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そしてオタクは夢から覚めた。  作者: 山波アヤノ
第1章 いつか夢見た物語
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第2話 夢見る彼女は狂っている【1】

先に言っておきます。

変態系のワードが飛び出て来ますが、これはエロ小説ではないのであしからず。

 白の車体にドアの部分が青い、まだ導入されて間もない新しめの地下鉄がホームに滑り込んでくる。

 俺の家から最寄りの駅はこの地下鉄の起点だ。

 ドアが開き、一両めの真ん中あたりに乗り込む。発車のアナウンスの直後に与菅が走って乗り込んできた。

「駆け込み乗車はおやめくださーい」

「わりぃな。けど、お前さんも何回かはやったことあっただろ?」

「あかった」

「どっちだよ」

 笑いながら俺の隣に座った。列車は動き出した。

「ところで、見つかったのか?あの夢の少女は」

「ああ。聞いて驚くなよ。その少女の正体はな、あの天才ラノベ作家の夢未真那だったんだよ!」

「……ほう」

 あれ、反応薄いな。

「……なぜそこまでフラットなんだ?」

「いや、ついにそのまで頭がいっちゃったかって思っただけだ。ご愁傷さん」

「いやいや、マジだから!大マジだから!」

「嘘つけ!なんでそんな大物が、その辺にいそうなキモオタの夢に出てくるんだよ!」

 気がつけば俺らは、地下鉄の中で論争していた。

「そんなん知るかよ!」

「証拠を見せろ証拠を!」

「ごほん」

「……」

「……」

 前の席に座っているオヤジに咳払いをされ、俺らは冷静を取り戻した。

「そもそも、そんな初対面の人をカメラで撮れるわけがないだろ」

「……せやな」

 俺らの論争は、ものの三十秒も経たずに終わった。


「そんで、今日はどうすんだ?」

 オタク雑談をしながら教室に入ると、突然与菅が別の話題を持ってきた。

「もう探しには行かんぞ」

「あー、そうじゃなくて、そいつに会いに行くのか?その、舞浜夢奈だっけ?」

「ああ、昼休みにな」

「まあ、頑張れ」

「なんじゃそりゃ」

 与菅は、俺に意味深な応援をしてから自分の席に戻った。


  * * *


 とある空き教室で、俺は彼女––––舞浜夢奈を、焼きそばパンを食いながら待っていた。

 また焼きそばパンかよって感想は聞かないことにする。

『ところで、この教室って何に使われてるんだろう』とか、『これって教室デートだよな?』とか、いろいろな考えを巡らせている間に、舞浜はやってきた。

「ごめん、待った?」

「いや、俺も今来たばっかりだし」

 にしても、このやり取りってテンプレだよな。うっかり口から出てしまったよ。

「……ってあれ?」

「どうしたの?」

「……お前、本当に舞浜か?」

「……ん?」

 よく見たら、目の前にいたのは、ロングに伸ばした髪型でメガネをかけていた。昨日とは別人だ。

「なんか変だった?」

「いや、その、変って言うか……個人的には昨日の方が可愛いって思う……って俺は何を言ってるんだ!」

 決して今が可愛くないのではない。だが、個人的及びオタクの琴線に触れたのは昨日の方だったわけで。

「……ふふ」

 それを聞いて彼女は笑みを浮かべた。

 あ〜、危ねぇ。なんとか好感度は上がったっぽい。

 女子と話すと頭が真っ白になる癖、どうにかしないとな。言っておくが美月はまた別だからな。あいつは、あくまで友達だ。


「んで、今までなんで黙ってたんだ?若干の恐怖を感じたわ」

「それは、なんかそういう展開にした方が、オタク的に面白いのかなって思ったから」

「遊ばれてたのかよ、俺」

「うん、遊んでた」

 ふざけんなって言葉が出たが、舞浜の屈託のない笑顔を見たらどうでもよくなった。天使すぎるだろ、こいつ。

 もう、絶対女子の笑顔に惑わされないって決めたはずなんだけどな。中学のあの日から。

「ところで舞浜」

「夢奈でいいよ。その苗字、響きが良くないし。前の苗字の方が好き」

「……舞浜に住んでいる人に謝罪しろ。あと、前の苗字はなんだったんだ?」

「忘れた」

「マジかよ。まあいいや。んで、ゆ、夢奈?」

 あかん、初対面の女子を名前で呼ぶとか、俺史上の大事件だろ。緊張してキモくなったわ。

「なに?」

「なんで呼び出したんだ?」

 勘違いしないでほしい。ここに呼び出したのは俺ではなく、こいつだ。

「……あれ、なんでだっけ?」

「嘘だろおい!」

「……」

 しばらく沈黙が続いた後に、やっと思い出したのか夢奈が口を開く。

「悠誠……だよね?」

「ああ」

「悠誠ってオタク?」

「何故唐突に……。まあ、そうだが」

「じゃあ、ラッキースケベに興味ある?」

「……は?」

 なんでその質問をしたのか、疑問でならない。

「んまあ、興味ないって言ったら嘘になるかな」

 思春期の男子に聞くなよって思ったが、とりあえず答えた。

 ……このあと、まさかの展開になるとは気がつかずに。

「悠誠って、エロ本買ったりする?」

「なんの質問だよ!買わねーよ!」

 これってなんの質問ですか?

「ふぅ、よかった。それじゃ、悠誠」

「なんだよ?」

 俺は食い終わった焼きそばパンのゴミを袋に入れ、メロンパンを手にとりながら聞いた。

 すると、三秒くらい経った後に、とんでもない発言をした。


「私とエッチしてください!」


「…………………………はあぁぁぁあ?」


 一瞬、時が止まった。息が止まり心臓の機能が停止したように思えた。手に持ったいたメロンパンを床に落とした。ちなみに未開封だ。

「……」

「あれ?聞こえませんでした?私とエ……」

「聞こえていたから敢えて聞かなかったことにしたんだよ!マジかよ!なんだよその告白!」

「オタクって、みんなこういうのに萌えるんじゃないの?」

「お前、オタクの偏見ありすぎだろ!舐めんなよ!」

「だって、サイトには『オタクはエロシチュに萌える』って書いてあったのに」

「どこのサイトだ!てかお前もなんて情報を間に受けているんだ!」

 疲れた。まさか、自分がこんな展開になるとは夢にも思わなかった。いや、夢では一度見たけど。

「どうして犯してくれないんですか!」

「十八禁展開ダメ!ゼッタイ!」


 今日の昼に感じたことをまとめよう。


 ––––ファンタジーの女王と呼ばれた舞浜夢奈は、狂ったまでに変態だ。


 * * *


 夜の十一時。俺はベッドで横になったものの、安心して寝られずにいた。

 昼の一件があり、夢でどんなことになるのか怖いのだ。

 確かに、一度は憧れた展開だ。突然美女が自分と、その、……をねだってくるってのは。

 だが、リアルは違った。あそこまでくるとマジで怖い。まあ、すげー可愛かったし、顔のパーツのバランス神だし、今日はメガネっ娘属性だったし。

 その容姿でねだられたら、少しは動揺する。しかし、俺も大人だ。そこは踏みとどまることができる。


 それがリアルだからよかった。では、際限がない夢の中なら?


 ……って考えたら眠れないのだ。


 ––––しょうがない。音楽でも聞いて気を紛らせよう。その後にじっくり考えよう。

 そう思い、与菅が所属するバンドの曲をスマホで流した。


 そして、その二十分後に夢の世界へと誘われた。


 = = =


「なんで寝たんだ俺のバカっ!」

 やらかした。しかも、夢の中で意識があるときは大体あいつの仕業だ。

『夢渡り』と呼ばれるそれは、他人の夢を見ることができるらしい。

 夢奈本人は自由に他人の夢で遊ぶことができ、被害(?)を受ける側は夢で自分を自由に操作できる。無論、他人の夢に遊びに行くことはできない。

 メカニズムについては、美月に解明してもらっている最中だ。


 さて、とりあえず今の状況を説明すると、目の前には黒板があり、後ろには机が山積みになっている。

 左には窓、右にはドアと掲示板と小さな黒板。

 すなわち、昼と同じ空き教室だ。

 この場面から、次は誰が来て何を言うかは容易に想像ができてしまう。

「ごめん、待った?」

「……」

 昼と全く同じ状況だ。同じことをしてもつまらないから、とりあえず寝たふりをした。

「ここ、夢の中だから眠れないよ」

 しかし効果はなかったようだ。しょうがなく顔を上げると、そこにはポニーテールがいた。

「お前、学校だけなんだな。あのロング」

「うん、とりあえずはね」

「なるほど……。で、なぜ俺の夢に入り込んで来たのか、二百文字以内で論ぜよ」

「それは単純に、悠誠とセ……」

「起きるか」

「え?あ、ちょっと!」

 こうして、強制的に現実に意識を戻した。


 = = =


 あの後にもう一度寝たら、与菅が叩いていたドラムが全てダンボールに変わっていたって夢を見て起きた。


 とりあえず、最初に見た夢から導き出した結論を呟く。

「あのファンタジー作家は、もう救いようがない作家病を患っている」

 そして、あれをいかに更生するかも問題となった。

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