第11話 ③ 工事中
EBでは警報がけたたましく鳴り、平穏な空気は一瞬で緊張へと変わっていた。
「人工島においてレガシーの反応を発見。ヘルメスさんはスクランブル!ガイアさんはサポートをお願いします!パートナーへの連絡はこちらでしておきます」
ミーナの真剣な声が地下空間全体に響き渡る。
「ヘルメス!」
「オッケー兄さん!」
さっきまで姿が見えなかったガイアが突然飛び込んで来るとヘルメスも飛び上がり準備を始めた。
「健太郎、グランガイアは?!」
「一通りは大丈夫だが無理はしないでくれ!」
ほとんど直った相棒をチラリと見たガイアはその新品のような輝きに口角を上げた。
「ありがとうみんな!」
そう言うとガイアはヘルメスとともに技術開発課を飛び出していった。
外に出るとヘルメスは変形しカタパルトに向かいスピードを上げていると通信が入った。
「ヘルメスさん、敵をなるべく被害の少ないところに運んでください!頼みます」
「わ、わかりましたミーナさん!僕、頑張ります!」
「応援してます!」
音声の向こうでミーナが拳を握っているのを想像してしまい、すでに見えていない顔が緩んでいく。この気持ちの高ぶりは余計なことまで喋ってしまいそうになる。
「は、はい!ありがとうございます!」
カタパルトに収まったヘルメスは上機嫌で刀耶に連絡をとった。
「刀耶!準備はいい!!」
「大丈夫だよヘルメス!何かあった?」
「わかる?今日の僕はいつもより調子がいいよ!」
ヘルメスはすでに自分に任せられた射出のタイミングを
『ゆ っ く り』
ミーナの声に兄の言葉を思い出してしまった……。
「そりゃ私も開発に手を貸しているからね。娘みたいなものだよ」
「兄さんがお父さんってややこしくない?」
「まだ私は許してはいないよ。もういいから行っておいで。You have control!」
「I have!こりゃ大変だ・・・。ヘルメスいきます!!」
勢いよく飛び立つヘルメスの横で後藤が見送っていた。
「私は留守番か・・」
町では犬と鳥の2頭を持った怪物が暴れていた。体は犬だが背中には翼が生えている。
「ワオーーーン!!」「キュイーーーーーー!!」
それほど大きくはないが建物に突進しては執拗に壊していった。
「よいぞーもっとやれー」
その上空では太った男がその様子を気だるそうに眺めていた。いつの間にか豪華な椅子はふわふわなソファになっていた。
「来ぬなー機械人形・・・まあ食べて待つか・・・」
着ていた服の中からお菓子の袋を取り出しバリボリと食べだす男をよそに怪物は暴れまわる。
「ヘルメス、そろそろだよ!」
ヘルメスが現場に到着すると、そこには犬と鳥の頭を持つ怪物が暴れていた。
「犬・・・」
「どうしたのヘルメス?」
ヘルメスの不安そうな言葉に刀耶が尋ねた。
「刀耶・・・あれ捕まえるの?」
「もちろんだよ!えっ?もしかしてヘルメス・・・」
「犬恐い・・・」
「博士ーーー!!」
「どうしたヘルメス?!」
「そ、外に4本足の口が尖った猛獣が!!」
「ん?どれどれ・・・あれは犬か?」
「外で遊んでて!あいつ見つけてちょっと、ちょっとだよ!!からかったら仲間よんでさ!!僕を追いかけてきたんだ!!」
「ハハハハ!それでここまで逃げてきたと?!」
「笑い事じゃないよ博士!!ホント恐かったんだから・・・」
「でも噛まれても痛くないし、たぶんヘルメスの方が強いぞ?」
「恐かったんだよ!!あの目みた!!殺気に満ちたあの目!!僕は兄さんみたいに強くないの!!恐かったんだよ博士ーーー!!」
「そうかそうか!よしよし泣くな。ん?ヘルメス見ろ。“アレス”だ」
「ほんとだ・・・。全部追い払っちゃった・・・。あ、来た」
「ヘルメス何やってるんだよ!犬くらいで怖気づくなよ!やっぱり俺のほうがアニキじゃねえのか?!」
「違うよ!!僕のほうが早く生まれたんだから僕がお兄ちゃんだよ!!」
「ほらほら喧嘩しない」
そのころガイアも現場に大急ぎで急行していた。
「相手は犬型だと?ヘルメスは大丈夫なのか?」
「なにかあるのかガイア?」
烈の言葉にガイアが黙ったが、少し待って口を開いた。
「ヘルメスは犬が嫌いなんだ・・・」
「ムリムリムリムリムリーーー!!」
「わがまま言わないでヘルメス!このままじゃ町が!」
ヘルメスは怪物の上を何度も旋回して駄々をこねていた。
「じゃあ鳥の方を持てば・・・」
「じゃあ犬がガラ空きじゃない!!あの目見た!あの時といっしょだ・・・。」
「でもこれじゃ被害が増えるばっかりだよ!ミーナさん紹介してもらったでしょ!!」
「くっ!痛いところついてくるね刀耶・・・」
ヘルメスは困ったように怪物に向き直ると刀耶がダメ押しをした。
「それにここでかっこよく倒せばミーナさんも喜んでくれると思うなー?」
「くっ!!!わかったよ・・・。いくよ刀耶!!ん?なんだあれ」
ヘルメスが上を見ると遥か上空、宇宙から何かが飛来していた。