第14話 ③
「その程度か・・・」
「くっ・・・」
ファットの前には地面に倒れているアレスがいた。
「アレス!」
アレスを守るように獅子の爪がファットを襲う。
「邪魔だ・・・」
ファットが手を振るとまたも見たこともない金属のようなものに阻まれた。
ブヒィヒーーーン!!
「がぁーーーー!!」
攻撃を防がれた獅子は横から来た馬の突進を受け跳ね飛ばされた。
ファットが乗ってきた馬は最初は普通の馬より少し大きい体をしていたが、今は獅子と同じくらいの大きさになり、その力をさらに増大させていた。
「レオ・・・ぐふぁ!!」
倒れながら獅子を見ていたアレスのの背中をファットは足で押さえつける。
「以前はあんなに威勢がよかったではないか・・・」
アレスの背中を押し付ける足に徐々に力を込める。
「ぐっ!がっ!」
「つまらんな・・・」
ファットは足を少し上げ、その足に先ほどの金属を棘のようにして纏わせた。
「では次にいくか・・・」
その足を振り下ろそうとしたとき空からミサイルが降ってきた。
「なんだ・・・?」
咄嗟にアレスから離れたファットは空を見た。
そこには巨大なロボットとジェット機がこちらに向かってきていた。
「あれは・・・機械人形!」
今までつまらなさそうな顔をしていたファットの口角が上がった。
「烈、私があいつを押さえておくからアレスを頼む!」
「合体は大丈夫なのかよ?!」
「少しの間ならこの姿でいられる!今はアレスが優先だ!」
「わかった!!」
烈が構えるとガイアはヘルメスに掴まっていた手を放した。
「ヘルメスはあの馬を!!」
「わかったよ兄さん!!」
ヘルメスはそのまま獅子に追い打ちをかけようとしていた馬に向かって猛進した。
「アレス!!」
アレスの向こうにいるファットを見据え、剣を構えるガイアは両者の間に着地した。
「兄貴・・・」
「まったくお前は無茶をして!烈、頼んだ!」
そういうとガイアの背中から光が差し、そこから烈の姿が現れた。
「アレス!一先ず逃げるぞ!」
烈はアレスに肩を貸し近くのビルの陰に逃げ込んだ。
「やっと来たか機械人形!」
ファットは笑いながらゆっくりとガイアに近づく。
「弟が世話になった。だがそれもここまでだ!」
「本より我の目的はお主だけだ!さぁ始めよう機械人形!我の名はファット!!」
ファットが拳を作りそこに未知の金属が張り付くと、そこに黒いオーラを纏わせた。
「いくぞ!」
ガイアも剣を握り直しその拳に応えた。
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「アレス!アレス!」
アレスの体を揺さぶる烈。
「馬鹿野郎・・・そんなに揺らすんじゃねぇ・・・」
力なく答えたアレスは自分の体を眺めた。
ボロボロに体は埃まみれで深紅の輝きは黒くくすんでいた。
「なんですぐに助けを呼ばなかったんだ!」
烈が怒ったように言った。
「怒んなよ・・・。お前でも呼ばなかっただろ?」
「そんな事!」
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「アレス、なんで今日ガイアたちに助けを求めなかったんだい?」
「それは・・・」
「下手をすればケガだけではすまなかったんだよ?」
「はい・・・」
「ガイアたちが嫌いかい?」
「違います!」
「じゃあなんでだい?」
「それは・・・悔しかったから・・・いつも兄貴たちに頼ってるから・・・」
「ガイアたちに負けたくない?」
「ヘルメスには絶対負けたくない!でもガイア兄さんには勝てない・・・」
「そっか・・・。アレスはもっとみんなを頼っていいんだよ?」
「でも!」
「父さんだってみんなに頼ってばっかりだよ?アレスは十分優秀さ!」
「はい・・・」
「本当に危ないときは誰かを頼りなさい。アレスが怪我をしたらガイアたちも悲しむよ」
「は、はい・・・」
「よし!いい子だ!!」
「や、やめてくれよ博士!!」
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「あの時博士に言われたんだけどな・・・」
「えっ?」
ボソッと言ったアレスの言葉が聞こえなかったのか烈が耳を近づける。
「烈・・・、頼みがある」
「なんだ?」
「俺のパートナーになってくれ・・・」
言われた烈は驚いた。
「いや・・・だって俺はガイアの!」
「俺のパートナーは最初からお前だ」
「じゃあガイアのパートナーは?!」
そう言って烈はいつぞやの言葉を思い出した。
そう、レガシーが初めて現れた日・・・
『ありがとう烈・・・、これが終われば全て話そう。話すのは2人目だが最初の彼は受け入れてくれなかった。しかし君ならば大丈夫だろう・・・。我が名は“ガイア”!大地とともにこの星を救う者!!さあ叫べ!“エレメンタルチェンジ!”』
「“2人目”・・・」
その時烈のふと脳裏に1人の少年が浮かんだ。
俯く烈の肩にアレスが手を置く。
「兄貴も悪気があったわけじゃない。お前が必要だから助けを求めた。そして今、俺はお前に助けを求めている」
(そうか・・・そうだったのか・・・)
「答えてくれ烈!今だけでもいい!兄貴を助けたいんだ!」
アレスが必死に頭を下げる。
「アレス・・・ガイアの本当のパートナーは“兄貴”なのか?」
「・・・そうだ」
烈の問いにアレスは正直に答えた。
「アレス、1つ教えてくれ。俺はガイアのパートナーとして不十分だったのか?兄貴の方が優秀だから・・・俺は兄貴に“負けてたのか”・・・」
烈は思った。もしガイアに乗っていたのが兄だったら・・・
パワードとの戦いのときにあんなに苦労しなくてよかったのではないだろうか・・・
ドラッグとの戦いでもすぐにガイアを目覚めさせられたのではないかと・・・
兄ならもっと、もっと自分よりうまくできていたはずだ・・・。
「それは違う」
アレスが即答した。
「お前は兄貴の頼みにすぐ応えてくれた時点ですでに勝ってる。それにお前が兄貴の力を出し切れてないんじゃない、兄貴がお前の力を出し切れてないんだ。
お前の力を出し切れるのが俺で、俺の力を出し切れるのがお前だ!!」
自身の額を烈の額に打ち付けたアレスはまっすぐに烈の目を見た。
「お前の人生の主人公は誰だ!俺の兄貴か、お前の兄貴か?違うだろ!お前だ!!だから自信を持て!!」
アレスの必死の言葉に烈の目に涙が浮かぶ。
「・・・なに泣いてるんだよ」
「お前の頭が固いんだよ・・・」
フッとお互いに笑った。
「じゃあ行くぞ烈!」
「あぁ!!」
烈はアレスを背負った。
「烈、あの車だ」
アレスが指さすそこには1台の車が奇跡的に無傷で止まっていた。
赤いボディにスポーツカーらしい流線型の形、今では珍しいガルウイングのドア。
「あれか!お前らしいな!」
「そうだろう?!お前もわかってるじゃないか!」
「ガイアの体を見つけるとき色々言われたからな!」
烈はその背中にアレスを乗せ走った。機械の体はとても重く足が悲鳴をあげる。
ドゴォーーン
近くではガイアが闘っているのか地面が大きく揺れ、足が瓦礫にとられそうになる。
それでも烈は走るのを止めない。
(アレス・・・ありがとう)
烈は思った。
いつも兄貴と比べられてきた人生。何かある度に兄貴、兄貴・・・。
本当に嫌だった。
でも兄貴がいなくなればいいなんて一度も思わなかった。
俺にとって兄貴はヒーローだったんだ・・・。
小さいころはヒーローになろうって思ってたけど、
今はそのヒーローを見ている人になろうとしていた。
俺は、もう少しでまた兄貴に負けそうになってた。
それをアレスがまた俺にヒーローになれと言ってくれた。
ガイアには後でみっちり言わなきゃならねぇ!
まあガイアにも感謝はしてるけどな!
「烈!危ない!!」
アレスの言葉に列が横を見るとビルの外壁が大きな塊となって烈たちに向かって落下してきていた。
「こんなところで負けるかよぉ!!」
叫ぶ烈は脚に力を込めスピードを上げた。
瓦礫が直上に迫ると烈は最後の力を振り絞って飛んだ。
バァーーーーン!!
地面に落ちる瓦礫の先に烈は倒れ込んでいた。顔から地面に飛び込んだ烈の頬には血が流れていた。
「烈っ!!」
背中でアレスの声がする。
「大丈夫だ・・・」
そういって足に力を入れフラフラと立ち上がる烈は新たなアレスの体に向かい歩く。
自身を取り戻させてくれた新友の為に。
そして非力な自分を支えてくれた友の為に!
車に手をついた烈にアレスが叫んだ。
「いくぞ烈!!!」
「「エレメンタルコネクトォ!!!!!!!」」