プロローグ
先に断言しておこう。今は春だ。そして俺が見ているのは打ち上げ花火、つまり夏だ。
そう、ここは夢の中だ。
夜の帳がカラフルに染まる。弾けては消える様子がどこか切なくもあり、綺麗でもある。ずっと見ていられる。
–––これが夢じゃなければ。
俺は過去にこの夢と全く同じ内容のものを五回見ている。これで六回目だ。飽きてくる。
今は屋台が並んでいる通りを歩いている。あちこちから来る匂いが混ざって、何とも言い難いあの祭りの屋台独特のそれは、俺の食欲をそそる。だが、この夢では何も買わない。
そもそも、手ぶらだから何も買えないのだ。
あと三分くらいしたら、俺の親友たちがやってくる。「おせーぞ、お前ら」とか言いながら、河川敷に腰を下ろして花火を見る。恋愛トークをする。
「あのー……」
俺の好きな人を親友に暴露され、奴らが笑う。仕返しに、俺は親友の恥ずかしい秘密を暴露する。そいつは顔を赤くして、奴らはまた笑う。
「すいません……」
なんともリア充的な夢だろう。爆ぜろ、俺。
「違っていたらごめんなさい。北園高校二年の宮津悠誠くんですよね?」
俺は自分の名前を呼ばれて驚く。
––––てか、こんな展開なかったぞ?
顔を確認するために振り返った。
「あ、やっぱり悠誠だ!久しぶり!元気にしてた?」
俺は呆然とした。突然、過去の五回とは内容が変わったことは元より、なによりも驚いた、と言うよりは不思議に感じたことがある。
「––––誰だあんた?」
俺の名前も、通っている学校の名前も学年も、全て向こうの言う通りだから、俺のことを呼んでいないってことはない。なにせ、同級生に俺と同じ名前の人はいない。
––––だけど俺は、そいつのことを何一つ知らない。紛うことなき赤の他人なはずだ。
なぜ俺のことを知っている?なぜこいつは突然俺に話しかけてきた?夢って知り合いしか出てこないだろ普通は?なぜ、なぜ––––
そこまでだった。夢というのは、タチが悪いもので、このタイミングで目が覚めてしまった。
目覚める前までも、花火はまだ輝いては消えている。まるで、夢の如く、青春の日々の如く––––