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戦争か和平か

「イイケドよぉ……。今は落ちぶれているとはいえ【スパルタンレギオン】も昔は強豪だったんだぜ? 単純な戦闘力だけでみたら【朱雀】より上だ。アンタらがマトモにぶつかって勝てる相手じゃねぇと思うけどなぁ」


 夕日も沈み空が深い紺色に染まり始める中、マーシャが海岸に埋まった綺麗な貝殻を空に翳しながら言った。


「誰もマトモにぶつかって勝つなんて言ってない。片を付けるって言ったんだ」


 既に獲得したボート二隻はリルのポーチに、借りていた白百合のボートはマーシャのポーチに収納してある。死体棺は六人中二人分をマーシャが漁り、残り四人を俺たちがという配分で山分けした。元々【スパルタンレギオン】はウォーリアー専のギルドだったということもあり他職の装備は獲得できなかったが、使わない装備であっても露店なり鍛冶屋なりで売ることが出来るのであって損はしない。

 戦利品の分配も終わりあとはもう解散するだけという状態なはずだが、マーシャは俺たちと【スパルタンレギオン】のその後が気にかかるらしかった。


「同じじゃね? そっちに戦う気がなくても今回の件で【スパルタンレギオン】の方はヤる気100%って感じだろうからなー。きっと盛りのついた犬みてーに襲ってくるぞ」


「その前に手を打つさ」


「えっ……じゃあ戦争はしないんですか?」


 リルが海に向かって丸い石を打ち付けるように投げた。石は水面を何十回も跳ねた後暗い水底に沈んでいく。


「出来ればな。ただリルの手を借りる機会はあると思う」


「……ねぇねぇ、ポーチって"某ネズミ嫌いな猫型ロボット"の四次元ポケットみたいに何でも入るけどさ、魚とか生きてる動物はどんな感じで中に入ってるんだろうね」


 エイミーがポーチの中を覗きながら突拍子もない疑問を投げかけてきた。


「"某なんとかモンスター"のなんとかボールみたいの中みたいになってんじゃないか? 知らんけど」


「……めちゃくちゃ唐突にメタい話振ってくるな。てか悠長にしてるけどアンタらのギルド存亡の危機だぞ? ちゃんと危機感持ってるか?」


「まーケイがいるし」「大丈夫でしょう」「ノープロブレム」


 マーシャは呆れて物も言えないといった表情で俺たち三人を眺めた。


「……馬鹿なのか頭良いのかよく分かんねーなアンタら」


「……たぶんどっちも当てはまる」


「あっそ。まー後になって『やっぱ無理でしたー』ってなっても力貸してやるから遠慮なく泣きつけよ? ……もう同盟結んだんだからな」


「その時は甘えさせてもらうよ。ところで【スパルタンレギオン】のテトって奴について何か知ってるか?」


「あー……」


 マーシャは露骨に顔をしかめた。


「詳しくは知らねーけど……いけ好かない奴だってのは聞いてる。ケイはどこまで知ってる?」


「これは俺の推測だが……どうもテトって奴が【スパルタンレギオン】を衰退させた元凶じゃないかと睨んでる」


「それだけ知ってりゃ十分だよ。……そろそろ夜も更けてきたし帰るか。今頃フェンは同盟締結書が届くのを首を長くして待ってるだろうし」


「そうだな。……リル、エイミー! 帰るぞー」


 波うち際にいたリルとエイミーが駆け寄って来た。


「クドイようだけど危なくなったら声掛けろよ。【白百合同盟】使えば一瞬で蹴散らせるっての覚えとけ」


「把握してる。じゃ、帰りは気を付けて」


「おう、またな」


「……マーシャって結構優しいよね」


 別れ際に言ったエイミーの言葉が聞こえていたのかいなかったのか、マーシャはぶすっとした背中を向けて暗夜の海岸線沿いを走り抜けていった。  



◇主な戦利品(【ミケル】&マーシャVS【スパルタンレギオン】――東の海)◇

・ブロンズチェイン装備セットx4

・鋼の直剣+3,鋼の槍,粗製の矢+2,スクトゥム(盾)x2

・ハタキウオx16,バクダンカジキx6,ニンギョノナミダx2

・4900G(ゴールド)

・矢 32本



 * * *



「うわ……何これ……」


 領地に帰ってくるなりエイミーは砦の防壁を見て絶句した。目が痛くなるようなドギツイ配色の落書きが、俺たちの砦を守る壁一面に為されていたのだ。質素ではあったものの湖の畔で良い景観を保っていた俺たちの砦が、一夜にしてスラム街の建物か変人の住まいといった物件に早変わりしてしまった。落書きのほとんどは意味を為さない文字や記号ではあるが、見ていて頭が痛くなりそうだ。悲劇的ビフォーアフターにも程がある。

 思い当たる犯人は一人、いや一ギルドしかいない。


「何かやり口が子供みたいですね。戦争仕掛けて来るならとっと仕掛けてくればいいのに……。向こうの砦の防壁は血のペンキで塗りつくしてあげましょう」 


 闘気に満ち溢れたリルを尻目に、俺が防壁に〈水の渦〉を放つとそこに描かれていた不細工なスマイルマークのようなものは綺麗に消えた。永久に持続する特殊な染料で落書きされていたら厄介だったが、幸いにもこれはそうではなかったらしい。


「雨が降れば消えるな……放っておこう、数日の我慢だ」


「うー……なんか家に知らない人が出入りしてる感覚でゾワゾワってする……。私たち以外入ってこれないように防壁完成させたいけど、まだ作れないよね?」


「あぁ。……ただし今打てる手はある。奴らの領地に行くぞ」


「待ってました! 戦闘に備えてこの装備で行った方がいいですよね?」


「いや、裸で行く」


「なるほど、分かりました。…………え?」


「裸で行くの?」


「そうだ。装備全部脱いでから行こう」


「裸」





 

 

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