“ピンクの悪魔”が現れた!(予算的な意味で)
現れたのはピンク色の髪をした、美少女だった。
不機嫌そうな様子の彼女に僕は、
「あ、えっと、僕です。勇者“代理”のニルスです」
「“代理”? 勇者はどうしたの?」
「も、元の世界での戦いが忙しいそうで」
「……まあ、異世界の勇者ともなれば引っ張りだこだろうし、仕方がないわね。ふむ」
そこで彼女が僕の顔をまじまじとのぞき込み、頷く。
「貴方、“弱い”冒険者の匂いがする」
「! な、何の話ですか」
「それも“最弱”の部類だわ。基本スペックが」
僕は何も言えなくなり黙ってしまう。
それが僕が夢を諦めた原因で、どうにもならないことがあると思い知った出来事だったのだ。
なのにそんな僕が今は担ぎ出されている。
でも今更そう言われたって、そもそも“勇者”に突然抜擢なんて……。
悲しくなってうつむいてしまう。
そこで偉そうな人が、
「もう少し穏やかに言っていただけないでしょうか。彼が傷ついてしまいます」
「ふん、私、知っているんだから。あんた達が私の事、“ピンクの悪魔”って呼んでいることを」
「! いえ、そんなことは……」
「何よ、ちょっと台座を、高級金属にして彫刻して宝石つけろといったくらいで……」
「いえ、それは費用が掛かりすぎます」
「他の宝物達はあれだけ着飾っているのに私はこんなに単純な形。一番よく働いていると思うのに、もう少し私をいたわるべきだわ。服だってこんな前時代的な飾り気もない……もう少し何とかならないの!」
どうやら宝物庫? か何かに保管されていたらしいこの指輪は、他の宝物? と自分を比べて怒っているらしい。
彼女も女の子なので、色々な服を着たいのだろうか?
確かに見た目は美少女なので、おしゃれをしたら映えるかもしれない。
そう思った僕は心の中で聞いてみた。
「あの~、すみません。よろしいですか?」
『あー、ちょっと待ってくれ。……2番と。これで一段落だ……あ、それで何だ?」
「精霊の服を着替えさせることはできますか?」
『出来るぞ。精霊、人間関係なく、服を変える魔法がある。“服変化”で好きな防具に……』
「普通の服は無理ですか?」
『出来る。……ああ、目の前のあの子か。よし、まずは服をイメージしろ』
「はい!」
一人で会話しているのを変に思ったらしい精霊が僕をいぶかしげに見る。
そんな彼女にはとりあえず、水色のドレスを思い浮かべる。
以前挿絵で見た白いレースの一杯ついたドレスだ。と、
『思い浮かべたか?』
「はい」
『では対象の人間に手をかざせ』
言われるとおりに手をかざす。
それに彼女は何をする気なのと怒っているようだったがそこで、
『“服変化”』
「“服変化”」
「きゃあ!」
そこで精霊らしい彼女が光に包まれる。
よく見ると服の部分が白い光に包まれている。
ぼんと大きな音がして、すぐに僕が想像した通りの服が現れる。
水色のドレス。
上手くいったと思いながら、リョウスケにお礼を言う。
目の前では姿が変わった精霊が驚いたように自分の服を見て、次に僕の方にふわふわと飛んできて僕の手を握り、
「一生ついていきます、ご主人様」
「え、あ、はい、よろしくお願いします」
あまりの態度の変化に僕は、そう答えることしかできなかった。