技名でも考えて叫びませんか?
そこそこ魔物の中では強い“蛙馬”を目指して僕達は歩き始めた。
その魔物がいる場所は、湖でも北側らしい。
場所を示す地図をギルドの人に書いてもらい、それを頼りに歩いていく。
「えっと、町の東側にある道をまっすぐ行けばいいんだ。あの細い道かな?」
書いてあった通りの道を歩いていくと、立札の建てられた細い道がある。
その先はロープで作と作の間の入り口が封鎖されている。
“蛙馬”が出たために行くのを制限しているのかもしれない。
そこで、その立札のそばで座ってぼんやりしていたおじさんが、
「君達、湖は危険だから帰りなさい」
「あ、僕達依頼を受けて“蛙馬”を倒しに来たんです」
「そうなのか? 一応依頼書を見せてもらえるかな? ……“勇者”?」
「はい」
「……気をつけてな。最近は湖に行く人間が全然いないから、道を歩いていると途中で魔物と遭遇しやすいかもしれない」
「そうなのですか、忠告ありがとうございます」
そうお礼を言って僕はそちらに向かう。
入り込まないように見張っていたおじさんは僕達に手を振り、気を付けてな~、ともう一度言っている。
それに会釈しながらさらに進んでから、
「やっぱり僕達、子供だから不安なのかな」
「普通はそうだよ。私だってそこまで魔法は自信ないけれど選ばれたし。……もっと伝説の杖みたいなもの、私にはないのかな。あ、敵が出た」
どうやら僕の剣のようなものが、レナは欲しいらしい。
後で何かいい方法はないかリョウスケに相談してみよう。
予想外の魔法が存在するようだったから。
そこで今度は蛇のような魔物が5匹ほど現れる。
体の色は緑と黒のまだら模様で口からは赤い舌がチロチロ覗く。
いつものように黒い魔力を纏って肉体も大きくなっているのかよく見かける蛇の、3倍くらいの大きさだ。
だがこれを倒しただけでも、僕のレベルは上がるはず。
そう思って剣を振ろうとすると、
「ニルス、私にも成長チート!」
「う……効率的に効率的に……“成長チート”!」
これくらいかなと思って僕は意識して使ってみる。
そうすると僕の足元に魔法人が現れそこから白い線が、セリアに向かう。
そしてセリア周辺に円状の小さな魔方陣が出来る。
どれくらい魔力を消費したのかは後で確認するとして、
「多分これで大丈夫」
「よし、早速試させてもらうわ! “氷の礫”!」
セリアが杖をふるうと目の前に氷の粒が大量に表れて蛇に襲い掛かる。
しかも当たった瞬間にはじけて、瞬時に蛇を穴あき状態に。
同時に五匹ほどいた蛇達が消失して魔石が落ちる。と、
“セリア、レベル11になりました。ニルス、レベル8ニナリマシタ”
どうやらこの成長チートを使うと、戦っていなくても僕に経験値が入るらしい。となると、
「この成長チートを使ったままだとずっとセリアを追い越せないのでは?」
「……大丈夫だ、問題ない」
「なんで口調が突然変わるんだ! セリアは都合が悪いとすぐそうだ」
「いいじゃん、別に、私が守ってあげるから」
そうセリアが告げるが、僕としても男としての矜持があるのだ。
女の子に守ってもらうなんて……そう思っているとそこでレナが、
「ご主人様、そのレベル関係はどうでもいいのですが、その剣をただ振るだけなのも味気ない気がするのですよ」
「……僕にとっては重要な悩みなのに……それで剣をふるうのがどうかしたかな?」
「折角だから、技名でも考えて叫びませんか?」
「……え?」
「ただ振っているだけはアレなので今までの皆さん、技名を叫んでいましたけれど」
「……そのうち考えます」
そう僕はレナに答える。
だが、僕は考えるつもりはなかった。
だって、僕、そんな年じゃない!
そんな別な意味での脅威に怯えながら、僕達はさらに進み魔物を倒し、そして……湖にたどり着き、“蛙馬”を5匹ほど見つけたのだった。