第3話 お泊まりイベントってこんなもんよ【3】
気がつけば日付が変わっていて今は午前二時。
小さなテーブルを挟んで夢奈と対峙している。
これから望遠鏡を担いでどうのこうのとかはない。
「ねえ……」
いたずらにうるさい空間に、この企画の考案者(夢奈以外に誰もいないんだけどな)が口を開いた。
「なんで、私なんかに構ってくれるの?」
もう、この性格が素のものなのかわからない。果たして、どちらが素なのだろうか。
そんなことはどうでもいいな。状況を整理しよう。なぜ、こんなことになったのか。
* * *
深夜何時だったかは忘れたのだが、夢奈と夜通しゲームの会が始まった。最初はN社の、大勢の人気キャラで乱闘できるゲーム(通称:スマ○ラ)をやった。
早速据え置き型ゲーム機の電源を入れ、起動させる。
タイトルでボタンを押し、モード選択で大乱闘を選択。
操作キャラは、俺がピンクの丸いやつで、夢奈が舌が長い緑の恐竜だ。
「ストック三つでいいな?」
「もちろんよ」
ちなみに、このときの夢奈はドSキャラだった。
ステージは、ギミックが何もないコースにした。完全な実力勝負と言ったところだ。
自慢じゃないが、俺はこのゲームの世界対戦でいい感じの成績を残しているのだ。素人に負けるわけがない。
……そう思っていたんだ。戦うまでは。
最初はほぼ互角だった。
「なかなかやるじゃねーか」
「そっちこそ」
だが、変化が訪れたのは俺が先に相手の残機を一つ減らしてからだった。
突然、覚醒した(?)夢奈があっという間に俺の残機を二つ減らしたのだった。
「嘘だろぉ!?」
「負けたら私の前に跪きなさい?」
「調子に乗るんじゃねー!!」
本気で跪きたくなかったがために、俺はガチモードで戦うことにした。
結果はギリギリで俺の勝ち。本当に危なかった。
「……っ」
「あのー、怒ってる?」
「……もう一回」
夢奈はボソッと呟くように言った。
「はい?」
「もう一回!」
「わかったから大声出すな」
ゲームを変えて、今度は赤い帽子とオーバーオールがトレードマークのおじさんたちが活躍するレースゲームをすることになった。
正直なところ、夢奈は弱かった。四レースやったのだが、俺の圧勝。
「ま、まだまだ……これからよ……」
「あれ、中二病キャラ混じってない?」
第三ラウンドはポケ○トモンスターでバトルとなった。
こっちのゲームは夢奈が強かった。
ゴースト系モンスター使いの夢奈と、格闘系モンスター使いの俺で、お互い効果がないのだが、向こうは全モンスターに主タイプ以外のタイプの技を覚えさせていたため、とても混戦を極めた。
俺?俺は二体くらい格闘オンリーだったよ?
よって、その二体は計三ターンで片付けられた。
「嘘やろ!?……いよいよ、あの計画を出す時が来たか……」
「どんな計画?」
「すいません、言ってみたかっただけです」
たまに、こんな感じでだべりながらやっていたら、気がつけば俺のモンスターがもう二体瀕死だった。
「のぉぉぉぉー!!」
「オホホホ!ワタクシの手にかかればこんなモンですわ」
なんだろう。今、無性に腹が立った。ああ畜生、やってやろうじゃねーか。
なんて言ってたら、全滅した。
「こう見えて、ワタクシ、このゲームの国内大会で準優勝したことありますのよ?」
「アア、スゴイデスネ、オジョウサマ」
先に言えや、畜生。
「まあ、二勝一敗で俺の勝ちだからな。……はぁ、乱闘とレースで貯金しておいてよかった……」
「次こそ……次こそは勝つ!」
「まあ、頑張ってくれよ」
「次も一緒にやってくれるよね?」
「え、次?やるの?」
「(コクリ)」
「と言っても……ね………お、おう。わかった。わかったから、そんなにつねらないでくれ!」
「約束…だよ……?」
疲れた……。キャラが変わりやすいとかいう次元じゃねーよ、こいつ。意図的に変えているだろ……。
「ねぇ……」
「ん?どした?」
「迷惑だった?」
「何がだ?」
「このキャラ。やっぱり迷惑だった?」
どうやら、俺の顔に疲れが浮かんでいたのだろう。
ぶっちゃけると、俺は『女子』という存在が嫌いだ。
何を考えているのかわからなくて、「もしかしたらこいつもメンヘラなんじゃないのか?」と思い始める始末だ。そう思い始めたのは中学生からだ。
だから、女子の涙にはめっぽう強い方だ。動じない自信がある。
––––そう信じていた。少し前まで。
いざ、目の前に気を落としている人がいるとなると、動じないなんてことはない。無理だ。
相手を完全に信じているわけではない。だが、何故だか嫌な気分になった。
だから俺は、夢奈に言葉をかけた。
「迷惑だなんてとんでもない。疲れるけど、楽しいよ。それに、これに慣れて、一緒に楽しむことが、夢奈と仲良くなることだと俺は思う」
「いいの?」
「ああ、もちろん」
特に時間は経っていないのだが、夢奈の笑顔を久しぶりにみたという感覚だった。
「じゃあ、最後に質問させて?」
「なんだ?」
「なんで、私なんかに構ってくれるの?」
「そうだなー……」
少し考えてから、導き出された一つの結論を言う。
「似ているんだよ。既に死んだ俺の幼馴染にさ。だから、放っておかないのかもね」
このときの夢奈は、どうリアクションしたらいいのかわからない、困った顔をしていた。
その顔が逆に少し可笑しくて、俺は笑ってしまった。