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第10話 ②

黄瀬川兄弟と別れた後、烈と刀耶は電車に乗り家の近所まで戻ってきた。その頃には陽が赤く傾き、人々は家への道を歩いていた。


「そういえば烈、ちょっといい?」


刀耶の言葉に烈は声だけで答えた。


「烈ってさ、恐いと思ったことある?」


「じいちゃんの拳骨」


そうじゃなくて、と笑いながら刀耶はまた聞く。


「レガシーと戦ってて恐くなかった?」


「そりゃ恐いさ!」


前を歩く烈は振り向くこともせずただ歩いている。


「じゃあどうやってそれを克服してるの?」


ふと立ち止まった烈に並ぶと空を見上げて考え込んでいた。


「そうだな……たぶんみんながいたから大丈夫立ったんだと思う。最初に獅子神さんにも言われたけど一人じゃないってことをずっと言われた気がする」


「僕言われなかったんだけど……」


そう言うと烈は大笑いして肩を組んできた。


「そりゃ刀耶は大丈夫だと思ったからさ!俺とは違って頭も良いし、しっかりしてるし」


「僕はそんなに強くないよ。烈のほうがずっと強いよ」


二人はまた歩き出した。


「でもさっ、刀耶は自分でヘルメスのパートナーになるって決めたんだろ?それはすごいと思うぜ!」


「でも烈だって……!」


烈は首を横に振った。


「俺のは自分が助かりたいと思ったから。今はガイアと一緒に守りたいと思ってるけどよ。……まぁ刀耶も相談があるならみんなに言った方がいいと思うぜ。たぶんみんな驚くけどよ!」


ニッコリ笑う烈に刀耶も笑顔を見せた。


「最初は立花さんもいたからよかったけどその後に戦ったとき本当に恐いと思ったよ。でもヘルメスが教えてくれたんだ。「一人じゃない」ってさ。だから僕も頑張れるなって思ったんだ」


「そうか!じゃあこれからもよろしくな刀耶!」


絆が深まった気がした。同じ目標を追いかけ、互いにそれを話し合えることができるようになったのだ。


「うし!じゃあ帰ろうぜ。今日は晩飯なにかなーーー!」


近所から匂う夕飯の香りが二人の腹に問いかけ、自分の家の夕飯が何なのか想像を掻き立てられる。烈は魚、刀耶はスパゲッティを思い浮かべ家路を急いだ。


------


次の日の朝


龍神町のある路地裏で怪しく蠢く黒い物体が路地いっぱいにその体を広げていた。


ドクン、ドクン


鼓動のように一定のリズムを刻むそれに耳を近づけると鼓音の他に人の呻き声のようなものも聞こえる。


「フフフッフッフッフフフ~♪」


機嫌よく鼻歌を刻むドラッグはアダムからもらった薬煙草にゆっくりと火をつけた。


「そろそろですね~。あいつの“抗体”もできましたし、後は撒くだけ、楽しみですね~。やっと戻りますよ~この星のあるべき姿に……。さぁ!!イクゼーーーー!!!!!」


ドラッグは黒い物体に向け拳を放つと一瞬ビクっとした物体が形を変え始めた。黒き大きな塊はガイアによって抑制されてきた憎悪を集めたもの。ガイアの力は既に薬によって中和され今まで感じたことのない感情が爆発してしまったからできたもの。獣へと回帰してしまった人はもう戻れはしない。



同時刻、アースベース司令部。


「長官!都市部で巨大なレガシーの反応を突如発見!!」


モニターを見ていた職員が叫ぶと司令区画にいる獅子神は驚いて立ち上がった。


「いきなりか?!なぜわからなかった!」


「それが……直前の衛星写真にも写っておらず突然街中に黒い物体が現れて……」


「そんなわけないだろう!!監視がそれでどうする!!」


いつもより声を荒げる獅子神に慌てる職員は慌てて機器のチェックを始めた。獅子神はドスンと椅子に座り込むと急くように肘掛けをカツカツと鳴らした。そこに健太郎が現れるが獅子神は一瞥しただけでその表情に変化はない。


「長官、彼に非はありませんよ。恐らく奴らの妨害だと私は考えます。衛星が壊された今、我々は後手に回るしかないのです」


「しかし……!」


「長官、失礼ですがこのところ疲れていらっしゃるようです。いつも笑顔の長官がそんな顔をしては我々とてミスをしてしまいます」


「だが……敵は待ってはくれないんだ!」


「準備はできます。今回はそれができていなかった。我々みんなの責任です。もう一度言います、彼のせいではありません」


獅子神はこのところ少し焦っていた。レガシーが本格的に動き出したことでEBに足りないものがたくさん出てきたからだ。健太郎の言う通り疲れもあった。頭の容量は多い方だが現状それでも足りていない。余裕がなくなった自分がこうも無様になるとは自分でも恥ずかしいと獅子神は思った。


「すまなかった……」


「私に謝らないでください」


「……そうだな。すまなかった大野君!後で何か奢らせてくれ!」


大野と呼ばれた職員は笑顔で振り向き返事をした。その瞬間場の空気がいつもの感じに戻った。獅子神は大きく息を吸うといつもの優しく逞しい声で言った。


「EBF緊急招集!後藤君とヘルメス君にスクランブル!赤兎烈君と蒼井刀耶君に連絡を!レッドケース!」


その声にヘルメスが惚れた声が答える。


「了解!EBF緊急招集!Jウイング、ヘルメスさんにスクランブル!!状況レッド!繰り返します。状況レッド!!」


慌ただしく動く職員に対し、獅子神は近くにあった椅子にゆっくりと座った。


「赤兎君、ありがとう」


「長官・・・。お気持ち察します。しかし長官はいつものように笑って指示を出してくれるほうがいいと思います。皆も長官と同じ気持ちです。私だっていつもアラートが聞こえるたびに足が震えます。だから長官、自信を持ってください!」


健太郎が拳を作って言うと獅子神も笑顔になった。


「では、失礼します!!」


父親と言うのはあれほど強いものなのか。自らは結婚もしておらず天涯孤独を貫くと決めたときから知ることもないと思った気持ちだ。歳はとったが経験がまだ足りぬと思う獅子神に上からアースの声がかけられる。


「皇一郎、大丈夫ですよ」


「すまないねアース。年をとるとせっかちになっていかん」


冗談めいて獅子神が言うとアースは笑った。


「私のほうが年上ですよ。それに焦るという事はまだ若いという事だと私は思いますけどね」


歳は取りたくないなと二人は笑った。



その頃ドームの外ではヘルメスと後藤がカタパルトで発進の合図を待っていた。


「後藤隊長、相手はとても巨大なようです。ボルトを広範囲に打ち込んでもいいと許可も得ました」


「それは助かる!」


緊迫した声は後藤の手にも力を入れさせる。


「ヘルメスさん、現場に行く前に蒼井さんと合流してください。住民の避難が完了次第、迎撃も構わないとのことです」


「わかりました!一つ質問が……」


ヘルメスであっても気にすべき相手なのだと誰もが思っていた。が……


「名前は……?」


「えっ……現れた敵に関しては特に決められてません」


「違います。貴女のお名前です」


緊迫した空気が台無しだった。


「えっと……今ですか?」


「もちろん。言ってくれるまで僕は発進しません」


真面目な声でそんな事言わないでと刀耶の頭を抱えていた。


「えっと……今はちょっと……帰ったらでいいですか?」


それを聞いた途端にヘルメスのエンジンが火を噴き始めた。


「約束ですよ!!よしいくよ刀耶、隊長!!」


完全に発進のタイミングを遅らされたJーウイングのエンジンに火が入った頃にはすでにヘルメスは地上と地下の真ん中くらいまで行っていた。


「緊張して損したぜ……。Jーウイングでるぞ!!」


Jーウイングが浮き上がった頃にはヘルメスは地上へと少しのところであった。追いかける後藤の手は強く操縦桿を握っていたが先ほどの無駄な力などは入っていなかった。


「刀耶!帰ったら一緒に会ってね!」


「わかったよ。でもまずは帰らないとね!」


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