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敵と味方

「よいしょっと」


 草の上で悶えている俺を、レンジャーの女が軽々と持ち上げる。体をくの字にされ彼女の肩に担がれた。 

 華奢な見た目に反してかなりの力があるようだ。


 ボサッとしすぎだな、俺は額を押さえながら苦笑した。どうも裸=死んでもノーリスクな状態だと気が弛み命を粗末にする悪癖が出てしまう。いい加減メンタルをリセットしないと、いつまで経っても先に進めない――


 ――そんなことを考えているこの間にも、俺の首から血(といっても、グロテスクすぎるというプレイヤーからの苦情を受け白色に着色された)が脈々と漏れ出している。

 地面に垂れる血痕を気にも留めず、レンジャーは俺を担いだまま悠々と歩き出した。今頃目を丸くしているであろう、あの可愛気なプリーストのところまで俺を運ぶつもりのようだ。


「ほら……物騒な気配を出している人がいたので倒しておきました」


「あ、ありがとう……」


 プリーストの茫然とした顔を見てみたかったが、生憎俺の視界にはこのレンジャーの尻しか映っていなかった。レザーアーマー越しとはいえ、引き締まった尻が歩く度に小刻みに振動するのでなかなかどうして悪くなかったが。


 ドサッと音を立てて乱暴に地面に降ろされた。腰が痛い。


「杖持ってるしこの人メイジかな?」

 

 地面にへたり込んでいたプリーストが、小動物のようにくりくりとした目で俺を覗き込んだ。


「たぶん。下着しか着てないのでリスポーン直後でしょうね」


 俺をダウンさせたレンジャーは眉一つ動かさず、無表情で俺の頭の天辺からつま先までをゆっくりと目でなぞる。

 まじまじと二人から観察される時間が続いた。


「ごめん。私あなたのこと誤解してたかも……」


 しばらくしてプリーストがレンジャーに伏せ目がちに謝る。


「気にしないで」


 レンジャーの表情は素っ気無いものの、声には優しさが籠っていた。

 いやあ、二人ともいい雰囲気だ。めでたいめでたい。


「あなた、名前は? 私はエイミー」


 プリースト――エイミーが照れくさそうに尋ねた。


「リルです。よろしく」


 レンジャー改めリルは凛とした表情で言った。


 野良同士で親しくなる機会は意外と少ない。

 それだけに、一度信頼関係が築かれると深い付き合いになることも珍しくない。

 いやはや貴重な場面に立ち会えたようで何より……。


「さて」


 リルが俺を見下ろした……心なしか少し視線が冷たいような。


「蘇生されて追ってこられても面倒ですし」


「そうだね」


 二人の意見は一致しているらしい。リルが左手を俺の心臓の横に添え、短剣を握った右手を頭の上に構えた。


「一つだけ聞いておきたいんだけど」


 俺が口を開くのは初めてかもしれない。


「何ですか?」


 リルが短剣を下ろした。一応聞く耳は持ってくれるらしい。


「俺を見つけたのはただの偶然?それとも〈鷹の目〉持ちだから?」


 こいつがレンジャーであることはすぐに分かった。レンジャーの特徴は弓術や移動能力、それに索敵能力の高さだ。俺はそれを承知の上で感知されない距離で潜んでいたつもりだったんだが――。


「後者です」


 案の定か。〈鷹の目〉はレンジャーの固有スキル――そして取得に必要なレベルは80。


「そんなスキルあるんだ~。リルさんレベルいくつ?」


 エイミーが尋ねた。

 

「83です」


「えっ……?」


 エイミーがぽかんと口をあけた。


「そんな高レベルなのにその防具なの……?」


「シンプルなのが好きなので」


 今のところ全人口中レベル80以上のプレイヤーは3%に満たないと云われている。

 それほどの高レベルプレイヤーであればどこぞのギルドリーダーか幹部であるのが自然だが、彼女にはその気は見られない。


「何でどこのギルドにも所属していないんだ? スカウトされたことは?」


「以前は【クリアスカイ】に所属していましたけど……。【クリアスカイ】と同盟を結んでいたギルドのタウンを何回か襲撃してしまって、ブラックリストに入れられた後に追放されました」


「同盟ギルドへの攻撃は戦争の引き金になりかねないからな。襲ったギルドには何か因縁があったのか?」


「かなり強いウォーリアーがいるという噂を聞いていたので。何回か襲えば向こうから出向いてくるかなと思ったんですが、結局現れませんでしたね」


「「……。」」


 俺とエイミーが沈黙した。


「知りたいことは済みましたか? 蘇生するまでの時間稼ぎのつもりだったのかもしれませんけど、その手には乗りません」


 リルが再び短剣を構えた。


「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て」


 さっきまでは死んでもいいと思っていたが今は違う。


「しつこいです」


 リルは止める素振りを見せない。


「俺のギルドに入ってほしい」


 俺はリルの目をじっと見つめながら言った。


「は?」


 今度はリルが目を丸くした。


「ついでにそこのプリーストさんも」


 自前の杖をギュッと胸に抱えているエイミーをチラリと見た。


「え? …………ついでって何さ」


 エイミーはドキリと俺を見返してから、いじけるように口を尖らせた。




2017/07/15 一部グラフィックスの改善

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