貰ったよ、あの子に少しでもお前との思い出を作ってやれ」
ビリーは涙声で返事をする。
「はい、貴方は慈愛の神のようだ」
シナーは心の中で告げる。
いや、俺は罪人だよ。
そして役1ヶ月後ビリーは死んだ。享年39歳その遺体の顔は病に侵されたとは思えない程に安らかな表情であった。
その後マリアを首都にある学校に入学させて
毎月手紙を貰っていた。
シナーおじ様へ
お元気ですか?
私は元気いっぱいです。学校では友達がたくさんできました。毎日がとても楽しく時間が経つのが早く感じられます。そんな日々をプレゼントしてくれたおじ様には感謝の念が絶えません。
そうそうこの間お友達のクラエスが、……
こういった手紙があるからどんな激務にも耐えられるし、一応学校にも間者を送って逐一報告させている。
あの娘が幸せな人生を歩んでくれてるようで私を転移させてくれた女神様に毎日感謝しています。
そしてマリアは6年の月日を経て学校を卒業し、恋人を作り帰ってきた。
「おじ様お久しぶりです。」
そう言ってマリアは笑顔を見せた
「やぁマリアとは言っても毎年長い休みには訪ねて来れたじゃないか…で隣の彼が」
「はじめましてマリアさんの彼氏のディートリヒ・ハイマンです。」
そういって青年はきっちり私に頭を下げた。
「やぁ手紙にはちょくちょく書かれていたね君とは初めて会った気がしないなマリアお母さんと積もる話もあるだろうから私は君のボーイフレンドに少しお話しをするから」
「やだぁおじ様ったら」
そしてシナーはデュートリヒの肩をがっちりと組んで
「デュートリヒ君、君はマリアを生涯を賭けて幸せにする覚悟があるかね?」
デュートリヒはシナーに向き合い。
「私はマリアの笑顔を守りたい、愛しています。そして一生を賭けて彼女を、幸せにすることを誓います。」
シナーは、笑顔を浮かべ
「そうかではマリアちゃんをよろしくお願いします。」
そう言ってデュートリヒにシナーは頭を下げた。
その2年後
そして2人は成人して結婚式前夜
シナーはこっそりデュートリヒだけを呼び出して告げる。
「デュートリヒ君、君にだけは教えておくよ私は数日後には死ぬ、だから私は未来へ踏み出す君らの邪魔はしたくない今日の夜ここを発つ。」
デュートリは目を見開きながらも
「そんな一緒に暮らしましょう、マリアの人生に貴方の存在は欠かせない、マリアが成人するまで見守ってきたのは貴方だ!」
シナーは微笑む
「君は本当に良い奴だなぁマリアは男を見る目があるようだもう十分だ。」
その夜シナーはこっそり街を離れ教会の中で与えられた役目を果たして終わりを静かに待っていた。
「女神様、貴方が与えて下さったこの16年間は至上の喜びの日々でした。もう私の役目は終わりですどうぞ貴方様のお側に」
シナーは自身の命の終わりを実感していた。
光のカーテンから女神様が姿を現した。
そして優しく女神様はシナーを抱きしめながら子守唄のように囁きました。
「貴方は与えられた使命を全うしあの子に十分すぎるほどの愛を注ぎました、生前の罪は洗い流されました、苦しむのはもうお終い、もうおやすみなさい。」
「終わるのですね最上の賜物の日々が…」
「おじ様っ!」
「女神様幻聴でしょうか?マリアの…こ…えが」
幻聴ではなくマリアが夫となったデュートリヒと共にシナーの目の前に駆け寄る
「ねぇ?何故?置いていかないで?私の実父が逝ってしまってから8年間貴方がお父さんでしたお父さん貴方に親孝行をさせてください。」
シナー目頭に涙を溜めながら
「お父さん…と呼んでくれるのかい?この私を?」
「お父さん、お父さん…貴方が私をここまで導いて下さった、」
デュートリヒがマリアに語りかける
「マリア、君のお父さんは天使だ。君の事を影から見守り僕を励まし、そしてこんなにも君を立派なレディに。僕らでこの人に恩を返さなきゃ」
「そうよ、お父さん貴方とまだやり残した事が沢山あるのだから生きなきゃ」
「そうだなぁ…お前が言うなら…生きなきゃならないなぁ…」
そう言ってシナーは涙を流しながら静かに微笑んだ
「でも…もう…お迎えの時間だ…お前の事はいつまでも…天から見守っているよ」
そして目を瞑りシナーの女神から与えられた16年間に幕を降ろした。