第4話 青春長者になりたい(願望)【1】
「悠誠ー、なぜ今朝家にいなかったんだー」
学校に着いてすぐ与菅から発された言葉に、俺は動揺を隠しきれなかった。
「日直だよ」
「あれ、今日の日直って啓介じゃなかったっけ?」
「そう、その日直はあくまで仮に過ぎない。真の日直は––––」
「昨日、舞浜さんの家に泊まったって本当なのか?」
「ゴホッゴホッ」
話の途中に割り込んできた即死級カウンターにむせてしまった。
––––もちろん、与菅の方向に。
「ちょ、何しとんねん!」
「与菅、テメェ……」
「いやいや、まじめに俺じゃねーよ!」
「んじゃあ、他に誰の声だよ!……あ、もしや」
「ああ、もしやだな」
俺らの意見が一致した。間違いない……。
「おい、啓介。お前だろ。掃除用具入れから出てこい」
「日直どうしたんだー」
「ははは、俺のモノマネを見破るとは大したものだ」
「いや、だから日直は?」
「聞かないでくれ、時間に間に合わなかったんだ」
さて、ここで紹介しよう。
こいつの名前は西田啓介。俺らのクラスメイトにして、俺らと同じ中学を卒業した腐れ縁。
小学四年生の頃から野球をやっているらしく、高校でも野球部に入部して活躍している。
ややぽっちゃり気味の坊主と言ったら想像しやすいだろう。
「というか、知らぬうちにまたモノマネが上手くなったな。というか、よく俺のモノマネをやろうって思ったな」
「与菅の真似なんて簡単だろ」
「うわー、ドヤ顔腹立つわー」
そこまで話したところで、教室のスピーカーからピンポンパンポーンという有名なお知らせ音が流れてきた。
『生徒の呼び出しをします。二年E組、西田くん。中村先生がお呼びです。至急、職員室まで来てください』
「……終わった」
「どんまい、頑張ってこい」
「俺のモノマネをした罰だ。存分に受けてこい」
「みんな冷たい……」
トボトボと職員室へ向かって行く啓介を見送っていたら、しばらくして夢奈が入れ違いでやってきた。
「お、お前の彼女が来たぞ」
「啓介、お前は早く職員室へ行け」
「そんで夢奈。何の用だ」
「相談があってきた」
どうやら、朝はおとなしめに無口キャラでいくらしい。
「なんだ?」
俺は言い終えてお茶を口に含んだ。
「デートして」
「ぶふぅぅぅ!」
それをそのまま与菅にかけた。
「おい、きたねーよ」
与菅が俺に不満をぶつけたが、気にせずに続ける。
「デ、デデデ、デートってお前正気か?あのデートだぞ?ランデヴーだぞ?」
「お前の方こそ頭大丈夫か?」
そう言われたら言い返すよしもない。落ち着いて、冷静に対処することにした。
「夢奈、デートの意味を理解して言っているのか?」
「もちろん」
「だよなチクショー!」
そこは、なんかボケて「ごめん、わからなかった」なんて言って欲しかった。
いや、この俺の願望は男としてどうなのかって思うかもしれないが、仕方がない。俺も今日を必死に生きているのだ。
「んで、なんでまた突然デートなんだ?」
「小説のネタ収集」
「他に女子友とかいないのか?」
すると突然、キリッとした笑顔でこう言った。
「友達がいたら小説家になっていない!」
「……悲しくないのか?」
「……それなりに悲しい」
そして突然、(´・ω・`)って悲しい顔をしてそう言った。
流石にこれを放置するのは男としてどうかと思ったから、一つの案を提案した。
「お前の小説は夢が題材だけど、デ、デートってことは新作でも考えているのか?」
「……図星」
「んで、ジャンルは群像劇か?」
「なんでわかったの!?」
「男の勘かな?」
「だったら、みんなで行こうぜ!」
そう無邪気に言ってきたのは与菅だった。
「いいけど……みんなって誰だよ」
「まあ、俺らプラスあの一人だな」
「ああ、あいつか」
「そう、そのあいつであってる」
俺らがテレパシーで会話している中、夢奈だけポカンと俺らの会話を眺めていた。
「おーい」
「あいつって誰?」
「美しい月だな」
「あー、なるほどね」
通じた。これでよし。
あれ、夢奈の性格が普通の女子高生に戻ってね?いや、まあ、いいけど。
六限目が終わり、俺は約束通り、玄関で待機していた。
「わりぃ、待った?」
「いや、俺も今来たばっかだ」
今、与菅が来たのだが、他に人が見当たらなかった。
「あとの女子若干二名は?」
「あー、先に行くってよ。ほれ」
そう言って与菅はスマホの画面を見せて来た。トーク画面が写っていて、
美月『先行く』
与菅『りょ』
とのやりとりがされてあった。
「お前ら、倦怠期のカップルかよ」
「付き合ってねーし」
「ま、どっちでもいいや。行くぞ」
「どっちでもよくねーよ」
向かうところは昼休みに聞いた。
おそらく、札幌市民ならば誰もが知ってると思う。
それは、学校から地下鉄で二駅進んだところにある。
大通りにある大きなアーケード商店街、狸小路だ。
ここは、アパレル関係の店はもちろん、ゲーセンから業務用スーパー、娯楽施設が近所に何店舗もあって、さらにはドン・○ホーテまである。
基本、なんでもございの便利なところだ。
俺らは、あくまで夢奈の取材のために行くのだ。
まあ、ラブコメのような甘い展開を望んでいないわけではないが。