1日目
「初めてまして。夜桜 美央です。よろしくお願いします」
ある春の月曜日、教室に新たな人物が所属する事になった。
「じゃあ、君はあの席に座って」
我がクラスの担任は、彼女を僕の隣の席へと誘う。
彼女はゆっくりと椅子に腰を掛けると、僕の方に顔を向け、典型的な挨拶をする。
「夜桜です。よろしくお願いします」
「よろしく」
僕は半ば興味を欠きつつ、返事をした。
またつまらなさそうな奴がこのクラスに増えたか。
正直のところ、そう思った。
しかし、そう思ったのもつかの間、僕の耳に顔を近づけ囁いたその少女はとんでも無いことを口走ったのだ。
「私、あと一週間で死ぬんです」
「・・・は?」
最後に強力な爆弾を投げつけてきやがった。
「なので、私と付き合ってください」
「いやだよ。てか、なんの冗談だよ」
「冗談じゃないですよ。私、死ぬ前に恋愛、してみたいんですよね」
とても病人には見えない。
自分が急死するとでも言うつもりか?
ほんと未来人かなんかか?こいつ。
「じゃあ、証拠見せますよ」
彼女は机の上に置いたばかりの鞄の中から、一枚の紙を取り出した。
「はい、これ」
彼女が僕に渡したのは診断書だった。
そこには『肺がん』だと書かれていた。
どうやら、彼女は冗談を言っているわけでは無いらしい。
「私、末期のがん患者なんですよね」
「全くそんな風には見えないけど」
「バレないように努力してますから」
なんとかなるものなのか?それ。
「そもそもバレないようにしたいなら、何故僕に話した?」
「なんとなくです」
なんとも拍子抜けな答えだ。
「君が死ぬまで付き合えばいいのか?」
「そうです」
「分かったよ。クラスで一人浮いてる僕でいいならね」
一生に一度くらい、良い行いをしてもいいだろう。
「じゃあ、お願いします♪・・・あ、LINE交換しときましょう? 連絡できないと困りますから」
僕はそれを了承し、スマホを取り出し彼女と連絡先を交換した。
「一週間、私の彼氏役、お願いします♪」
彼女は満面の笑みを浮かべた。
僕はそれを見て、なんとなく顔をそらす。この少女が約一週間で死ぬ奴には見えないなと思った。
僕はこの夜、夜桜 美央は早速LINEをよこした。
『明日の放課後、デートしましょう?』
『分かった。行きたいところは君が決めてくれ』
『あなたが決めてください♪』
『一週間で死ぬんだろ?君が行きたいところに行かなくてどうする』
『彼氏の行きたいところに行きたいんです♪』
『彼氏役だけどね』
『任せましたよ?』
『了解』
『楽しみにしてます』
こんなLINE、他の人から見たら奇妙なLINEだと思うだろうな。
みたいな事を考えながら、僕はアラームをセットし、ベッドにゆっくりと横たわり布団を被る。
明日から、僕と奇妙な彼女の一週間が始まるのかと思うと、なんだか少しわくわくした。
それが死に向かうカウントダウンだったとしても




