魔王に関しての真実
自分自身のことを、魔王と言い切った女性。
そもそもどうして魔王がこんな所にいるのかとか、こんな初心者勇者に会いに来てどうするのかとか、勇者の道具である知り合いと殺伐としながらも、懐かしいわねというノリでお話しているのは……なんだこれ。
頭のなかに駆け巡り違和感と恐怖に僕が凍りついているとそこでセリアが、
「信じられません。こんな場所に魔王がいるなんて。そもそも角がありません」
「角は隠しているからな。そもそもあれ、重いんだよね」
「……取り外し可?」
「いや? 元々私は、この世界の神様と同じようなものというか兄弟だから、普段は姿は似ているけれど角のない状態だからね」
「……この世界の神様の兄弟?」
「うん、今は妹かな?」
首を傾げる自称魔王。
セルアは言葉を失ったようだった。
そこで剣の精霊のレナが、
「フィス、まだこの子たちには全然説明がされていないから、初めからしないと」
「え? その辺りの話も全部?」
「全部」
「……丸投げは酷いよ」
困ったようにその、フィスという名前の魔王様は答えてから、
「何処から話そうかな? まずはぼ……私が魔王フィスです。今期の“闇の魔力”が規定値を上回ったのでやって来ました」
「規定値が上回った? というか、魔王が“闇の魔力”を生み出しているのでは?」
その問いかけに、自称魔王のフィスは一般的にはそう言われていますね、と付け足しながら、
「そもそもこの世界は基本的に、“闇の魔力”と呼ばれるものと対になる“光の魔法”を使うことが多くなっているでしょう?」
「それはまあ、魔物なんかは“闇の魔力”が主ですし」
「本当は“魔力”と呼ばれるものはその両方がくっついた状態で存在するのですが、この世界が作られた当初はそこまで魔力的な偏りが多くなかったのですが、ちょっと作る構造に兄がミスをしてしまい、時間が経過するに連れて“闇の魔力”がこの世界に充満するようになってしまったのです」
「でもその“闇の魔力”が充満したら……」
「この世界が壊れてしまうのですよね。一応は少しずつ修正はしているのですがまだまだ時間がかかりそうなのね、“闇の魔力”を集約する魔王なり、“闇の魔力”に耐性を持っていて操れる魔族の力を借りて、特定方向に魔物を集めて一網打尽にして倒してもらうことで開放し、“闇の魔力”を開放することにしているのです」
「? “闇の魔力”を開放、ですか?」
「元々この魔力はこの世界のものと融合すると、この世界を崩壊しかける存在になってしまうのですが、集約され開放された時に一気に世界の外に放り出せるので、それでこの世界の偏りをなくすシステムになっているのです」
今までに知らない魔王、魔族事情に僕は驚きつつも、
「でもそうなると殺さないといけないのですか?」
「魔族に関しては倒したり気絶させたりその剣ですれば勝利です。ただ魔族になる性格の人間が基本的に、力試しをしたい脳筋タイプが多いので、戦闘になることが多いです。がんばってくださいね」
そう僕は魔王さまらしい人に微笑まれたわけだけれど、僕、この前最弱冒険者だったのにと思った。
そして今の話と先ほどのレナの会話から、
「けれど魔王様は殺さないといけないのですか?」
「うん、僕の肉体そのものは人間風にしているけれどこの体には“闇の魔力”が沢山詰まっているからね。全く、日々角が生えて大きくなっていくのを見ると、“闇の魔力”が加速度的に増えているなと思うよ」
「もしかして、既定値を超えると増える速度が早くなるとか?」
「察しが良いね。理由は分からないけれどそうなんだ。というわけで、これからよろしく」
そう自称魔王のフィスは僕に告げたのだった。
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