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最重要案件

 大きく深呼吸した。〈メテオ〉で開いたクレーターから這い上がり、【森の民】長に手を振る。閉じ込められていたという【森の民】も復活していたらしく、何人かの姿が見える。彼らに倒した【kakine】七人分のアイテムの運搬を手伝ってもらっている間に、戦争終了を知らせる角笛の音が鳴り響いた。


 トントンと肩を叩かれたので後ろを振り向くと、頬に指が刺さった。


「……ケイ」


 仏頂面のリルが突っ立っている。……忘れてた。


「遠くから〈メテオ〉が見えたのでまさかと思いましたが……。次からは必ず呼んでください」


「ふぁい」 


 頬に指がぐりぐりと押し込まれているので随分情けない返事になった。


「おい」


 【森の民】長に声を掛けられた。彼女の後ろで【森の民】たちが片膝をつき頭を垂れている。


「何だ?」


「此度の活躍に感謝する。【森の民】長として正式に謝辞を述べたい」


「それはどうも」


 【森の民】の一人が前に進み出で、恭しく俺に差し出したのは……葉っぱ?


「それは"クシシスの葉"だ。食べるとレベルが上がるぞ」


 リルが葉っぱをつまみ口に放り込もうとする。


「……そんな都合のいいアイテムあったか?」


「すまん嘘。ただの雑草だ」


「……」


 リルが冷めた目で長を見つめた。


「元はただの雑草には違いないが、うちのメイジがスペルでコーティングを施した。窮地に陥ったらその葉を燃やせ。いつ何時でも我ら【森の民】が駆けつける」


「助かる。ところで、エイミーを見てないか?」


「あの子ならお前らが来た丘の方にいるよ」


「サンキュ。そっちは領地の修復始めるんだろ。俺たちもやること山積みだから、この辺でおいとまするよ」


「そうしろ。お前たちはこれからギルド作りか? どうせその内この砦も攻め落とすつもりだろうし、今までに以上に動向に注意しないとな。……ま、楽しみにしているよ」


 【森の民】たちに見送られた後、丘の麓で待っていたエイミーと合流した。


「ここで何してたんだ?」


 エイミーは不安げに両手で何かを包んでいた。


「あの土のゴーレム――ボナンザが私に懐いたからくれるってリーダーの人に言われて。でもしばらく遊んでたら、ボナンザが小さくなっちゃって……」


 エイミーの手の平の上で、親指サイズにまで縮んだボナンザが体を丸めて寝ていた。


「活動限界だな。ゴーレムは体内の核を破壊されない限りは死なない。俺たちが領地をもつことになったらボナンザに護ってもらおう」


「ですね。ところで、この後の予定は?」


「街に戻って収穫品を質に入れてギルド設立……の前にある重要なことを決めなきゃいけない」


「「重要なこと?」」


 リルとエイミーが同時に聞き返した。


「文字通りギルドの命運を左右する程度のこと……。まあ今日は疲れたろ。街に帰ってゆっくり寝てから話し合おう」



* * *



 『スイレン亭』一階食事処の一角。朝食をとっている冒険者たちもちらほら。たっぷりと宿で休んだ俺たちは、出来立てのハムエッグを前にして重要な会議を始めつつあった。


「と、いう訳で……。まずは先日の収穫品発表から」


「「おー」」


 リルとエイミーがぱちぱちとまばらな拍手をした。リルはともかくエイミーのテンションが低いのは寝起きのせいか。目が半開きだ。


「まず俺たちは【朱雀】に三頭の馬を殺され二万四千Gの借金。一万二千Gはエイミーが、二千Gはリルが払ってくれた。そしてギルド設立のために必要な金額は二万Gだったが……今回のハイエナと手助けで得られた金額は――」


「計五万九千G。これはエイミーリル俺それぞれの装備一つと、さらにそのスペア一つずつを抜いた金額だ。ここから借金額を引いて四万四千G。そしてそれぞれ払ってくれていた資産を還元するとして……一万五千Gが手元に残る」


「一万五千! 一万五千っていうと……アップルパイ七百五十個分!」


「シルバーコロシアム優勝十回分ですね」


「基準が謎だがまあそういうこと。これで晴れて借金解放プラスギルド設立が出来る訳だ」


「で、重要な話し合いとは?」


「かつて"これ"のために起こった戦争すらあるといわれている。"これ"によって敵は血の涙を流し同盟は歓喜の渦に包まれる――」


「勿体ぶらず早く」


「ギルドの名前」


「あー」


「なるほど」


 三人が無言でハムエッグをつつく時間が続いた。


「んー……イイのが思いつかない。一週間くらい掛けちゃダメ?」


「こういうのはダラダラやっても仕方ない気がする。むしろ軽く決めた名前が後になってしっくり来ることの方が多い。とりあえず思いついたヤツ挙げてみてくれ」


「【ノーブル☆フェアリーズ】」


「【鉄血団】」


「【お散歩日和】」


「【juggernaut】」


「【砂漠の花】」


「【ラスト・ウォーリアー】」


「【自由の翼】」


「【幻影旅団】」


 エイミーとリルが交互に案を出していった。……何かちょっと二人の方向性が違うな。


「大分好みが違うみたいだね~」


 エイミーが苦笑いをした。


 リルは頬杖をつき思考に耽っている。


「二人の案を合わせたらどうでしょう? ……【鉄血☆フェアリーズ】、【お散歩juggernaut】、【砂漠のラスト・ウォーリアー】とか」


「……なんか面白いけど、ギルドの名前って言ってみりゃ苗字みたいなもんだからな。自分の名前の前に付くこと考えた方がいいぞ」


「確かにそれだとちょっと……長すぎますね」


 そういう問題か?


「私たちだとこれ以上思い浮かばん……。ケイは他のギルドのこと色々知ってるでしょ? 何かいい名前の付け方とかない?」


「名前の付け方……ベタだけど俺が聞いたことあるのはメンバーの名前をモジるとこかな。例えば俺たちだったら、一人一文字ずつ抜いて……ケミリ? イエル? 【ミケル】とか?」


 エイミーが何度か【ミケル】と復唱した。


「……いいじゃん」


「いいですね」


 こうしてハムエッグが冷め切る前に、俺たちのギルド【ミケル】は誕生した。


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