現在体を貸しました
どうもこのニルスという人間は素直すぎるとリョウスケは思った。
普通に考えてもう少し代われ言われてすぐに体を開け渡すのはよくないので、後で注意が必要だろう。
だが今は緊急事態だから都合がいい。と、
「あの、どちら様ですか?」
彼女はニルスの幼馴染のセリアだったはず。
一応は話しておいたほうが良いだろうと俺は判断して、
「声だけだったから分からないか。俺がリョウスケだ」
「あ、異世界の本来召喚されるはずだった“勇者”の」
「そうそう。それで今はニルスには少し荷が重いから、俺が代わりに動くことにした」
「そ、そうなのですか。ではその剣をニルスより上手く扱えると?」
「いや、剣は使わない」
そこで“勇者”の剣の精霊、レナが衝撃を受けたような顔をしていたが、俺としては、
「俺の戦闘スタイルは、特殊能力でゴリ押しが主だから」
そう告げると更に剣の精霊レナが衝撃を受けたように凍りつく。
それから、先程ニルスがかばった二人に離れてもらい、
「さてと、久しぶりの戦闘だ! まずは、有効探索範囲の設定を、俺を中心に半径……3キロメートル、“探査”」
設定範囲に向かい大きな魔法陣が俺の足元から広がる。
魔力の現象具合を体感で測ると、半分近くが減っている。
ニルスの魔力が、普段俺が経験したことのないような少ない量だと理解する。
だがこれくらいなら、後もう一つ広範囲魔法は使えそうだ。
そこで索敵が終わったのを確認してから、
「“ステータス・オープン”!」
同時に上空に大量のステータスの光の四角が現れる。
だがこれはステータスを見るのが目的ではない。
敵の数とその敵が今何処にいるのかに、照準を合わせるのが目的だった。
砂煙が見える。
数百では足りないような量だとおおまかに俺は計算しながら、
「よし、ここで魔力全回復っと。ふむ、それから目的に対して誘導の効果がある魔法で、複数攻撃……炎召喚系の“炎の流星”で行くか。魔力が少ないから、普通じゃない方法だが仕方がないな」
そう呟いて俺は、魔力節約モードでの魔法を選択画面から選ぶ。
少量の魔力を見かけ上、数十倍にも膨れ上がらせる魔法だ。
俺の足元に白い光の魔法陣が言う靴も連結したものが現れる。
これでいい、そう思いながらその魔法陣が動き出すのを見て、目的の魔法を使用する。
「“炎の流星”」
同時に俺の頭上に赤く大きな魔法陣が現れる。
セリアが顔を青くして口をパクパクしているのを見ると、どういうものなのか分かっているのだろう。
強い魔法なのかが分かるのも魔法使いの資質である。
将来有望な魔法使いだと思いながら俺は、ゆっくりと赤や黄色に輝く炎の塊を取り出す。
もっと温度を高くするなら青くなりそうだが、とりあえずは様子見も兼ねてこの程度に設定をしている。そして、
「“行け”」
命じるとその炎が数百と小さな塊に分裂し、俺が先ほど探した敵に向かって降り注ぐ。
連続する轟音とともに上空のステータス画面が減っていく。
だがその全てが倒せたわけではなさそうだ。
以外に骨のある魔物がいるらしい、そう俺は思いながらも、
「さて、魔力回復して……もう一度、魔力増幅魔法を使って……よし、“炎の流星”」
再び同様の魔法を使う。
それを更にワンセットで、二回行うと、残り一匹にまで減少する。
これはなかなかだと思っていると、木々を倒しながら現れたのは、ドラゴンだった。
恐竜のようなそれを見るも、体力が半分程度になっているのが分かる。
全身が赤いので炎でもはくのかと思っていると、その通りだった。
口から炎を吹き出す。
周囲の森は燃えている。
仕方がない、消すかと俺は思い、
「魔力回復、“水の連矢”」
俺の周囲に水の塊が現れて炎に向かって飛んで行く。
これで火災に関しては何とかなる。
そこで再び魔力回復して、身体能力強化の魔法を使う。
それから俺はそのドラゴンに向かって走りだす。
木々を踏み台にして飛んで行く。
そもそも、敵が来るまで待つ必要など何処にもないのだ。
残りの敵が一匹なら迎え撃ったほうが早い。そして、
「“天雷の柱”」
「がぁあああああっ」
俺が近づいて炎を吹き出そうとしたそのドラゴンに向かい魔法を使う。
脳天から貫くような雷が降ってきて、ドラゴンに突き刺さる。
ドラゴンの断末魔の声と共に体力が減って、ドラゴンの体が霧散していく。
後には何やら大きな石が。
「こういう強い魔物の落とすものは価値が高いんだよな、回収しておくか」
片手間にそれを持ち、それから先程の場所に戻る。そして、
「久しぶりの“運動”はなかなか楽しかった。ニルスにありがとうと伝えてくれ。あと
これはドラゴンの落とした多分、貴重品だから渡しておく」
「あ、はい」
渡されたセリアが微妙な反応だったが、俺はとりあえず役目が終わったのでニルスに体を返却したのだった。
こうして僕は体をかえしてもらったのだが、その場で倒れた。
そんな僕にセリアが、
「ニルス、大丈夫!」
「……体が痛い、筋肉痛を起こしたみたいに」
そう、元の体に戻った僕は、顔から血が引くかのような感覚を味わいながら、そう呟いたのだった。
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