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16 ずっと心に秘めていた答え(3)

 ノエルに付き添われて自室に辿り着いたセレスがドアを開けると、何らかの連絡を受けたのだろうか、室内では既にレアが待機していた。


 不安げな表情で自分を見つめる末の妹に、セレスは気力を振り絞って「大丈夫」という意味を込めて笑いかけ、そして、この部屋にきた目的を達成すべく、机に向かった。


(確かここに……)


 魔力を封印する引き出しの中から、結界符の束を取り出し、ぱらぱらとめくって中身を確かめる。そして。


(あった!)


 その中から目的の品を見つけ出し、取り出した。


 それは魔力によって生じた痛み――いわゆる「呪い」を軽減させる効果を持つものだ。

 ……残念ながら患部を治癒するような抜本的な力はない。それでも、この痛みは紛うことなく魔力によるものだから、多少は効くだろう。


 ただし。

 所詮は人間の作る結界符だ。完璧ではない。しかも耐性ができるタイプの魔法であるため、少しずつ効き目は薄れていくことだろう。

 セレスは、それを慎重に手首に貼り付ける。その間にも、


「大丈夫なのか?」


と心配そうに尋ねてくるノエルに、セレスはおどけたように、こう答えた。


「手首がもげそうです」


 決して全ての痛みが取れているわけではなく、ズキズキとした疼痛を間断なく感じ、じっとりと額に汗が滲んでいる。

 しかしノエルが一時的にかけてくれた魔法と、この結界符の相乗効果によって、我慢できないほどの痛みではなくなっている。だから、これ以上彼らを心配させたくはなかった。


 セレスの表情を見たノエルは軽く笑った。


「それだけ軽口が叩けるなら、大丈夫か」


 恐らく彼は、それがセレスのやせ我慢であることに気づいてはいたのだろう。だが、彼はセレスの意図を汲んで、それ以上痛みについて追及しなかった。


 セレスは、湿布のように患部に貼り付けたその結界符が剥がれないよう、手首のあたりを包帯でぐるぐる巻いて固定する。そんなセレスの様子を見つめていたレアが、不安げに口を開いた。


「自分のものにならないなら、いっそ、こわしてしまえ、みたいなことに」


 どこかの愛憎劇小説のような一節を口にする、ませたレアの言葉に、しかしセレスはきっぱりと言い切った。


「ならない」


 こんなことになった今でも、キルシュが、自分に害をなすとは考えられなかった。


 ただ、すごく思い詰めた顔をしていたから、きちんと向かい合って話す必要がある。いや、話す、のではなく、自分の気持ちを素直に伝えなければ。


「私、キルシュを探しにいく」

「一人で大丈夫か?」


 ノエルとレアが心配げな瞳でこちらを見ている。けれど。


「大丈夫」


 自分の力が不足する時に、人の力を借りることは、決して悪いことではない。

 だが、この件はきっと、誰にも力を借りてはいけない……セレス自身が解決すべきことだろう。


 だからセレスは微笑んだ。


「ちょっと行ってくるね」


 それは「ちょっとそこまで買い物に行ってくるね」くらいの軽い口調だったが、逆にそれがセレスの決意を物語っている。

 セレスの覚悟を感じ取ったノエルとレアは神妙に頷き、


「気をつけて」


と声をかけ、ただ静かに見送ってくれたのだった。

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