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15 舞踏会の小さな魔法(3)

(……??)


 思いも寄らぬ展開に、セレスの頭が疑問符だらけになる。

 そもそも、微妙な立場に置かれているセレスのパートナーに立候補するような人間が、ノエル以外にいるとは思ってもいなかったのである。


 しかし、


「彼女のパートナーは、僕だ」


とそう言った相手を振り返れば、年の頃は自分と同じくらいだろうか、黒髪黒眼の少し童顔な……けれど周囲がふと見とれてしまうほど美しい青年が、そこにいた。


 一瞬、誰か分からなかった……なんてことは、なかった。これだけ長く一緒にいたのだから、少しくらい姿形が変わっていても、すぐに見分けることができる。


 思わず名を呼ぼうとしたセレスを、しかし青年が唇に人差し指を押し当てて止め、彼は令嬢に視線を向けた。


「僕のパートナーに何か?」


 驚くほど愛想の良い笑顔で、彼は令嬢に尋ねかけた。それはそれは心奪われるような魅力的な微笑みであるが、どこか有無を言わせぬ圧力がある。その迫力に押された令嬢は、


「い、いえ。何でもありませんわ」


と一歩後ずさると、


「わたくし、急用を思い出しましたので、失礼します」


と先程までの威勢はどうしたのか、たじたじな様子で、この場を去って行った。


 その背中を見送り、セレスは青年に向き直る。そして彼の名を呼んだ。


「キルシュ……」


 言いたいことは色々あったが、とりあえず一番最初に頭に浮かんだのが、


「私と身長、あまり変わらない」


というものだった。


「……」


 思いっきり睨まれた。実はコンプレックスだったのかもしれない。

 彼は半眼でセレスを見やると、


「……もっと他に言うことがあるんじゃないか?」


と不服そうな声を出す。

 そういうところは、大人の姿になっても全然変わらなくて、セレスは思わず、ふふっと笑い声を漏らす。

 そうすると、ますます目が据わってくるキルシュに対し、まあまあ、というように軽く腕を叩き、気を取り直して、


「助け船を出してくれて、ありがとう」


と感謝の言葉を述べた後、先ほど頭に浮かんだいくつかの疑問の中の一つを口にする。


「これ、本当の年齢?」


 すると間髪入れずに答えがあった。


「そうだね」

「人間の寿命と同じなの?」

「特に変わらないよ」


 その答えを聞いて、セレスはほっと息をつく。彼ら「精霊」が、超人的な寿命を有するわけではなく、自分と同じ時を刻んでいることに、強く安堵したのだ。


(良かった……)


 そう胸を撫でおろしていると、やがて会場にダンスのための音楽が流れ始める。今まで食事や会話にいそしんでいた人々が、ホールに向かい、軽やかなステップを踏み始める。

 その様子を見たキルシュが、セレスを見やると、


「踊る?」


と手を差し出してきた。

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