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毎度あり

「ケイ~」


 目を覚ますとエイミーが俺の顔を覗き込んでいた。若干瞳が潤んでいる。


「私馬小屋の人に事情説明しに行ったんだけど、やっぱり二万四千G賠償だって……。とりあえず私の貯金全部下ろして置いてきたけど、まだ一万二千G足りない…。」


 まだ出会って浅いのに借金払うために貯金下ろしてくれたのか……知らん顔してトンズラしてもおかしくないのに。


「ありがとな、エイミー。ギルド設立費も合わせると三万Gか……。本格的に稼がなにゃならんな」


「なんか落ち着いてるね。アテあるの?」


「タイミングさえ合えば一気に稼げるのがあるけど……まあそこは運だな。そういやリルは?」


「お金稼いでくるっていって街の外出てっちゃった。ん、あれリルかな?」


 起き上がりエイミーの目線を追うと、リルが帰ってくるのが見えた。右手にはケンタウロスの鬣、左手にはサイクロプスの眼を握っている。二千G程にはなるだろう。とことん戦闘に拘るらしい。


「サンキューリル」


 リルがコクリと頷いた。これで残り約三万G。


「で、そのタイミング次第っていうのは?」


「戦争」


 その単語に反応しリルの瞳がキラキラと輝きだした。そろそろ涎を垂れ流し始めても驚かない。


「戦争? でもまだ私たちギルド設立できてないでしょ? どっかのギルドの傭兵になるとか?」


「悪くないけど俺たち装備ボロいし人数も少ないからな。雇ってくれるところは少ないと思う。それより形式上ギルド無所属な今こそ都合がいい――"ハイエナ"をやろう」


「ハイエナ……? あー! 聞いたことあるかも。戦争中とかに現れて死体から装備だけ剥ぎ取ってく人たちでしょ?」


「そそ。自分たちの城が掛かってるから装備も奮発してるし、戦ってる奴ら同士は装備漁ってる暇もない。上手く突ければおつりが来るってワケ」


「え? 死体から装備奪うだけってことは戦わないんですか?」


 リルのテンションが一気に冷めた。


「基本的にはそうだな。とは言っても火球だの矢だの人だのが飛び交ってる中に突っこんでくから、当然挟まれて攻撃されることもある。そうなったら止むを得ず最小限の戦闘はすることになるな」


「……ふむ」 


 一応納得はしてくれたようだ。


「後はこの辺りで戦争が起きてくれるかどうか。とりあえず掲示板見てこよう」


「それならさっき確認してきましたよ。明日の十三時から【kakine】対【森の民】ですね。【kakine】側が【森の民】の砦へ宣戦布告したそうです」


「【森の民】しか知らんけど、あいつらが勝つんじゃねえかな。まあこっからそう遠くないしいいね、行くか」


「戦争かぁ。私行くの初めて。ケイとリルは何回くらい経験あるの?」


「うーん……。私は近場で戦争があれば、とりあえず参戦するので細かくは覚えてないです」


「俺も覚えてないな。まぁ最初はビビるかもしんないけど、場数踏めば慣れるさ。それにハイエナは裸で行けばローリスクハイリターンだし、肩慣らしにちょうどいいよ」


「わかった。明日まで時間あるけどどうする?」


 グルルルルと小気味いい音が鳴った。リルだ。赤面している。


「ご飯食べてなかったね。あ、でもお金……」


「そうなんだよな。あと明日の戦場遠くはないけど徒歩で行かなきゃいけない分、移動に半日くらい掛かる。もう出発して道中の狩り、採集で食料確保しながら行こう。着いたらすぐ最寄りのポータルに登録してリスポーン地点再設定しておこう」


「おー! 採集なら役に立てるよ」


「もしかして料理とかクラフトも得意?」


「うん。戦闘は微妙だけどそっちは得意分野だよ!」


「じゃあ私たちのご飯はエイミーに託します」


「お任せあれ! 安物だけど、私の倉庫にキャンプセットあったはずだから持ってくるね」


「ありがたい。でも【森の民】領地近くにも倉庫があるから、現地に着いてから取り出した方がいいよ」


「それって街の外にポータルとセットで置いてあるヤツ? 見知らぬ人と遭遇すること多くない?」


「仮に会っても俺たちなら狩れるさ。準備ができ次第行こう」


 結局俺たちが到着したのは深夜を廻った頃だった。俺とエイミーのスタミナが想像以上に少なく、休み休み歩いたせいだろう。エイミーが採ってきたリンゴやらキノコやらを、三人でパクつきながら移動していたので腹は空いていないが、エイミーが改めて夜食を作ってくれるらしい。〈森の民〉領地が見渡せる、丘の麓のポータルの傍でキャンプファイヤを焚くことにした。鍋に拾い物を適当にぶっこんでいくと、闇鍋のような見た目になってきた。


「おまたせ~。ご賞味あれ」


 エイミーが小皿に鍋の内容物をよそって手渡してくれた。皿を覗くと紫色でネチョネチョと糸を引いている――ヘドロのような物体があった。……小豆餅だと思って食べることにしよう。リルにさえ躊躇いが見えたが、覚悟を決めたらしく一拍置いてスプーンを取った。リルは目を瞑り小豆餅を口に掻っ込んだ。


「……おいしい」


 普段表情に乏しいリルの口元が緩んでいる。みるみるうちに小皿の内容物が減っていった。俺もそれを恐る恐る口に運んでみる。確かにしつこすぎない甘さと深いコクがあり美味い。どうやらエイミーの料理スキルを侮っていたらしい。鍋の中の料理もすぐに底を尽きた。


「美味かった、ごちそうさま。夜の明かりは目立つからそろそろ消して寝よう」


 散々歩いたお陰で労せず眠りに落ちることが出来た。


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