9話 尊、3人で食卓を囲む
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※話の関係上おかしい部分があるため、以下のように変更致します。
「凄いです。果物の甘酸っぱい味の後に、優しい甘さが口に広がっていく。」
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「凄いです。果物の甘さの後に、別の甘さが口に広がっていく。」
酒場でささやかなお礼をした後、俺達は自分達の家に帰宅する。台所へ行ってアイテムボックスから、昼間に市場で買っておいた食材を取り出す。
「それじゃあ、晩御飯を作りますか。」
「尊様、少しご確認したいことがあるのですが・・・。」
メイプルが困った表情をしながら、俺に話しかけてくる。
「どうかしたか。もしかして、晩御飯にはまだ早かったか?。」
「いいえ。尊様は私達のご主人様です、主人が夕食を求めたならば時間は関係ありません。」
俺はメイプルが言いたいことが理解できずに困っていると、ミュートが助け舟を出してくれた。
「メイプルさんは、尊様が料理をすることに困っているんだと思いますよ。」
俺が”そうなの”とメイプルに聞くと、コクリと無言で頷いてたから。
「本来、炊事や掃除や洗濯の労働は奴隷である私達の役目です。尊様は私達のご主人様なのです、料理などの仕事は奴隷にまかせて部屋でくつろいでいてください。」
「でも今日は、皆で”イーストダンジョン”で頑張ってくれただろう。みんな疲れているんだから、家事は分担したほうがいいんじゃないか。ミュートだってそう思うだろ。」
「尊様の言う通り、疲れてはいますけど。でも、奴隷と主人が同じ扱いって間違っている気もするのですが・・。」
俺はメイプルに頭を下げて、1品だけ作らせてくださいとお願いする。メイプルは”わかりました、頭を上げて下さい”と了解を頂く。
「良かった、口直しのデザートだけも死守することができた。」
歓喜する俺を見ながら、メイプルとミュートは”デザート?”と首をかしげている。俺は3人分の”りんご”と”オレンジ”、たらいを持って井戸水で冷やしに向かった。井戸から水をくみ上げてたらいに入れる、川の水の方が冷たいのだが家の近くにはないため井戸水で我慢する。
「でも前世の家の台所の水と比べても、充分冷たいんだけどね。」
たらいの中に井戸水と果物を入れて、そのまま放置して家の中に入る。家の中ではメイプルとミュートが楽しそうに料理をしている、俺はメイプルに言われたので、テーブルの椅子に座って2人の様子を眺める。
「こういうのって、いいもんだな。」
会社に就職してから独身生活を続いていたので、台所に人が立っているのを眺めるのは新鮮に思える。しかも美人の女性と可愛い女性が、俺のために料理を作ってくれているのである。例え味が期待できなくても・・・。
「昔のテレビでも言っていたよな。例え美味しくなくても、”料理は愛〇。○○ve is OK”って。」
俺も準じよう、あの言葉に。そう思っていると、ミュートから”台所が空きましたよ”と声がする。
俺はメイプルに頼んで、残しておいて貰った食材を確認する。”小麦粉”、”卵”、”ミルク”、”砂糖”、材料を確認すると、下準備を始める。メイプルとミュートが珍しそうにこちらを見ているが気にしない。
①まず卵を卵黄と卵白に分けてから、卵白を捨てる。卵黄を木の器に入れて、砂糖を入れてスプーンで混ぜておく。そして、その中に小麦粉を入れてさらに混ぜ合わせる。
②次に、鍋の中にミルクを入れて人肌ぐらいに温める。木のお玉で温めた牛乳を①に少しずつ加えて、スプーンで混ぜていく。(この時、甘さが足りない時は砂糖を足しておく)
③お鍋の中に②を入れて、沸騰しないように火で温めながらスプーンでかき混ぜていく。何度か火から鍋を降ろして、余熱で混ぜながら②を固めていく。
④鍋の中の③が好みの硬さになれば、火から下ろして冷ましていく。
念のため味見をしてみると、多少卵の味が強いが目的のものが作れたので良しとしておく。
「よし。仕上げは食後にしよう。」
俺がそういっていると、メイプルとミュートが話しかけてきた。
「尊様。先ほどの動きは、何かの儀式なのでしょうか?。」
「メイプルさんの言う通りです、料理には見えませんでした。」
俺は2人に、料理とはどんなものか聞いてみる。
「材料を加工してお湯の中に入れ、食べ頃(柔らかくなるまで)になるまで待つだけです。」
「お肉は、火が通るまで焼いて塩を振るだけです。」
なるほど、俺はこの世界の料理が美味しくない理由を理解した。
食べ頃(柔らかく)になるまで鍋を放置なら、アクなんて取りませんよね。
お肉に火が取るまで焼くなら、作る人によっては固くなってますよね。(焼き加減や塩加減なんて考えてないよね)
「メイプル、ミュート。2人にとって”食事”って何て思っている?。」
「生きるために必要な、栄養の摂取でしょうか。」
「お腹が減った時に、ご飯を食べることです。」
俺は顔を覆って嘆いていた。
人生で”食べること”、”寝ること”、”お風呂に入る”ことは人生の限りある楽しみと信じていたのに。
そのうち、”お風呂に入る”ことは貴族か王族の贅沢とされ、”食べることは”ただの生命維持の作業にされている・・。そして非常に不思議なのだが、この台所には鍋があるが”フライパン”もしくは鉄板らしきものが見当たらない。怖いがどうやって肉を焼いたのか聞いてみる。
「「勿論、(肉を)棒に差して火の中にいれました。」」
メイプルとミュートが同じことを答えてくる、家の中でリアル”バーベキュー”でした。だとすると疑問が湧いてくる、俺は2人に疑問に思ったことを聞いてみた。
「メイプル、ミュート。”パン”と”お酒”は存在するよな、誰が作っているんだ。」
メイプルとミュートがこの世界の認識だと、”パン”と”お酒”が存在するのは可笑しい。なぜならどちらも菌による発酵が必要だからであり、普通の人の作業では得られるものではないからである。
「尊様。その2つは食べ物ではありますが、料理ではないのです。」
メイプルの言葉に、今度は俺が首をかしげる。
「えっとですね。”パン”と”ワイン”は神様からの贈り物で人の料理ではなく、スキル”料理”のみで作れる神様の奇跡なんです。」
どこかの宗教に出てくる感じがする、顔に出ていたのかミュートから”嘘だと思うなら、今日貰ったレシピを見てみてください”と言ってくる。
「わかった。でも今は料理を食べよう、冷めたら勿体ないしね。」
俺が席に座ると、メイプルとミュートが”野菜スープ”と”焼いた肉”を運んで来てくれる。心の中で”料理は愛〇。○○ve is OK”と何度も唱える。覚悟を決めて食べようとすると、メイプルとミュートが席に座らずに、立ちながら待機していた。
「どうした、2人共。一緒に食べないのか?」
「尊様。先ほども申しましたが、私達を奴隷です。」
「はい。私達は、尊様の召し上がった後に料理残りを頂きます。」
メイプルとミュートがそう言ってくるので、俺は”主人らしく”命令してみた。
「メイプル、ミュート、2人に命令する。一緒に食卓を囲もう。」
メイプルは、真剣な顔をして俺に忠告してくる。
「尊様。あなた様が私達奴隷に対しても、お心を砕いてくださるのは感謝しております。ですが、それでは示しがつきません。」
「メイプルさんの言う通りです。尊様がお優しいのは分かっていますが、それだと尊様が他の方から”奴隷と同等と”侮られてしまいます。」
俺はため息を付きながら、2人に対して自分の気持ちを話す。
「メイプル、ミュート、そんなくだらない常識なんて捨ててくれ。
俺にとって食事は楽しみなんだ、独りで飯を食べたって美味しくないだろ?」
「尊様、美味しくないとはどう意味でしょうか。」
メイプルが訪ねてくるので、俺はそれに応える。
「美味しくないって言うのは、食事をしても満足しないってことだ。」
「でも食事っていうのは、お腹が減っているのは満たすことですよね。」
ミュートが続いて反論してくるので、俺ははっきりと伝える”全然違う”と。
「それを2人に知ってほしい。だから騙されたと思って一緒に食卓を囲み、俺が作った”デザート”も食べてほしい。」
「わかりました、尊様。そうまで仰って頂いて、言うことを聞かないのは奴隷ではありません。お言葉に甘えさせて頂きます。」
「尊様、ありがとうございます。私も一緒にご飯を頂きます。」
メイプルとミュートが料理を持ってきて、俺と同じ食卓を囲む。料理の味はお世辞にも美味しくはなかった、けど味気なくはなかった。
食事を食べ終わったのを確認すると、俺はたらいで冷やしてある”りんご”と”オレンジ”を取ってくる。
①りんごを皮つきのままオレンジは外の厚い皮を向いて、一口サイズに切っていく器に盛り付ける。
②作ったカスタードクリームを半分、器に移してスプーンを添える。
残りのカスタードクリームは明日の分として、アイテムボックスに入れておく。
「お待ちどうさま。りんごとオレンジの上に、黄色いカスタードクリームをのせて食べてみてくれ。」
俺は2人の前に果物を盛った器とカスタードクリームが入った器を置いていく。
「尊様。これが、”デザート”なのですか。」
「凄いです、とっても綺麗ですね。」
2人が驚いている声を聞きながら、自分の分を置いて席に座る。
「この料理の名前が”デザート”じゃなくて、食後に食べる甘い物の総称を”デザート”って呼ぶんだ。」
俺は早速スプーンでカスタードクリームを果物にかけて、口の中に運ぶ。”あ~、甘い物がしみるわ~”と言いながら、カスタードクリームを作った過去の自分に感謝する。子供の頃は毎月の小遣いなるものがないので、こうして家の食材で簡単なお菓子を作っていた。まさか、転生しても役に立つとは思ってなかったが。
俺の食べ方を見て、真似をしながらデザートを口に運ぶメイプルとミュート。
「~~~~。しょごい、幸せの味」
「凄いです。果物の甘さの後に、別の甘さが口に広がっていく。」
2人の獣耳が忙しく動いている、どうやらメイプルとミュートの口に合ったようだ。(メイプルの幼児語は幻聴ってことにしておく)
「どうだ2人共。”食事が美味しい”って幸せな気持ち、少しは分かってくれたか。」
メイプルが怖いくらいに首を上下に振って、ミュートが返事をせずに黙々とデザートを食べている。
俺は2人の食べている姿を見ながら感謝していた、”料理を作ってくれた喜び”と”一緒に食卓を囲んでくれた楽しさ”そして”幸せそうな顔で癒してくれた2人の笑顔”に対して。
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