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すれ違う気持ち

「警部、事件当時からいる客が騒ぎ出しているんですがどうしましょう?」

水野刑事は早く帰らせろと言っている客達の対応をどうするのかを上司の町田警部に判断を委ねる。

「そうやな。事件とは関係なさそうやし帰らせてもいいかな」

町田警部は架けてる時計を見て判断する。

「客を帰らせてもいいけど、オレの話を聞いて欲しいんや」

篤史は犯人がわかり、町田警部に静かにお願いした。

「犯人がわかったんか?」

「そうや」

「わかった。石川さん、お客さんの対応をお願いします」

町田警部にレジ対応を促された建人は、即座に行動に移し、次回使用が出来るクーポン券を渡して詫びている。

建人がレジ対応を終えて戻ってくると、隅にある大勢が座れる席に移った一同。その前に篤史が立っている。

「小川君、話してくれ」

町田警部は話が出来る体勢は整ったと言う。

篤史は頷くと、

「この事件は犯人が何らかの方法で長崎さんを殺害する事にした」

「でも、自殺やないのか?」

まだ自殺だと思っている礼二は信じられないというふうに聞く。

「自殺に見せかけるために仕組んだ事や。まず、長崎さんに農薬入りのビンを絶対に開けるなと言って渡した。そして、今日の夕方にスマイルに来いと呼び出し、カレーライスセットを頼めと指示した。その通りに従った長崎さんは、カレーライスに農薬が入っているとも知らずに食べた」

篤史は事件の概要を話す。

「でも、農薬入りってすぐにわかるんやないのか?」

一郎はそこに疑問を持つ。

「わかるかもしれないが、殺害するのにわかるくらいのほうが犯人には好都合やった。殺害してしまえば、自分の犯行やとバレずに済むからな」

篤史が犯人が農薬だとわかってもいいと思っていたのではないかと答える。

「さっき刑事さんが言ってたけど、農薬はどこで買ったの?」

美子はどこで農薬を手に入れたのかわからずにいるようだ。

「今回の農薬はどこでも手に入れられるし、家が農家っていう場合もある」

「家が農家の場合、薬局で買える事があるが、それは証明がいるんや。しかし、今では薬局では手に入りにくいんや」

町田警部は以前の農薬の入手方法を教えた。

「でも、きちんと保管しておかないといけないんじゃないんですか?」

建人は農薬の保管方法に疑問を持つ。

「確かに農薬はしっかりと保管しないといけない。犯人はバレへんかったら大丈夫だという心理が働いたんやと思う。自殺に見せかけるために長崎さんに農薬入りのビンを持たせた。でも、よく考え欲しい。自殺するんやったらこんな人の多いファミレスで自殺なんてするやろうか? それを考えると自殺の結論を出すには無理がある」

篤史は人気の多い場所での自殺の結論はおかしいと思っていたようだ。

「確かにそうやな。この少年が言うように自殺にしては人が多い場所では不自然や」

建人は言われてみれば・・・という表情をする。

「農薬入りのビンを持たせるくらいやから犯人は長崎さんと親しい人物になるわけや」

犯人はこの中にいると言う篤史。

「犯人は誰なん?」

「長崎さんのカレーライスセットに農薬を入れて殺害したのは、津川さん、あなたや」

篤史は礼二をしっかり見据えて犯人だと告げた。

「礼二、ウソやろ?」

仲が良い一郎は礼二が犯人だと言われて戸惑いの声だ。

一郎の問いには何も答えないでいる礼二。

「津川さんは一人で厨房にいた。山口さんが盛ってくれたご飯の上にカレーをかけ、その上に農薬を大量にかけた」

「証拠はあるのか?」

礼二は黙って聞いていた口を開いて篤史に証拠の提示を問う。

「証拠はあります」

篤史がそう答えた瞬間、礼二の表情が変わった。

「それは長崎さんの手帳に貼られているプリクラです」

篤史は良美の手帳に貼られているページを開いた。礼二と良美が仲睦まじい笑顔で写っているプリクラだ。

「これはあなたと長崎さんですよね?」

「知り合いなのか?」

篤史の後に建人が聞く。

礼二は動揺した表情で何も答えない。

「このプリクラを見た瞬間、二人は付き合っているのか。もしくは付き合っていたんではないか。別れた場合、津川さんがフラれたのではないかって思った。あなたの厨房着のポケットに長崎さんと同じ農薬入りのビンが入っているんじゃないですか?」

篤史は礼二の気持ちを察しながら聞いた。

「・・・そうや。僕が良美を殺害したんや」

礼二はこれ以上、隠せないと思ったのか、小さな声で自分の犯行だと認めた。

「農薬はどうしたんや?」

「家が農家で倉庫から持ってきた」

自分の家が農家でそこから持ってきたと答えた礼二。

「良美とは同じ高校で、二年の冬から付き合い始めた。それは高校を卒業してからも続いた。でも、一ヶ月前に好きな人が出来たから別れてくれと良美に言われて別れる事になった。つい最近、慶良大学まで行った事があった。その時、男女の友達と楽しそうに歩いている良美を見た。あの中に好きな人がいるんだと思うと悔しくてたまらなかった。別れてるけど一度だけ連絡を取って、農薬入りのビンを渡し、スマイルに来てくれとお願いをしてメニューを指定した。僕は今でもこんなに良美が好きなのに・・・」

礼二は全てを認め、今でも良美の事が好きだという気持ちがある事を伝えた。

「長崎さんに好きな人が出来たというのはウソだと思いますよ」

篤史は良美の手帳を見た時に思った事を礼二に言う。

「え・・・?」

予想外の言葉に礼二はどういう意味だという目で篤史を見た。

「さっきも言うたけど、長崎さんの手帳にはプリクラが貼られている事が物語っていると思う。好きな人が出来たなら、真っ先に二人で撮ったプリクラを剥がすやろうし、連絡先も消して会う事もしない。それなのに長崎さんはそれらをしていない。・・・ということは、長崎さんもまだ津川さんの事が好きだった可能性があったと思います」

良美が手帳に貼られているプリクラの意味を篤史なりに解釈して言った。

「そんな・・・」

礼二は良美の気持ちも考えずに行動した事にショックを受けた。

「多分、一度、津川さんと別れて大学の男子を見て、自分の気持ちを確かめてみたかったんだと思いますよ」

高校卒業後、別々の進路を歩んだ自分の中に生まれた揺らぐ思いが、良美にそのような行動をさせたのではないかと思っていた。

「きっとそうなんでしょうね。店長、こんなことをしてすいませんでした」

礼二は涙目になりながら建人に謝った。

「ホンマは殴ってやりたいところやけど、今までの津川君の仕事ぶりを評価してここは我慢してやるよ」

建人は礼二のへの怒りをグッと堪えて礼二に言った。













事件が解決してから十日が経った。スマイルは事件発生二日後から営業したが、客入りはまったくなく、八月に入ってすぐに休業したのだ。

留理と里奈は部活の休みの日、美子と共に繁華街に出た。球技大会の事といい、スマイルの事といい、悪い事ばかり起こっている美子の心身が心配だった留理と里奈だったが、意外と元気そうでいた。タンクトップにデニムのスカートにサンダルを履いてきた美子がそれを象徴していた。

三人はプリクラを撮ったり買い物をしている間に昼食の時間になり、カフェに入った。

「もうすぐでお盆やね」

カルボナーラを頼んだ里奈が手を止めて言う。

「そうやね。夏休みの宿題、全然進んでへん」

留理は部活ばかりで宿題を早くやらないといけないと言う。

「私もや。そういえば、スマイルはどうなったん? 休業したやんな?」

里奈は事件後のスマイルがどうなったのかを美子に聞いた。

「うん。多分、潰れるんやないかな? 事件が起こってからお客さんが全然来てへんかったし・・・。まぁ、あんな事件が起こったし仕方ないけど・・・」

美子はせっかく始めたバイト先が事件に巻き込まれてしまい。また新しいバイト先を探さなきゃ、と答える。

「津川さんはどうなるんやろ?」

留理は礼二の今後を気にする。

「潰れたら賠償金とか払わないといけないんやないかな。店を潰した張本人やからね」

美子は想像で答える。

「それはあるかも。山口さんのほうはどうなったん? 連絡先は聞いたん?」

留理は美子の恋の行方が気になっていた。

「聞いてへん。山口さんはいいや」

美子は大学生との恋は遠慮しておくといった様子だ。

「なんで?」

里奈は口をあんぐりさせている。

「山口さんって大学生やろ? 同じ大学生はもちろん、違う大学の女子大生と合コンしてるってバイト先の友達から聞いてん」

バイト仲間から聞いた情報を二人に教える。

「合コンかぁ・・・。大学生になったらお酒も飲めるから仕方ないのかもしれへんよね。山口さんの場合、まだ一年で未成年やしお酒は飲めへんけどね。それに大学生と付き合ったところで私達は高校生やし、上手い事言って弄ばれる可能性大やもんね」

留理は何か考え深い情報で言う。

まるで大学生と付き合って弄ばれた経験があるかのようだ。

「留理の言うとおりかもしれへんね。高校生やし今しか出来ひん事をやっていこうよ」

里奈も同感したように頷いている。

「そういえば、小川君は? 部活なん?」

美子は二人に篤史の事を聞く。

「うん。三日前から大阪府内の高校のサッカー大会があって、昨日は反岡高校の試合があってんで。私は部活で行けへんかったけど、友達が試合を観に行って、反岡高校が勝ったって・・・。このまま優勝して欲しいな」

留理が嬉しそうに話す。

「そうなんやね。食事終わったしどうしよう? カラオケでも行く?」

留理の嬉しそうな表情を確認した美子は、二人にその後を聞いた後にカラオケに行きたいと自分の意見を言う。

「カラオケ、いいね。行こう!」

里奈も賛成のようだ。

三人がカフェを出ると、夏の強い日差しが照りつけた。

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