10話 尊、メイプルと言い争う
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3人共デザートを食べ終わり、俺は自分の器とスプーンを台所へ持っていく。そして当たり前のことに気が付く、そう前世のように蛇口から水が出る水道などないのである。
「尊様、器などの洗い物は私達が行います。ですから、ゆっくりなさっていてください。」
メイプルが食事前と同じように、声をかけてくる。メイプルの心遣いはありがたいが、前世のような便利な設備がない以上協力してやったほうが早く終わるだろう。俺はミュートに、この世界で洗い物をどうしているかを聞いてみる。
「尊様。台所の横におおきな水瓶があるのは、わかりますか。」
俺は台所の横に目を向けてみると、木の蓋がしてある腰まである大きな瓶に気が付く。中を開けてみると、空っぽであった。
「普通は木のバケツで井戸から水を汲んで、朝一に水瓶が一杯になるまで何度も運ぶんです。そして、夜に空っぽにして蓋を閉めておくんです。」
「水瓶をショルダーバッグに入れて井戸まで運び、水を入れた後ショルダーバッグで台所に運べいいのでわ。」
「それは無理ですよ尊様。どうやって水瓶を持ち上げてショルダーバッグに入れるんですか。空っぽでも結構重いんですよ。」
ミュートが苦笑いして答えてくれる。俺が”じゃあ・・”と言い始めたら、メイプルからダメ出しが入る。
「”尊様がバケツで運ぶ”という選択肢は許容出来ません。ただでさえ大変なのに、今は夜で真っ暗なんです。慣れていない尊様がするなら・・・、失礼申しますが怪我をする可能性が高いですから。
ですから、私達にお任せください。でもありがとうございました、私達のことを案じてくださり。」
メイプルが俺に対して頭を下げてくる。俺は”何か出来ないのか”と頭を回す、バケツで水を運ばずに水瓶に水を満たす方法。そう考えていると、一つ上手くいくのではという仮説が生まれる。
「メイプル。1つ器を貸してくれないか。」
メイプルは疑問に思いながら、使っていない器を1つ取り出して俺に渡してくる。俺は地面に器を置いて手で触りながら念じる、”アイテムボックス”と。すると地面にあった器が消えてしまう、俺はすぐにアイテムボックスの画面を確認すると枠の中に器のアイコンが入っていた。
「上手く行ってくれよ。」
そう念じながら地面に手で触る、反対の手でアイテムボックスの場面を操作して器を取り出す。すると手が触れているあたりに、問題なく器が現われた。不思議そうに俺のしていることを眺めていた2人だが、ミュートが質問をしてくる。
「尊様。何をされているんですか?。」
「メイプル、ミュート。水運びは楽が出来そうだぞ。」
「「はい?」」
2人は疑問に思っているので、実際にやって見せることにした。俺は先ほどの要領で水瓶をアイテムボックスに入れて、メイプルとミュートを連れて井戸に行き井戸の近くに水瓶を出すと2人が驚く。
「じゃあ、ここに必要な分だけ水を入れてくれ。その後アイテムボックスに収納して台所まで運んでしまおう。」
「わっ、わかりました。ではミュートさん、お手伝いをお願いできますか。」
「はい、わかりました。」
2人はバケツを2つ準備して、交互に水を入れていく。時間にして10分ぐらいで入れ終わったのか、メイプルが”お願いしますと”伝えてくる。
「これだけでいいのか?。全体の1/5ぐらいしか入ってないけど。」
「はい、器を洗うだけなら十分です。それに寝るときに水瓶を空っぽにしないと水が腐りますから。」
俺は”なるほど”と頷くと。水瓶をアイテムボックスに収納して台所まで持って行き、アイテムボックスから台所の元の位置に水瓶を設置する。
「尊様、ありがとうございました。最低でも、1時間は掛かる仕事を短縮してくださり。」
「本当にありがとうございました。尊様のお陰で助かりました。」
俺は2人に、仕事の分担と教育を再度提案してみる。これは会社に入ってから思ったことだが、風邪などの病気で1人休むだけで仕事が上手く回らず滞ることがよくある。それを回避するためにも、出来る限り自分以外の仕事を覚え出来るようになっておく必要がる。
「メイプルが、俺を主人として立ててくれるのは嬉しいと思っている。だが誰かが倒れた場合1人当たりの仕事が増えてしまう、しかも倒れた者の看病を考えると仕事の増加は否めない。
そうならないためにも、出来る限り仕事の分担と自分以外の仕事が出来るようにしておく必要があると思う。」
「尊様のお考えは、とてもありがたいです。ですがそれだと外に示しがつきません、私は尊様が私の主人であることに感謝しています。仮に私が無能と言われるのは耐えられます、ですが主人である尊様が貶されることは許容できません。」
「メイプルさんの言う通りです。尊様の優しさは嬉しいです、でも私も尊様が馬鹿にされることは我慢出来ません。」
俺の提案に、2人から予想外の強烈な反対が帰ってくる。このまま両者が口論しても2人から折れてくれる感じるがないので”意見を通すのではなく落し所を見つけること”にする。
「2人の意見は分かった。では互いの仕事を教える、そして合理的な方を採用するというのはどうだ。」
「尊様、合理的とはどういう意味でしょうか。」
メイプルが知らない言葉に興味を持ったので、このままお互いに仕事を教える部分は納得したことにして話を進める。
「合理的というのは、簡単に言うなら”目的を達成するために、最も労力や時間を使わずに済む方法”と思ってくれ。
さっきの水瓶の話になるが、メイプルは”1時間は掛かる仕事を短縮してくださり”と言ったよな。」
メイプルが無言で頷く。俺はさらに言葉を続ける。
「そして俺自身は全く苦労していない、つまり労力としてはさほど掛かっていないわけだ。」
ミュートの方を見てみると、”その通りです。井戸から台所までバケツを持ち運ばずに、井戸から水を汲んで水瓶に入れただけですから。”と同意してくれる。
「俺の言いたいことは、”水をバケツで運ぶ”より”水瓶を運んで水を入れる”方が合理的だから。これからは、”水瓶を運んで水を入れる”方を採用しよういうことだ。」
するとメイプルが先ほど同じように、言葉を挟んでくる。
「先ほども申しましたが、その方法だと貶されることに繋がります。それが続けば、ゆくゆくは尊様自身も不快に思われることに繋がってしまいます。」
「メイプルは、俺が不快になると心配してくれたが。仮にだが水汲みで時間が掛かった結果、朝ご飯が遅れれば普通主人は不快に思うのではないか。」
メイプルが”そっ、それは・・”と言い淀む。
「卑怯な言い方になってしまい、すまないと思っている。
だがメイプルが1人で抱え込んで無理をした結果病気や怪我によって動けなくなった場合、その負担は全てミュートに集まってしまう。そしてそれが原因でミュートも動けなくなれば、今度は俺に全ての負担が集まってくる。」
メイプルが耳を”しゅん”倒れたまま、下を向いている。これ以上は自信の喪失になるので”鞭”から”飴”の方向に変える。
「だが、メイプルが言うように”奴隷”と”主人”が同じようにしていれば、世間体が悪いのも言う通りだ。なので俺が手伝うのは家の中のみとして、外では基本命令することにしたい。」
メイプルを見ながら”これで納得してくれないか”とお願いする。メイプルは”わかりました”と言ってくれた。俺は念のためにもう少し”飴”を追加しておく。
「それともう一つお願いがある。俺にとって”食事は人生の楽しみ”であるため、メイプルとミュートには
スキル”料理”のLv上げと”お菓子”も作れるようになってもらうぞ。」
ミュートが”お菓子って何ですか”と聞いてくるので、昨日のデザートみたいな奴だと答える。
「私達にも”デザート”の作り方を教えてくださるのですか。」
メイプルが真面目な顔で、俺の顔の近くまで近寄ってくる。俺は気恥ずかしを感じながらメイプルの目を見てみると、星らしきものが入っているように見える(幻覚だよな・・・)
「も、勿論だ。俺だって2人に”美味しい食事を作ってほしい”と思っているからな。」
「尊様のお気持ち、しかと刻み付けました。外とだけと言わず、中でも命令されるような存在になってみせます。」
「おっ、おう。メイプルだけじゃなく、ミュートも一緒だぞ。」
メイプルは俺から少し離れて、”かしこまりました”と礼をする。メイプルの耳が忙しく動いている所を見ると、機嫌は直ったみたいだ。
そこへミュートが話しかけてくる。
「尊様って。優しそうな人だと思っていましたけど、メイプルさん以上に我儘を押し通す人なんですね。」
「そんなつもりは・・・、いやミュートの言う通りだな。どうだ、自分の主人には嫌気はさしたか?。」
俺は恐る恐る尋ねてみるが、笑顔で首を横に振りながら話てくる。
「いいえ。尊様が本当に素敵なご主人様で良かったって、再確認できました。でも・・・、偶には私達の言うことも聞いて下さいね。」
俺はミュートの言葉に”今後は気をつけます”と答える。
メイプルとミュートが仲良く、3人分の器とスプーンを洗っている。その姿を見ながら心の中で呟く”2人共俺には勿体なくらいの女性だよ”、俺は偶然か必然なのかは知らないが、レイチェルにこの世界に転生してくれたこと感謝していた。
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