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嵐の前の

 早朝。カンカンカンカンと耳に響く金属音で目が覚めた。リルが鍋底をおたまで叩いている。今日は珍しくエイミーも起きているらしく、付近の木から果物を採集しているところだった。随分気合が入っている。


 丘の上へ登りそっと【森の民】の領地を窺う。【森の民】のメンバーは全員、防具を草で覆うギリースーツで統一しているため一目でわかる。俺の記憶する限りメンバー数は八名。領地内にはいくつものツリーハウスがあり、森の民たちはその間を繋ぐツタの上を器用に移動して暮らしていた。


「戦争前なのに意外と平穏だね」


 いつのまにか隣に来ていたエイミーが呟いた。


「【森の民】は防衛のベテランだしな。自分たちから攻め入ることはないけど、今まで何度も侵入者を撃退してる」


「へー、だからあんなに落ち着いてるのかな。……私はガチガチに緊張してるんだけど」


「そんなに難しい作業じゃないさ。一回ハイエナの手順確認しとこうか」


「お願い」


「一、頃合いを見て死体からアイテム剥ぎ取り。二、最寄りポータルの倉庫へアイテムをしまう。これだけだよ。タイミングを図るのは俺がやる。アイテムの運搬は量にもよるけど、基本機動力の高いリルに任せたい。エイミーはその時リルにシールド貼って援護してくれればいい」


「リルの援護ね、わかった。他に何か気を付けることとかある?」


「んー。倉庫にアイテム入れる時かな。あのポータルは戦地から一番近いから、【森の民】も【kakine】の奴らもリスポーン地点に設定する可能性がある。せっかく倉庫まで辿り着いても、そこでたむろしてる奴ら、もしくは復活してきた裸の奴らに見つかって殴り殺されたら笑い話にもならない」


「りょーかい! でも確かに私はそこまでやることなさそうだね。よかった~」


「俺たちは事前に倉庫に所持品をしまって裸装備で行くから失うものは無いし、死んでもすぐに近くのポータルからリスポーンできる。ローリスクハイリターンだ。ま、戦争の見学程度の気分で気楽にいこう」


 最初に動きがあったのは俺たちが朝食を食べ終わった後だった。


「ケイ、エイミー。例のポータルに二名接触しました」


 遠眼鏡で覗くと、俺たちが登録したポータルへ手をかざしている二人の男が見えた。一人は大型大剣を背中に背負い、もう一人はボウガンを腰に据えている。たまたま通りかかっただけというのもありえなくはないが、【kakine】側の尖兵と考えるのが妥当だろう。


「どうします?」


「しばらく待機。たぶんこの後に【kakine】側の本隊が来る。鉢合わせるとマズい。近くの茂みに潜んでいよう」


 ポータルへの登録作業を済ませた男二人は、そのまま目の前の倉庫へ向かった。


 ボウガンの男は矢数本と小物を取り出しただけだったが、大剣の男は武器も防具も全て倉庫にしまい、全裸になっている。そのままおもむろに屈伸運動をした後、【森の民】の領地の方角へ走り出した。


「何やってんだろ? 戦争開始前の偵察?」


 エイミーが小声で言った。


 大手ギルドの中には領地に城壁を張り巡らせ、専属のガーディアンを配置しているところもある。そういうとこ相手には偵察は必須だと思うが……。【森の民】の領地は丘の上からなら丸見えだ。わざわざ偵察兵を送る必要があるのだろうか。


 裸のまま走り続けたその男は、【森の民】領地内へ侵入する前に、近くで木の伐採を行っていた森の民の一人と遭遇した。その森の民は男が裸装備なことを確認すると、持っていた木こり斧で男に切りかかった。裸の男に対抗する術はなく、慌てた様子で全速力でポータルへ引き返す。森の民は弓矢に持ち替え裸の男を追撃するが、裸の男がジグザグに蛇行して走っているためなかなか当たらない。痺れを切らした森の民は再び木こりの斧を持ち男を追いかけ回し始めた。


「あー……釣られたな」


 ちょうど丘を越えた時、森の民が何かに躓きコケた。そこに潜んでいたもう一人の男が体を乗り出し、ボウガンを発射。矢が頭に突き刺さる。怯んでいるうちに、ここまで逃げてきた裸の男はボウガンマンから大剣を受け取り、森の民を滅多切りにした。無慈悲にもトドメが刺される。


「戦争前の挨拶といったところでしょうか? 【kakine】側も中々やり手なようですね」


 【森の民】領地を遠眼鏡で再び覗くと、領地の中心に設置されたポータルから裸の女が湧いてくるところだった。今殺されたばかりの森の民だ。領地の中にあるポータルにはそのギルドのメンバーだけが登録することが出来る。

 他の森の民たちは既に配置に付いているらしく、彼女は恥ずかしそうに辺りをキョロキョロ見回し、ギルド倉庫から取り出したギリースーツを着始めた。


「本当にみんなギリースーツなんだね。あの人ナイスバデーなのに勿体ない……」


 エイミーがおっさんくさいことを言った後だった。遠くから地鳴りが聞こえる。


「ん? 地震?」


「違う。リル、数は?」


 リルが耳を研ぎ澄ませる。 


「八、十、十一……最低十一ですね。全員騎乗してます」


 徐々に地鳴りが大きくなってきた。高らかな角笛の音が空気を振動させる。


「来るぞ」




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