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第16話 ②

どうも作者です。

暑い・・・・

その一言に尽きる・・・

ここは高校の剣道地区大会が行われている体育館。


烈たち龍神高校は順調に勝ち進み、今日が決勝戦だった。


「面!!!」


対戦相手に打ち込む烈の声が聞こえたが、その声は少しイライラしている様に聞こえた。


結果、見事都大会への切符を手にした龍神高校だったが、やはり烈の様子が少し変だと周りもわかっていた。


「どうした烈、何かあったのか?」


いつもの4人で帰る途中、黄瀬川元春が尋ねた。


「なんでもねぇよ……」


素っ気なく返す烈。


「そうか?烈らしくないぞ」


兄の言葉に隆景も心配そうに頷く。


「なんでもないって!!」


1人飛び出した烈は3人と離れて歩き出した。


「ごめんね元春、隆景。ちょっと喧嘩しちゃってて……」


「刀耶とか?!」


「違う違う!僕じゃないんだけど2人の知らない友達だよ」


慌てて訂正した刀耶は前を歩いていた烈を見た。


「ちょっとあってね……」


「ほぉー」


心配そうに見る刀耶に、珍しいものを見る目で同じく烈を見ていた兄弟が突然走り出した。


「ちょっ!」


刀耶の制止も間に合わず元春と隆景は烈に追いつき飛び込む様に両脇から肩を組んだ。


「うぉ!!!!」


飛び込まれた烈は倒れそうになったが、何とか踏みとどまり兄弟を睨んだ。


「あぶねぇだろ!!」


「許せ烈」


「すまんすまん!しかし何があったか知らんが喧嘩したのならすぐに仲直りすればよかろう!」


笑顔で言う兄弟に烈は目を逸らした。


「そんな簡単じゃねぇんだよ……」


その言葉に芝居がかった残念顔を元春は全面に表現した。


「ほぅ……では転ばせようとした我らも許してくれぬのだな?」


そう言われた烈は驚いて元春の顔を見た。


「悲しいなぁ隆景よ。友達なら謝ったらすぐに仲直りできると思った我らが甘かったのかぁ……」


残念そうに言う元春と同じ顔をした隆景が頷いた。


「悲しいなぁ……烈に嫌われてしまったぁ……。では刀耶と帰ろうか隆景よ」


兄弟は烈から腕を外し、刀耶のもとへと歩いていく。


「……待てよ!!」


烈は難しい顔をして考え、我慢できなくなったのか2人を呼び止めた。


「……俺も悪かったよ!」


兄弟は直ぐ様振り返り烈の所にいき、肩を組んでまた4人で歩き出した。


「で、誰と喧嘩したんだ?」


「お前らの知らないやつだよ……」


「彼女か?」


「ばぁか、いるわけねぇだろ」


怒りながらも少しだけいつもの烈に戻ってきたのを見て刀耶も少し安心していた。


------------------------------


「さぁあなたの不幸を見せて・・・」


湖上都市の闇の中で女性の声が響いた。


「あ・・・あぁ・・・・」


聞こえたのは男の声だが、その声に意思はなかった。


「・・・こんなに・・・がんばっているのに・・昇進できない」


「それは誰のせい?」


「上司が・・・手柄を・・・」


「そう・・・大変だったわね」


女の声は闇の中で優しく響き、男のすすり泣く声が聞こえた。


「じゃあ恨みを晴らさなくちゃね・・・」


「は・・・い・・・グ、ググググ」


「心が抑止していた感情をすべて爆発させるの・・・」


「グギャーーーーーーー!!」


闇から生まれた人の形をした怪物はその姿をどんどん大きくしていった。


----------

「おかえりなさいませアンフェア様」


夜の灰色の島の陸地でバトラーが出迎えた。


「戻ったわ・・・」


アンフェアはその黒い髪を海風に当てバトラーの横を通り抜ける。


「何か用?」


「私にも何かお手伝いができたらと思いまして」


「必要ないわ・・・」


「畏まりました。してそのお守りはどうなされたのですか?」


バトラーは腰についていた家内安全のお守りを見て不思議そうに言った。


「・・・貴方には関係ないでしょ」


「アンフェア様はほかの御方と少し違う生まれ方をしたと聞いております」


その言葉を聞いてアンフェアは立ち止まった。


「それが?」


「まだ人の心をもっているので・・」


「それ以上言うと殺すわよ」


表情からは想像できないほど強く殺意がこもった言葉にバトラーは膝をついた。


「失礼しました」


「貴方が何者なのか知らないけど、私たちはアダムのもとでこの世界を変えようとしているの。貴方もアダムの駒でしかないの」


「承知しております」


「疲れたわ」


「はい。おやすみなさいませ・・・」


アンフェアの気配が完全に地中に消えたのを確認したバトラーはゆっくりと立ち上がった。


「・・・・誰のおかげだと思っている」


苛立ちにも似た言葉が紡がれ闇の中に溶け込んでいく。


「お前もいずれあの2人のように・・・フフフ」


バトラーの手には暗さを以前よりもました黒いオーラが握られていた。


-------------


夏の蒸し暑い夜、部屋にそよそよと流れてくる風がカーテンを押すのを、烈はベットの上から眺めていた。


リーンリーンと秋の虫も鳴き始め、夜も段々と寝やすくはなったがまだまだ額に汗をじんわりかいていた。


(お前が兄貴とパートナーになるまで俺はお前と話さない!)


ガイアに言ってしまった言葉が胸に響く。


どうしてあんな事を言ってしまったんだろう……


当然兄である翔がガイアの本当のパートナーであることには驚き負けた気持ちになったが、アレスやガイアが言ってくれたことが嘘ではないことがわかったのでそれほど気にはしていなかった。


問題なのはガイア自身のほうだった。


あまり口には出さなかったが、ガイアは1人でこの大きな問題を解決したいと思っているのではないかと最近気付いた。


ヘルメスもそうだがガイア自身から弟たちに連絡は取らなかったし、自分にしてみてもガイアは絶対守ると言ってくれた。


最初はその意味を素直に受け止めていたがファットとの戦いで意味の違いに気付いた。


なぜあの場でアレスのもとへ行かせたのか、それは烈の身に危険が及ぶかもしれなかったからだ。


それほどの強敵であったファットにガイアは1人で立ち向かった。


結果的にアレスと助けたものの、ボロボロになりそれでもファットと戦おうとした。


だから研究所でガイアに1人じゃないと言ったのだ。


自分には私が守ってやるといいながら、自身を守らない事に烈は怒った。


ヘルメスやアレスもそんな兄の性格をわかって来てくれたのだろうがガイア自身はあまり弟たちに迷惑をかけたくなかったみたいだった。


そんなガイアに一発拳をお見舞いしたのだ。


まだガイアは1人で背負い込んでいる。


烈もそんなガイアの力になれていないことに腹が立ち、自分にもう少し力があればと思った。


ドラッグの時でもそうだ、泣いているガイアに近づく事すらできず友達として支えてあげられなかった。


そんな時ふと烈は思った。


(兄貴はなんで断ったんだろう?)


あの兄なら2つ返事で受けてくれそうなのにガイアだけはなぜダメだったのだろう……


(なんでだ?)


考えても答えが出ない。暑さのせいもあるがややこしく考える事が得意ではない烈の頭にヘルメスの言葉が思い出された。


(信じてあげればいいんだ!)


そう、東京散策の帰りに言われた言葉だ。


兄を信じ、自分の見てきた兄を見せることこそ兄の為になる。


そう言われたことはまだ新しいが、烈はその言葉を信じたかった。


(そうだ、兄貴はガイアの性格をわかってたんだ!だから最初からパートナーにならなくてガイアに1人ではないことを教えてやりたかったんだ!)


本当はそうではなかったが翔に対する憧れから烈はそう思うことしか出来なかった。


既に兄の心は限界を越えていて、それを隠そうと努力していることに烈は気付いてなかった。


(なら早く兄貴をガイアに会わせないとな!!)


ピピッ!!!ピピッ!!!


突然腕時計から時刻を知らせるには少しうるさい音が鳴った。


烈は飛び起き腕時計に向かって小さく話し出した。


「どうしたガイア!」


「大変だ烈!町に怪物が……」


ガイアの声が突然聞こえなくなった。


「どうしたんだガイ……あっ……」


いつもと同じように話していたが、喧嘩をしているのを2人はすっかり忘れていた。


本当ならここで謝ってもいいのだが2人はまだ自分の答えに行き着いていないのか黙り込んでしまった。


「何してるんだ兄貴!しょうがねぇな!烈、俺が行くから外で待っていてくれ!!」


突然アレスの声が聞こえ烈は驚いて返事をした。


烈が用意をしていると向こうで健太郎も美穂に手伝われて用意をしていた。


烈は部屋から飛び出し健太郎より先にアレスに言われた場所まで走っていった。


「父さんどうしたの?」


慌ただしい様子に翔も心配になり健太郎の部屋へと来ていた。


「怪物がでた!翔はみんなを頼む!」


「気を付けて!」


「まあ父さんは戦わないから大丈夫さ!」


そう言って健太郎は家を飛び出していった。


見送った翔は自分の部屋に帰る途中ふと烈の様子が気になり部屋を覗くとそこに烈の姿はなかった。


急いで家中を探したが見つけられず最後にもう一度烈の部屋に戻っていない事がわかると途端に不安になった。


「翔ちゃん」


振り返るとそこには美穂がいた。


「母さん、烈がいないんだ!」


「大丈夫よ、すぐに帰ってくるわ。それより健太郎さんが帰って来た時のご飯を作るの手伝ってくれる?」


美穂は自分のお腹をさすりながら言った。


まだ表面的にはわからないがそこには確かに命があった。


「烈も頑張っているの、だから許して上げて」


母親らしい落ち着いた優しい声を聞き、翔は少し恥ずかしくなってしまった。


「……わかったよ」


「ありがとう翔ちゃん」


翔は久しぶりに母に頭を撫でられた。


その行為を恥ずかしいとは思わず、懐かしく嬉しいと思える自分もいた。


「母さんも無理しないでね」


「わかってるわ」


2人は台所に向かい、仲良くおにぎりを作った。


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